「全部セリフっぽいほうがいいかも」|
『ダンダダン』白鳥愛羅

©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
――『ダンダダン』では、モモやオカルンたちと同じ高校に通い、アクロバティックさらさらの能力に目覚める美少女、白鳥愛羅(以下、アイラ)役を演じられています。演じるにあたって、どんなことを意識していましたか?
佐倉:マンガや小説を読む時って、自分の中で誰かの声で再生されることが多いじゃないですか。でも私、『ダンダダン』の原作を読んだときは、登場人物の声がまったくどんな声でも再生されなくて、ただただ龍幸伸先生の絵力に圧倒されてしまったんです。
「声が入り込むスキがない」というか。
アイラに関してもそれが当てはまって、どういう声で喋ったらいいのか全然わからなかった。なんなら私としては「喋ってほしくない」くらいの感覚がありました。
――じゃあ結構、アイラのお芝居を見つけるまでは難しかったんですね。
佐倉:難しかったですね。
とくにオーディションのときには、アクロバティックさらさらを内包したときのアイラのお芝居も一緒にやらなくちゃいけなかったんですよね。オーディション用の台本の中に、ちゃんと「アクさらアイラ」のシーンが入っていて。
元々のアイラの声も想像できていないものだから、かなり手探りで提出したような覚えがあります。
――実際に現場に入ってからはいかがでしたか?
佐倉:それが、原作を読んでいる段階ではあんなに想像ができなかったのに、現場に入ってモモ役の若山詩音ちゃんと、オカルン役の花江夏樹さんお二人のお芝居を聴いたときに、「あっ、あの二人ってこういう声だったんだ!」とめちゃくちゃ腑に落ちたんですよ。
その説得力のあるお芝居にとても助けられて、「この二人がそういう表現なら、アイラはもう少し毛色が違ってもよさそう」と思えました。
アイラは自分のことを“美少女”と自称してはばからず、その立ち振る舞いもちょっと現実離れしたところがあるので、「全部セリフっぽいほうがいいかも」と思って。
――たしかに!「周りから自分はこう見えてる」というのが見えた上で振る舞っている感じのキャラだったので、すごく納得感があります。

©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
佐倉:彼女の中で、脚本とセリフが存在しているような喋り方。でも彼女自身の感情や心が見えた瞬間に、そこから解き放たれた声を出す。
「私なら、そんなアイラが聞きたいかも」と思って、彼女を演じるときに意識していました。
――佐倉さんから見た、アイラの魅力ってどんなところでしょうか?
佐倉:登場したとき、アクロバティックさらさらとの戦い、それ以降とで、彼女の印象ってガラリと変わるじゃないですか。そういう多面的な人間性を持っているのは、彼女の大きな魅力の一つだと思います。
現実にいたら、ちょっとヤバめな人かもしれないけど(笑)。
『ダンダダン』は作品として、「ありえないことが起こる」ファンタジーの要素がすごく大きいので、振り切った「ありえない立ち振る舞い」が成立しやすい。そんな姿を見せてくれるのも、彼女の魅力の一つかなと思います。
現場でも話題騒然だったアクさら回|
『ダンダダン』白鳥愛羅

©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
――2025年7月からは、待望の第2期が始まります。第1期を振り返ってみて、佐倉さんの注目シーンをお聞き……っていうかもう、あのアクロバティックさらさらの回ですよね。あのときのお話をお聞きしたいです(笑)。
佐倉:(笑)。あの回は、最初に台本を読んだ段階からすでに泣いてしまっていたんですけど、結構キャスト陣のグループLINEでも話題沸騰で、「台本読んだ?泣ける」「俺も泣いた」なんて、そんな言葉がアフレコ前から飛び交ってました。
いざアフレコに入ったら、私もまたその映像を観て泣いてしまって……というか現場でもみんな泣いていました。
――制作スタッフやキャストのあいだでも印象的な回だったんですね。
佐倉:そうですね。取材もあるので、放送よりも前に完成した映像も観ていたのですが、家で観ていて本当に何が起こっているのかわからなかったぐらい、心に大きく響いてくる仕上がりになっていて……それ以前のお話までと、全然雰囲気も違うし「スタッフさんが、すごい方向に舵を切り始めたぞ」と思ったくらいです。
「この回に反響がなかったら、嘘だ」とも思ったし、私自身、それほどまでに衝撃を受けた回でした。実際に放送されてちゃんと反響があって、正当な評価をいただいて、とてもホッとしました。
――そのときのアフレコ現場での思い出などはありますか?
佐倉:現場で泣いてはいたものの、私はその後のシーンでアクさらを内包したアイラも演じないといけなかったので、アクさらを演じる井上喜久子さんのお芝居も観察しなきゃいけなかったんです。

©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
喜久子さんのお芝居を観て、「このキャラがアイラの中に入ったら、どう演じればいいか」の戦略を立てようと思っていたのですが、喜久子さんを見ていたら「あれ?」と思って。
私がテープオーディションのときにやっていたお芝居と、喜久子さんのお芝居にあまり相違がない。「私の思い描いていたアクさらのお芝居が、そのまま喜久子さんのアクさらで再現されている!」と思って、とてもびっくりしました。
――そんなことあるんですね……!
佐倉:役者って、ちょっと変わった視点を持っている方も多いので、ほかの方のお芝居を見て「その発想はなかった!」と思うことだってたくさんある。そんな中で、たまたま喜久子さんのお芝居と私のお芝居の「向かって行きたい方向が一緒だった」ということが、とても嬉しくて。
それのおかげでアクさらを内包してからのアイラのお芝居も、迷いなくのぞむことができた気がします。
――確かに、観ている私たちも「アイラの中にアクさらがいる」ことが違和感なく、すんなりと受け入れられた気がします。最後に、佐倉さんから見た『ダンダダン』の作品の魅力をお聞きできますか?
佐倉:初めて原作を読んだときに、「これをアニメにするのは大変だろうなぁ」と、少し不安な気持ちになったんですよ。龍先生が命を削って描いていらっしゃるような作品で、先生の絵だからこその躍動があるし、それに読者として揺さぶられる感覚がありました。
私、エンタメの中でもマンガが一番、総合芸術だと思っているんです。ふつうはいろいろな分担があって作品をつくるけど、マンガは監督、脚本、美術、役者をすべて一人で担っていますよね。あんな作品を、一人の人間が描いていると言うこと自体が、もうオカルトみたいな現象じゃないですか(笑)。
――たしかに!さすがの表現力です(笑)。
佐倉:アニメにするにあたってあの作品をどう分担して、どう再解釈・再構築していくんだろうと気になっていたんですけど……やっぱりサイエンスSARUさんって、本当、凄い方たちの集まりでしたね。
映像などの表現力が突き抜けていて、本当にメディアミックスの方法としていろいろな人に観ていただきたい作品だなと思いました。
――「表現力が突き抜けている」っていうのも言い得て妙です(笑)
佐倉:監督の思想がしっかりと入っているのもよくて、ただ忠実に映像化して「原作を再現しました」じゃないんですよね。
もちろん原作の再現が大切な場合も多いですし、今はその方が主流でベターですが、『ダンダダン』はかなり大胆に、原作が再構築されている部分もあったりするので、挑戦や冒険をしているなと思います。
常人離れしたアニメ化ですよね(笑)。

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃