『サイボーグ009』オーディションの
後日談
![声優・井上和彦](/special/tv/vod/minogashi_anime/images/interview/inouekazuhiko_1/img_04.jpg)
――駆け出しの頃、ご自身として転機になった作品というと?
井上:いちばん大きいのは『サイボーグ009』だと思います。その前には、『超合体魔術ロボ ギンガイザー』でも主人公をやらせてもらってはいましたが、『サイボーグ009』の主人公・島村ジョーって、それまでの「ザ・主人公」みたいな男の子たちと違って、ナイーブな内面を抱えている主人公だったんですよ。
そこでの演技や声のイメージが、声優・井上和彦のイメージとして、広がっていったのではないかと思います。
――島村ジョーの役はどんなふうに決まったんですか?
井上:その時のオーディションは結構難航していたようで、その役が全然決まらなかったそうなんですね。散々オーディションをして、それでもしっくりくる人が見つからないから監督が困っていたそうです。
それで、僕がオーディションに行ったら、まだ演技もしていないのに「君だ!」って言われて。
――すごい、選ばれし感……(笑)。
井上:これは後日談として、つい最近知ったことなんですけど、じつは監督が言うには「会った瞬間に決まっていた」そうなんです。
というのも、いろいろな人のオーディションをしてもなかなか決まらないときに、『サイボーグ009』の原作ファンの子が「井上和彦さんの声をぜひ聞いてください」という手紙を、わざわざ監督まで送ってきてくれたそうなんですよ。
そこで、監督は僕の存在を初めて知って、オーディションに呼んでくれたそうです。
――その方、すごいですね……! 脳内でのキャスティングのクオリティが高い(笑)。
井上:確か、その方は『キャンディ♡キャンディ』のアンソニーを観ていて、「井上和彦は島村ジョーに合う」と思ってくれたらしいんです。どんな方なのかは存じ上げないのですが、すごく感謝しています。
――『風まかせ』の中には、「『加速装置ッ!』というセリフがアドリブだった」というお話しもありました。
井上:そうそう、元々は台本に書いていないセリフだったんです。
当時は、ロボット系のアニメが結構たくさんあって、先輩方が技名を言う場面を何度も目の当たりにしていたんですよ。だから、僕も「何か言いたい!」と思って。
その前に主人公をやっていた『超合体魔術ロボ ギンガイザー』でも、変身したり、技を出したり、いっぱい叫ぶシーンがあったんです。「叫ばないと、アフレコした感じがしない」というほど、叫びグセがついていたというか(笑)。
――ロボットアニメ全盛という感じがしますね。
井上:そんな時代だったので、『サイボーグ009』でもやりたくなっちゃったんでしょうね。テストのときにいきなり言ってみたんです。
「要らなかったらカットしてください。本人がその気になりたいだけなので!」とか言いながら何回もやっていたら、そのうち制作側も「しょうがないな」って(笑)。
![声優・井上和彦](/special/tv/vod/minogashi_anime/images/interview/inouekazuhiko_1/img_05.jpg)
――そのセリフを言うことで、井上さん自身が島村ジョーの気持ちに入るという、意味もあるんですね。
井上:それも、少しあります。
それで収録3回目、だったかな。台本に「加速装置ッ!」って書いてあって「よっしゃー!」と(笑)。
――ついに、公式に認められた……! 勝手なイメージですけど、その時代の方が声優のみなさんアドリブが多いような気がしているんですが、実際はどうだったんですか?
井上:多分ですけど、あの頃の作品の方がアドリブを入れる隙間がたくさんあったんだと思います。いたずら心で入れた言葉が、採用されちゃったりね。
今、かなり細かなところまで作品が作り込まれているので、アドリブを入れるだけの余裕が作品側になかったりするんですよね。その中で「余計なことを言う」というのがアドリブだとしたら、あまりそういうものはなくても成立してしまう。
もちろん使ってもらえたら嬉しいですけど、それだけが狙いではなくて、アドリブを入れると現場の雰囲気がよくなったりもするんですよ。
なので、「スタジオの雰囲気がよくなればいいな」と思いながら、めげずにアドリブを入れていってます(笑)。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃