見えているものがその人のすべてではないから

――そんなふうにラジオやエッセイを捉えたことはなかったです……! そう考えるようになったきっかけはあるんですか?
佐倉:元々は、単に面白いと思う番組を聞き流してる感じで、表面的に「この人、面白い!」「この話題、面白そう!」とかで聴いていただけだったんです。
ただ、中学時代にお芝居の勉強を始めたことで、「なんでこの人からこういう言葉が出るんだろう」「なんでこのタイミングでこういう返事をしたんだろう」と想像しながらラジオを聴くようになって。
そこから一人の中にある感情の線、人生の物語みたいなものを考えるようになったのだと思います。
――お芝居を始めたことで、“裏側”に対する興味がさらに強くなったんですね。
佐倉:おそらく当時の自分としては、安心感が欲しかっただけだったんです。人間の心の動きを論理的に理解して、分析して、言語化して……とやっていれば、なんとなく人間のことがわかった気になるじゃないですか。それに、お芝居ってテストの点数のように数値化できないので、そういうことで自分に自信を付けていくしかない。
でも逆に、声優のお仕事をするようになって年齢が20歳を超えたくらいからは、「それで人間をわかった気になる」のが、いちばん怖いことなんじゃないかと思うようになってきました。
じつは、ラジオの中で私が時折「集団ごっこ」「分かり合えているごっこ」という言葉を使うのも、この辺りの考えと繋がっていて。
――「集団ごっこ」ってすごいパワーワードで、気になっていました。もう少し詳しくお聞きできますか?
佐倉:例えば、私が聴いているラジオのパーソナリティにしたって、きっとラジオでは見せない一面がたくさんあるはずですよね。でもコンテンツを受け取っている側は、そこで受け取れるものが、その人の人間性すべてだと思ってしまったりする。
そうすると、聴く人の頭の中にいるそのパーソナリティと、本当のパーソナリティの人間性が乖離していきます。
ラジオは一例ですけど、本当は俳優でも声優でもいろいろな存在にそれが当てはまる。そして、その延長線上には「キャラクターとして人間を消費する」ということがあって、私はそれがすごく怖いことだなと思うんです。
――見えている部分だけでその人の人間性を決めて、それ以外を受け入れなくなってしまう。つまり、それが「キャラクターとして消費する」ということになる。
佐倉:そうです。この問題は私にとっては見る側、見られる側の両方の側面があって。私自身、「こうやって自分自身も消費されてるんだ」と感じていたことが、そう考えるようになったきっかけだと思うんです。
逆に、10代の頃は「それを承知でお金をもらっているから当たり前だろう」と思っていた節があって、ある意味ではそれが強みになっていたかもしれない。でも今思うと、それ自体、すごく危険な思想だなと感じます。
なぜって、見られる側がそれを受け入れてしまうと、自分以外の人にもそれを求めてしまう可能性があるから。どんな業界であれ、「キャラクターとして消費されて当たり前だ」と相手に押し付けるのは、とても乱暴なことだなと。
親への思いと、ほかの人の笑顔に対する思い|
『僕のヒーローアカデミア』麗日お茶子

――2025年にはFINAL SEASONが放送する『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)では、ヒロイン・麗日お茶子を演じられています。まずは、作品との出会いから教えていただけますか?
佐倉:最初の出会いはオーディションでした。そのときに初めて原作を読ませていただいたんですけど、じつは私自身、普段はあまり少年マンガを読む習慣がなくて。学生時代に通ってきたのも『ツバサ・クロニクル』や『さよなら絶望先生』など、王道の少年漫画ではなかったように思います。
なんか、引きこもりには「友情・努力・勝利」という王道がまぶしすぎて(笑)。
――まぶしすぎる(笑)。
佐倉:でも『ヒロアカ』は読んでみたら、すべての精一杯生きる人たちに向けた作品に見えて、「アニメに参加したい!」という気持ちがとても大きくなりました。「あぁ、この作品に関われるなら人生を賭けてもいいな」と素直に思えました。
アニメ版のスタッフの資料を眺めても、錚々たる面々で「こんな方々と仕事できるなんて、どれだけ人生のおみやげになるんだろう」と感じていました。
――オーディションの段階で、かなり佐倉さんの気持ちも乗っかっていたんですね……!
佐倉:オーディションの競争率も高いだろうし、難しいだろうと思っていたのですが、テープオーディションで合格の連絡をいただいて……。
マネージャーから知らせをもらった瞬間、交差点のど真ん中で嬉しさを抑えきれず、その場でめちゃくちゃ喜んだ記憶があります(笑)。
――演じられたお茶子は物語としても、雄英学園1年A組でも中心的な存在ですよね。演じる上ではどんなことを意識されていたんでしょうか?

© 堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会
佐倉:お茶子がヒーローを志しているのって、「ヒーローで稼いで両親に恩返しをしたい」と「みんなを笑顔にしたい」というような理由からなんですよね。
私は、お茶子みたいに健康的な生き方はまったくできなかったのですが、「両親がとても大切」「ほかの人の笑顔を見るのが好き」という点では、彼女に強く共感しているんです。
私、父のことも母のこともとんでもなく愛していて、あまり他では出会わないくらい親への執着心が強いんです(笑)。それと、昔から人が笑うところも、泣くところもめちゃくちゃ好きで、とにかく人の心が動いている瞬間を見ることが大好き。
母と一緒にテレビを見ていて母が笑っていたら、そのテレビの内容よりも母が笑っている顔の映像のほうが、強く記憶に残ってたりしています。「こういうところで笑うんだ」と。
お茶子も同じで、すごく嬉しそうな人の顔を、彼女は見ている。お茶子の他の部分は、私からみたらまぶしすぎるくらいだし、自分とは対極にいるタイプだと思ってしまうのですが、彼女の信念、大きな思いの部分で共感できたことは、彼女を演じ切る上で大きなポイントになったと感じています。