寧々は、物語の明暗のバランスをとってくれる存在

――声優として大きく成長できた経験となったすごく素敵な話ですね。それがまた、地声とは一番かけ離れた「八尋寧々」だったというのも面白い(笑)。
鬼頭:年齢も15歳でこの声のトーンだから「そのトーンから外れないように」というのを、第1期の頃はずっと気に留めながらお芝居をしていた。だけどそれから4年間で「そこまで声を作らなくてもいいのかな」と思うくらいには、私自身も変わりました。
基本の軸が定まっていればたまに低い声が出たっていいし、「寧々の声帯は私の声帯」でもあるから、ちょっとくらい外れたって大丈夫。声を作ることよりも感情を大切にする。そう思えるようになってからは、もっと自由に楽しくお芝居ができるようになった気がします。
――同じ八尋寧々というキャラクターでも、第1期と第2期で鬼頭さんの心持ちは変わっていたんですね。ちなみに役作りという意味では、第2期はどんなことを意識してのぞんだんでしょうか?
鬼頭:第2期が始まる前の打ち合わせで、みんなで話しているときに監督から「第2期はずっと重たくてシリアスだけど、寧々だけはコミカルに、明るくしたい」と言われたんです。
たしかに、私もマンガを読んでいて「寧々の明るさがあるから、物語が重たくなりすぎなくて助かる部分があるな」と感じていました。だから、ほかのキャラクターのダウナーな感じに引っ張られないように。そこは監督のいうお芝居になるように、意識してのぞみました。
――そうやって作品全体のバランスを取っていたんですね。作品全体を通して、印象に残っているシーンなどはありますか?
鬼頭:これはアフレコ込みで思い出深いんですけど……花子くんが寧々の中に入る、というシーンがあるんですよ(笑)。

©あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん2」製作委員会
このシーンは特に強く意識したりせず、「花子くんが入っているお芝居をすればいいのね」くらいに思っていたんです。
だけど当日アフレコに行ったら、緒方さんに「今日、あのシーンやるんでしょう?」って言われて。どのシーンのことだろうと思ったら「俺のモノマネするんでしょ?」って言われて(笑)。

――全然気にしてなかったのに、当日になってアニキからものすごいプレッシャー(笑)。
鬼頭:そうなんですよ!(笑)
「そうか! このシーンって私が緒方さんのマネをするってことなんだ!」と思ったら、ものすごいプレッシャーを感じ始めて、そのまま収録に突入(笑)。
アフレコが終わった後に、緒方さんからは「なるほどね。鬼頭にはそう聴こえるんだ」と言われて……緒方さんのあの言葉はどういう意味だったのか、いまでも気になっている思い出深いシーンです(笑)。
――めちゃくちゃ面白いエピソードをありがとうございます(笑)。鬼頭さんが感じている『地縛少年花子くん』の魅力を教えていただけますか?
鬼頭:そもそも、まず原作がめちゃくちゃ素晴らしい。絵もきれいだし、お話もすごく深くて壮大。「どれだけ伏線が張り巡らされているんだ!」と言いたくなる物語ですよね。
それがアニメになったことで、ほかのアニメではあまり観ないような個性的な映像表現も楽しめるし、あの世界観もより深く感じてもらえる作品になったと思います。少なくとも、寧々を演じるうえでは『地縛少年花子くん』の魅力が、観ている人により伝わればいいなと思ってお芝居をしているつもりです。
シリアスな場面も多いけど重たくなりすぎないのも、またいい。それこそ寧々がずっと明るいし、コミカルなシーンも頻繁にはさまってくるので、テンポよく気持ちよく観られるのは、アニメ版ならではの魅力になっていると思います。
――ありがとうございます。最後に、鬼頭さんにとって八尋寧々はどんな存在ですか?
鬼頭:声優として、私に貴重な経験をさせてくれた存在です。
元来、地声が低いので、高い声でお芝居をすることへの不安が大きかったけど、寧々を演じてみて「私、こんなに高い声が使えるんだ」と初めて気がつきました。
そして、何より緒方さんの言葉に出会ったのもこの作品。寧々がいたから表現の幅が広がったし、私自身が声優としてステップアップする機会をたくさんくれた、大事な存在だと思っています。

©あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん2」製作委員会
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃
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