可能性を広げるチャンスを逃さない
――小林さんが役作りで心がけていることはありますか?
小林:例えば、『Re:ゼロ』のスバルでいえば、初めて彼を見たときに「こういう声が出てほしい」という自分なりの理想を思い描くんです。
そこから彼の人間性を考慮して少しずつ声を合わせていく。綺麗よりもガラガラっとした声っぽいなとか、お調子者で少し鼻にかける感じかなとか。
セリフ回しも見ると、相手をちょっとイラッとさせるような言葉も多いから、「〇〇しようぜ!」というセリフもも、「〇〇しようぜぇっ!」って言い方にしたほうが、なんかムカつくかも、とか(笑)。
――結構、ロジカルに考えていってキャラ作りをしているんですね。
小林:アフレコに入る前は、そういうふうに理詰めでキャラクターをどんどん突き詰めていきます。
でも、ベースになる部分は理屈だけど、演技となるとわりと感覚的だと思います。その状態で台本を読んでみて、例えば人との距離感の取り方、驚いたときでも案外冷静さも保っているんだなとか、感覚的に演技をしてみて後々気づくようなこともあります。
とくに掛け合いのシーンだと、あんまり事前にガチガチに固めすぎるとキャラクターが生きてこないので、キャラぶれしないようにベースは持ちつつ、感覚的な部分も大切にしていくタイプだと思います。
――あんまりやってみたことがなくて、今後やってみたいキャラクターのタイプはありますか?
小林:それはもう悪役ですね、誰からも共感されないような。
これまで演じてきた悪役は、仲間になったり手助けをしてくれたり、最終的に主人公サイドにいるパターンのキャラクターが多かったんです。
そうじゃなくて、「こんなヤツ、やられて当然だよね」と誰もが思うような完全な悪役を演じてみたいです。ただただ感情を逆撫でするだけのような悪役ではなく、本人なりの悪の美学、信念を持っている悪役であれば、なお良いですね。
――ちなみに、その理由は?
小林:うーん……多分、自分の中にレパートリーとしてないからなんだと思います。
結構、ないものねだりをしてしまう性格なので、ほかの声優さんの低音ボイスを聴いて、「俺もこんな声が出したいな」と思ったりしてしまうタイプなんですよ。
だから、自分の経験の中にない役を演じることで、自分の可能性を広げたいという気持ちがあるんです。それに、仕事を任せてくれるということは、制作側に「あの人ならきっとやれる」という期待もあると思っているんです。
そんな機会をもっと増やして、どんどん自分にできないことに挑戦していきたいと思っています。
挑戦に臆病にならないための合言葉
――小林さんにとっての座右の銘と、それを思うに至った背景を教えてください。
小林:「失敗しても死にはしない」ですね。
そう思うようになった背景は、大学時代に所属していた空手部ですね。
週5回稽古があるような、わりとスパルタ系の部活だったんですが、空手には階級制がなくて、試合となると自分よりも体格の大きな選手とも戦わなければいけないんです。僕は身長も低いし小柄なほうなので、大きな選手と戦うたびに「今日は歯が折られるんじゃないか」「骨折するんじゃないか」という恐怖があって。
それでもなんとか4年間、空手を続けていたんですが、終わってみたら大きなケガもなく、無事に卒業までやり切ることができた。
――ちょっと物々しい話でしたが、安心しました(笑)。
小林:そのときに「人間って、そう簡単には死なないんだな」ってわりと本気で思ったんですよね(笑)。
声優をするようになってからも、もちろんアフレコの現場に最初に行ったときは緊張しましたけど、「ここでセリフを噛んだとしても、それで命の危機にさらされるわけではないよな」という謎のスケールで考えちゃうんです。
そういう思考もあって、人よりも緊張しないタイプだし、緊張によって自分の実力が出せないということがないので、それは空手をやっていて、そういう心構えがあるからなのかなと思ったりします。
だからこそ、いろいろなことを思いっきりやってみようという自分の起爆剤のようなものにもなっています。
――「失敗したって死ぬわけじゃない」というのが、臆せず挑戦するための合言葉でもあるんですね。「演じたことない悪役を演じてみたい」という気持ちも、そういう姿勢から生まれるのかなと思いました。
小林:そうかもしれないですね。実際、この気持ちでいることでフットワークが軽く、いろいろなことに挑戦できていると思いますし、仕事だけじゃなく人生全般に役立つ座右の銘だとは思っています。
――今後は、どんな声優でありたいですか?
小林:一番は、活躍し続けられる声優ですね。
声優になった人全員が、ずっと続けていける職業ではないし、僕たちは演じる役をいただく立場なので、何をきっかけに声がかからなくなるのかなんてわからない。
お芝居を磨き続けるのは最低限ですけど、何度も仕事したいと思ってもらうためには、僕だけがもつ自分らしさというのも必要だと思います。
「小林ならこういう芝居をしてくれる」「こういう役をやらせても面白そうだ」、あるいはイベントやラジオなどの稼働も含めて安心して任せられると思ってもらえるように、限界突破を狙っていきたいですね。