インタビュー

声優・小林裕介

声優・小林裕介
ロングインタビュー #3

「諦める理由にも、頑張れる理由にもなった」
良き戦友・松岡禎丞の存在と、常に限界突破を狙う挑戦心

2024年11月11日更新

YUUSUKE
KOBAYASHI
INTERVIEW

『Re:ゼロから始める異世界生活』のナツキ・スバル役や、『Dr.STONE』の石神千空役、『アルスラーン戦記』のアルスラーン役、『炎炎ノ消防隊』のアーサー・ボイル役など、数々の人気作品で主人公や人気キャラクターを演じてきた声優・小林裕介さん。今でこそキャラの個性を的確にとらえた演技力、豊かな感情表現で幅広く活躍する小林さんですが、下積み時代にはなかなかオーディションに受からず苦労も多かったと語ります。そんな小林さんの転換点になったのは、自身がどん底だったときにテレビで見かけた同世代の活躍でした。このインタビューでは全3回にわたり、小林裕介さんの出演作品に対する思いや、キャラクターへの向き合い方をひもときながら、その人となりに迫ります。

石の上にも3年、舞台の上にも4年

声優・小林裕介

――前回のインタビューでは、就職した会社を辞め、声優一本に絞ったというところまでお話をお聞きしました。今回は、下積み時代のお話からお聞きできればと思います。

小林:下積み時代は……つらいことしかなかったな。

事務所に入ってから声優としてデビューできるまでが大体、4年間くらい。そのあいだ仕事はほとんどゼロで、オーディションは年に1〜2回あるかないか、という程度でした。

活動していたことといえば、事務所が毎年開催する舞台と、新人がレッスンの一環として参加する「アトリエ公演」と呼ばれる舞台くらい。だから新人だと年2回は、舞台公演をやらなければいけない。でも僕、舞台にはあまりノリ気じゃなかったんです。

そもそも声優に憧れた理由の一つに「顔出しをしなくてもいい」というのがあったので、人に見られるのは嫌でしたし、コメディの要素が混ざった演劇が多かったので「なんで人に見られて、笑われなければいけないんだろう」と。所属して最初の1〜2年は、そんなストレスを抱えて過ごしていました。

――舞台を踏むごとに慣れていく感じはしなかったですか?

小林:社長の方針として、「舞台の芝居ができないのに、マイク前で声だけの芝居なんてできるはずがない」という話は聞いていたので、その意味というのは理解できました。

ただ、それはそれとして嫌だという気持ちが消えるわけではなかったですね。でもやらなきゃいけないから、割り切ってやるしかない。これが自分の糧になって、声優としての結果に結びつくと信じて、がむしゃらにやっていましたね。

一方で、声優の仕事は一向に入らないので、正直なところ、少しやけくそになっている部分もありました。

――いまになって「あの時舞台に立っておいてよかったな?」と思うこともありますか?

小林:それはもちろん、お芝居を学ぶ上では、やっぱり舞台の経験は大きかったと思います。例えば、声優のお仕事の一つであるドラマCDや朗読劇。アニメのアフレコの場合、セリフをどの長さで言うかはアニメーションに合わせなければいけないので、尺がことこまかに決まっています。

だけど、ドラマCDや朗読劇って画がないから、セリフの尺や間の取り方は全部、役者次第なんです。それを役者同士の肌感覚でお芝居として組み立てていくわけですけど、その役者同士の空気感の感じ取り方は、舞台経験が生きているなというのはひしひしと感じます。

あと、元々歌が好きでミュージカルも好きだったので、その後、外部でミュージカル作品に参加したりしたこともありました。ミュージカルに出演したことで歌うことにも自信がついたんですけど、元を辿れば、ミュージカルに出演できたのも、新人の頃に舞台を踏んできたことがベースにあるからなんですよね。

――舞台経験は、声優としてのいろいろな活動のベースになる部分なんですね。

小林:最近だと、バラエティへの出演もそうですよ。仮に「人に見られる」という経験をせずにバラエティに出演していたら、もっとメンタルを削られていたと思います。だけど、舞台で人に見られたり笑われたりという経験をしていたおかげで、ある程度耐性が付いていたとは思います。

とはいえ、いまだ顔出しの仕事には積極的になれません。きっとこれから一生向き合わなきゃいけない一番の課題かもしれません(笑)。

彼がいたから頑張れた
必死で追いかけたライバルの存在

声優・小林裕介

――小林さんにとっての転機、というと?

小林:声優としての生き方、仕事への向き合い方が変わったという意味でいうと、事務所に所属して3年目の頃。先ほど「オーディションが年1~2回、あるかないか」というお話をしましたが、初めて最終選考まで残ったことがありました。

「ここで決まれば、きっと変わるよ」。マネージャーからも、そんなふうに言ってもらって気合いを入れてのぞんだのですが、結局そのときのオーディションは落選。で、その役に受かったのが松岡禎丞くんでした。

そのとき、「松岡くんと小林は同じ世代だし、タイプが少し似てるから、もしかしたらこれから難しくなるかも」というような話をマネージャーから聞いて。当時の僕にとっては、それが死刑宣告のように聞こえて、だんだんと自分の気持ちがやさぐれていってしまいました。

――1回のオーディションで…!?

小林:そうです。その1回が、声優としての道を大きく変えてしまうこともあります。

僕は、大学卒業して就職してからのチャレンジだったこともあって、3年目とはいえ、年齢的にももう30歳が見えてくる頃。「声優の道をあきらめる」という選択もちらつくし、好きだったアニメが観られなくなるくらいに追い詰められていました。

そんな時期が1年ほど続いた頃に、ふと「今はどんなアニメがやっているんだろう」と気になって調べてみたら、あるアニメのかっこいいシーンが目に留まったんです。アニメーションもかっこいいし、お芝居もすごい。タイトルを見たら、『ソードアート・オンライン』という作品で、声優を見てみたらなんと主役が松岡禎丞くんでした。

ソードアートオンライン

――それは…! 当時、やさぐれていた小林さんからすると、いろいろな感情が湧いてきそうです。

小林:本当そのとおりで、かつて最終選考で役を競い合ったわけですから、その時点では実力的にそこまで差はないと思っていたし、「自分が選ばれなかったのは運がなかったから」というふうに考えたりして気持ちがふさいでいたわけです。

でも1年経って彼のお芝居を知らずに観て、僕は手放しで「なんてかっこいいんだ!」と思わされてしまった。それって「彼と僕のお芝居のレベルが全然違う」という現実を突きつけられたのと同じだったんです。

――たった1年で、そこまで差が開いてしまった、と。

小林:でも、そこで初めて「自分の演技には何が足りないか」ということに向き合う気持ちが湧いてきました。僕にだってまだまだ伸びしろはあるはずだから、舞台を踏むなりしてとにかく演技力を磨こう、と。

ちょうどそのタイミングで僕のマネージャーも変わって、その方が元々役者をやっていた方だったので、ボイスサンプルを送って、「僕の演技のダメなところを全部言ってください」と伝えてみたんです。

そしたら、マネージャーから「声が変わっているだけで、お芝居が全部同じに聴こえる」という鋭い指摘が飛んできて……。

――結構な返しですね…!

小林:自分ではちゃんとお芝居ができている気でいたので、マネージャーから客観的に指摘してもらったことで、ダメなところが浮き彫りになった感覚がありました。そこから、試行錯誤して自分なりにアプローチのバリエーションを増やして、「あんまり変わってない」とか、何度もダメ出しをもらいながら少しずつ、自分にできることを増やしていきました。

自分一人だけではなく、そのマネージャーと二人三脚でタッグを組んでやっている感覚もありましたし、その経験はかなり自分の成長においては大きかったと思います。

それが今日、あそこ(スタジオの一角を指差しながら)で話を聞いているマネージャーなんですが(笑)。

――なんと……(笑)。その後、松岡さんとは『Re:ゼロ』で共演されていますが、そのときはどんな心境だったんでしょうか?

小林:松岡くんは声優としてずっと先のほうにいて、彼が主人公で僕がモブ、彼がレギュラーで僕が準レギュラーといった関係性での出会いがほとんどでした。

『Re:ゼロ』で共演したときは、初めて「自分もここまで来れたんだ」っていう気持ちになって感慨深いものがありました。僕にとっては声優を諦めかけた理由も、主役を張れるまで頑張れた理由も彼ですし、ずっと彼を追いかけてやってきたので、やっと同じ土俵で演技ができる、と。

――そんな思いで『Re:ゼロ』にのぞんでいたんですね。

小林:でも、アニメを見ていたらわかると思うんですが、彼のペテルギウスの演技がすごいじゃないですか(笑)。それを現場で見ていて「あぁ、全部松岡くんが持っていってしまう!」という恐怖感を抱き、それと同時に「自分も負けていられない」という気持ちも湧いてきたんです。

「俺だってできる」「俺の芝居で驚かせたい」そんな思いでスバルの演技にのぞむようになりました。だから、ペテルギウスが松岡くんじゃなかったら、それ以降のスバルは引き出されてなかったと思います。

『Re:ゼロ』のアフレコを通して、最終的にはお互いの芝居を見て称え合えるような仲になったので、松岡くんと僕を繋いでくれた作品という意味でも、思い入れが深い作品になりました。

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