二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~

2026年2月12日(木)更新

開会式に「誰も寝てはならぬ」
甦る荒川静香のイナバウアー

日本時間の2月7日に開幕したミラノ・コルティナ冬季五輪は、開会式からして異例でした。ミラノ、コルティナ・ダンペッツォ、バルテッリーナ、ディ・フィエンメの4会場で行なわれ、ミラノとコルティナ・ダンペッツォの2都市の聖火台に火が灯りました。複数会場での開会式、複数都市での点火は、夏冬通じて、いずれも五輪史上初めてでした。

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盲目のテノール歌手

 ミラノでの開会式は、世界的な名門サッカークラブ、インテル・ミラノとACミランが本拠とする「スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ」(通称サン・シーロ)で行なわれました。スタジアムに名を刻むジュゼッペ・メアッツァさんは、ACミランでもプレーしたことがありますが、その多くのキャリアをインテルで過ごし、同クラブの指揮も執ったレジェンド。そのためインテルのサポーターが「メアッツァ」と呼ぶのに対し、ACミランのサポーターは「サン・シーロ」と呼ぶ傾向にあると言われています。

 聖火リレーには、セリエAでの20年のキャリアを、全てACミランに捧げたフランコ・バレージさんと、インテル一筋20年のジュゼッペ・ベルゴミさんの姿がありました。

 トーチを掲げる2人の横で美声を響かせたのが、イタリアの盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリさんです。ボチェッリさんは、2006年のトリノ冬季五輪の閉会式で、自らが作詞した「Because We Believe」を情感たっぷりに歌い上げました。

 歌の最後はこうです。
 ♫空に広がる星のように
 私たちは 輝くために生まれたんだ
 しっかり抱きしめるために
 君は勝利を手にしなくては
 そして君は勝つだろう

鍵山優真への期待

 あれから20年の歳月が流れました。今回、歌い上げた曲は、ジャコモ・プッチーニ作曲の歌劇「トゥーランドット」の「ネッスン・ドルマ」(誰も寝てはならぬ)でした。

 時は18世紀。中国の冷酷な王女トゥーランドットは、求婚者に3つの謎をかけ、答えられなければ処刑すると告げます。異国の王子カラフは、見事に謎を解きますが、王女は結婚を拒否します。そこでカラフは、「夜明けまでに私の名前を当てたら、私は死のう」と命がけの提案をします。王女は「誰も寝てはならぬ」と命じ、民衆に王子の名前を調べさせます。

 夜明け前、カラフは強引に口付けをし、王女の「氷の心」を溶かします。

 <夜よ、失せろ! 星たちよ、沈め! 夜が明ければ、私は勝つのだ!>

 トリノと日本の時差は8時間。20年前、夜明けとともに、日本に金メダルをもたらしたのがフィギュアスケート女子シングルの荒川静香さんでした。

 フリーで21番目に登場した荒川さんは「トゥーランドット」の曲に乗り、冒頭で3回転-2回転の連続ジャンプを決めます。さらには上体を大きく反らせる「イナバウアー」。続いて3回転-2回転-2回転の3連続ジャンプを決めると、アリーナはスタンディングオベーションに包まれました。

 トリノからミラノへ。20年の歳月を経て、鍵山優真選手が、フリーでこの曲を甦らせます。米グラミー賞受賞歴がある作曲家クリストファー・ティン氏がアレンジを担当しました。一瞬たりとも目の離せない4分間になりそうです。

二宮清純

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