人生を変えた作品『魔法少女まどか☆マギカ』

――新作劇場版の公開も予定されている『魔法少女まどか☆マギカ』(以下、『まどか☆マギカ』)。悠木さんはシリーズを通じて主人公の鹿目まどかを演じられています。悠木さんと、同作品との出会いをお聞きできますか?
悠木:元々、アニメオリジナル作品だったので、出会ったのは本当に役が決まるときだったんですが、当時事前にいただいていた作品のプロット、台本、キャラクターデザインというのが、それだけではどんな完成形になるのかまったく想像ができなくて。
実際にアフレコに望んでみても、「何か新しいものを作ってるな」というのは当時からすごくありました。
それでできあがったものを観てみたら「なんだこれは!」という感じ。まどか含め、キャラクターはいわゆるアニメらしい描写で描かれているのに、その少女たちを取り巻く世界がそれまでまったく見たことがないような映像で表現されていて、その融合がアーティスティックですらある。「自分が関わっていたのは、すごい作品だったんだな」というのを改めて感じました。
――放送当時からすごいインパクトで、『まどか☆マギカ』を考察する大学の講義までありましたよね。
悠木:そのくらい、考察版を楽しませるような仕掛けもありましたし、ビジュアル、音楽もすべてその世界に引き込まれるようなつくりでしたよね。正しい表現かはわからないけど、脳が情報でいっぱいになる快感が、『まどか☆マギカ』にはある気がするんですよね。
しかも、そんな状態のところに感情をえぐるような出来事が起こる。とにかくそういう仕掛けだったり、物語の中に何かを考えさせるパーツがちりばめられていて、10年以上前の作品なのに、いま観てもぜんぜん古く感じないんですよね。
私自身キャストとして、当時から「観てもらえたら、絶対に面白いと思ってもらえる作品だ」というのは感じていました。それに、おそらくそれ以降に登場するアニメは少なからず『まどか☆マギカ』の影響を受けて出てくるだろうなって。
封を切ってみたら、驚くほど多くの人に楽しんでいただける作品になったし、私にとっては「人生を大きく変えた作品」になったと思っています。
――悠木さんもおっしゃるように、「感情がえぐられる」という要素は少なからずあるじゃないですか。それはキャストとして演じていて、自分の気持ちが引っ張られてしまうことはなかったですか?
悠木:いや、全然ありましたよ(笑)。『まどか☆マギカ』に限らず、私自身が結構、その時演じているキャラクターに心を持っていかれがちなので、まどかを演じているときは特にそれが強かったと思います。
最終話に近づくにつれて、物語自体にも絶望感が出てきますし、しんどいことも起きるじゃないですか。たしか、当時は毎週土曜日の夕方からアフレコをするスケジュールだったのですが、それゆえに週末は気分が重ため……みたいな。
それに加えて、放映前後に作品のプロモーションもあったので、色々なイベントに参加したり、シンプルに人生で忙しい時期でもありました。だから立ち止まって自分をいたわる時間もあまり取れていなかったんです。
思い返してみると「私、あの時結構病んでいたんだな」と思うくらい、メンタルも体もわりとボロボロだったんですよね。何かがあったわけでもないのに、電車に乗っている途中で突然涙が出てきたりもして。

――そんな中で、心の支えになったものはあったのでしょうか?
悠木:当時は大学一年生で、キャストは錚々たる面々だったので、その中で座長を務めさせていただくことに相当プレッシャーがありました。ただそんな中でも、ほむら役のさとちわ(斎藤千和)さんはじめ、周りの方々が「座長のあおちゃんを軸にみんなお芝居をするから、自由にやっていいんだよ」と声をかけてくださったんですね。
悩みも多かった私を、本当にみなさんがケアしてくれて、そのおかげであの忙しくて大変だった時期も乗り越えられたんじゃないかと思います。
一方で、今考えると、私自身が極限状態だったことは、まどかを演じる上ではよかったのかも、という思いもあるんです。
――詳しくお聞きできますか?
悠木:まどかが決断できないこと、あるいは決断したことで周りの女の子たちがどんどん悲惨な目に合ってしまう。でもまどかって、普通のどこにでもいるような女の子であって、けっして勇者とかヒーローじゃないんですよ。誰もまどかには頼らないし、まどかも誰かに頼れない。
その寄るべのない境遇が、当時の私の状態に近かったんじゃないかと思うんですよね。
そんな状況を観て、当時の私は少しまどかに苛立ってもいました。でもそれって、同族嫌悪みたいなもので、きっと自分の姿を客観的に見せられたのに近いから、自分のことのように怒れたんだと思います。そのくらい、彼女と私の距離が近かった。
いまは俯瞰的に観られるようになったので、「14歳の女の子に背負わすことじゃないだろ」という気持ちのほうが大きくて、まどかのやさしさ、柔らかさみたいな良い部分のことがちゃんとわかる気がしています。

©Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
――悠木さんとまどかが、気持ちの上でシンクロしていたんですね。そういう意味でも悠木さんにとっては忘れられない存在ですよね。
悠木:当時の私って、まだ役者として真っ白なキャンバスみたいな感じで、自分の色がどういう色なのかもはっきりしていなかったと思うんですよ。そんな中でまどかに出会っているので、たぶん彼女にはそのキャンバスに大きく色を塗ってもらったんじゃないかと思います。
そういう意味ではいまの声優・悠木碧は、大きな部分を彼女に作ってもらったんだろうなぁと。彼女に出会っていなければ見られない景色だらけでしたし、最初はあんなに「自分に似てない」と思っていた彼女が、まさか自分とそこまでシンクロするなんて。
色々な意味で彼女とは魂を共有している気持ちです。