
声優・佐倉綾音
ロングインタビュー #1
人間をわかった気になるのが一番怖い。
「集団ごっこ」の根っこにある思い
2025年6月13日更新
SAKURA
INTERVIEW
『僕のヒーローアカデミア』の麗日お茶子をはじめ、『五等分の花嫁』の中野四葉、『SPY×FAMILY』のフィオナ・フロスト、『SAKAMOTO DAYS』の陸少糖(ルー・シャオタン)など、数々の人気作品で主要キャラを好演する、声優・佐倉綾音さん。人間に対する深い洞察から生まれるその演技力と、そのキャラの気持ちや感情を真っ直ぐに伝える表現力は、アニメファンならずとも心を打たれます。2025年4月にはTBSラジオでレギュラー番組がスタート、豊かな語彙と軽妙な毒を散りばめたトークでラジオパーソナリティとしての才も発揮。活躍の場がさらに広がりました。この企画では全3回にわたり、佐倉綾音さんへインタビュー。ラジオへの思いやこれまでの歩み、お芝居に対する考えをひもときつつ、その人となりに迫ります。
「とんでもないスタートダッシュ」を切ったラジオ番組

――今日は、よろしくお願いします! 4月からTBSラジオで『佐倉綾音の論理×ロンリー』が始まりました。初回放送の出だしから、ハプニング的なスタートとなってましたね(笑)。
佐倉:そうなんですよ……!
聴いていない方のために何が起きたかを説明しますと、前番組の『アフター6ジャンクション2』のMC・宇多丸さんが番組紹介をしてくださるときに、私のことを間違えて「佐藤綾音さん」と呼ばれる事件が起きまして。
その後、宇多丸さんが「どんな差し入れを持ってくるのか」というのを放送内で煽ってしまった結果、3週ほどそのネタを引っ張ることになりました(笑)。
――あの、番組間のやりとりは最高でした(笑)。
佐倉:ありがとうございます。
でも変な話、あのハプニングに関しては「運が良かったな」と思うのと同時に「もしかして、ここがこの番組のピークなんじゃないか……?」とも思っていて。
――意外……! 空気感やトークのペースが徐々に仕上がってきた気がしていたので、これからどんどんエンジンがかかるものと思っていました。
佐倉:どちらかといえばスロースタートなイメージで、じわじわと番組の雰囲気を作っていこう!というのが私の中でのビジョンだったのですが……それを壊されてしまったというか、自ら壊してしまったのか……。
リスナーさんが初回のようなハプニングをつねに求めて番組を聴くようになってしまったら、それこそあまりにハードルが高くなってしまうので、今はそこがいちばん心配なところです。
――でも、ラジオといえばハプニングがつきものじゃないですか?
佐倉:普通そういうハプニングが起こるのって、番組がスタートしてしばらくしてからじゃないですか……?
それがあまりにも速すぎて、「とんでもないスタートダッシュを切ってしまったな」と思っており、ここから先の放送でここまでの爆発力はあまり期待しないでほしいなと思っています(笑)。
――(笑)。結構、ふだんアニメや声優に触れる機会が少ない、年齢層が高い方々も聴いていらっしゃるみたいですね。
佐倉:そうなんです、本当にありがたいことに。
自分の中では親の存在ってとても大きくて、声優の活動を始めた頃から「親が喜んでくれたらいいな」というのが、モチベーションの大きな割合を占めていたんです。だから今、親世代の方がラジオを一緒に面白がってくれる環境になりつつあるというのは個人的にもすごく嬉しいです。
逆に若年層、今までずっと応援してくださっている同年代の方や、さらに下の世代の方で「聴いてます!」と言ってくださる方もいるので、ラジオがいろいろな世代の方と感覚が共有できる場所になったらいいなと思っています。
――「いろいろな世代の方と感覚が共有できる場所」というのは?
佐倉:ラジオって一方通行じゃなくて、メールやお便りを通じた、番組とリスナーさんとの双方向のコミュニケーションですよね。
例えば、上の世代の人にとっては「若い人たち、頑張ってるな!」、逆に若年層にとっては「面白いメールを書く大人がいるんだ!」みたいに感じてもらえたらいい。どちらの世代も互いに希望を感じられる場所にできたら理想です。
そんなことが音声でお届けできるのってラジオ番組くらいなので、そういう環境に身を置かせていただけているのが、本当にありがたいことだなと常々思っています。
作品と裏側をワンセットで知りたい

――ご自身もラジオを聴くのが好きだという佐倉さん。今おすすめしたい「神回!」だと思うラジオはありますか?
佐倉:ライターのARuFaさんとダ・ヴィンチ恐山さんの『匿名ラジオ』が好きで、3周以上リスニングしているのですが、その中に「トークのおしくらまんじゅう」という回があるんです。おしくらまんじゅうって「押されて泣くな」という歌詞があるじゃないですか。あるテーマに沿って強い言葉を言い続けて、先に泣いちゃった人が負け。強い言葉といっても、暴言や悪口ではなく、どんな言葉なのかぜひ聴いて確かめてほしいのですが。
大の大人たちが、どちらかが泣くまで強い言葉を浴びせ合うという、本当にしょうもないことをやっているだけなんですけど、それが大好きで(笑)。
元気がないときや、気分が落ち込んだとき、理由がはっきりしないようなネガティブ期にはかなりお世話になっています。
――わかる……!『匿名ラジオ』は企画がとにかく面白いですよね……!
佐倉:企画力と、それを具現化する能力もすごいですし、トークの反射神経、無意識だと思いますが声のトーンの使い方とかもすごいんですよ。あのお二方は自分をキャラクターとして確立させる才能が飛び抜けていると思います。
たまに『匿名ラジオ』の中で「サキュバスラジオ」という企画があり、これがお二人がサキュバスでマッサージ店を営んでいる設定で、オモコロ社員の方々を招いてトークで気持ちよくさせて帰す、というだけの企画なんですけど、もはやエチュード(即興劇)なんですよ。
――役者ならではの視点ですね……!
佐倉:がっつり声色を変えているわけでもなく、喋り方や内容でお二人が役を確立させているのを聴いてると「これはもう役者じゃん、コントじゃん」と。それを聴いていると、表現者としての自信を刈り取られるような気分になるんですが、同時にいいモチベーションにもなっているような気がしています(笑)。
そんなわけで『匿名ラジオ』は繰り返し聴いてしまうラジオ番組の一つですね。

――ありがとうございます!ちなみに、学生時代からラジオがお好きだったと別のインタビューで拝見したのですが、ラジオのどんなところに惹かれたんでしょうか?
佐倉:前提からお話すると、ラジオパーソナリティに限らず、俳優、漫画家、小説家、エッセイスト、モデルなどなど、表現者の方っていろいろな複合的な魅力で成立していると思うんです。
例えば、漫画家だったら監督、脚本、演出、役者、美術の役を、すべて一人で考えて構成していくわけじゃないですか。小説家もそれに似ていて、より言葉に特化していますよね。俳優なら容姿、声、表情、感情表現すべてを一人でコントロールしている。
そう考えると、ラジオパーソナリティって単に喋りがうまいだけではなくて、文字に起こしていないだけで、喋りでエンタメを作り上げる脚本家でもあるなと思うんです。
――確かに……!
佐倉:しかも、その脚本は自分の人生や生き様を映していて、喋れば喋るほど嘘をつくのが難しくなっていく。というか「あれだけ喋るとどうしてもその人の本質が出てしまう」というほうが近いかもしれません。
元々、私は学生の頃から創作物に興味があったのですが、人間そのものにもとても興味が濃く、「その作品はどんな人間が作ったのか」まで見るのが大好きでした。
例えば、映画を観た後の“メイキング映像”を見るのが好きで、自分の中では必ず“作品とその裏側”をセットで見たい気持ちなんです。
――作品だけ観て終わり、ではないんですね。
佐倉:どういう人がどんな思想で、何を表現したくてどんな過程で作ったのか。それを作品と一緒に知ることが、私の中では喜びとして大きくて。
そういう意味でラジオは、作品と作者の人間性(裏側)が同時に表現されているコンテンツなんですよね。エッセイもそれに似ているのでとても好きです。
それにお芝居をする上でも、基本的に奥底にある題材って“人間”なので、人間を知らないことにはお芝居も成立しない。そうするとラジオやエッセイのようなコンテンツって、人間をより深く理解するための参考として、とても優秀なんです。
……遠回りしましたが、だからラジオというコンテンツが、私にとっては魅力的だったんだと思います。