友達や家族を超えて、もっと近くにいる

――アフレコ現場での思い出や印象的な出来事などはありますか?
悠木:『まどか☆マギカ』って鬱々とした展開ではあるんだけど、キャストのみなさんは作品と自分とを切り離してちゃんとコントロールできるベテランの先輩方が多かったので、アフレコの現場ではよく楽しくおしゃべりさせてもらっていました。
放映が始まってからは「反響すごいね!」とか、怖いシーンや悲しいシーンを面白く描いてくれたファンの方のマンガやイラストを「あれ見た?」とか言いながら、結構 盛り上がったり。みんな、作品の陰鬱な展開を引きずらずにおしゃべりできていたと思います(笑)。
――ありがとうございます。悠木さんから見て、印象的だったエピソードなどはありますか?
悠木:たぶんこれはファンの方々でも話題に上がりやすい回だと思うんですが、第10話ですね。ほむらちゃんがなぜタイムリープを繰り返してきたのかがわかる話。
とくに、まどかが窓から自分のグリーフシードをあげる場面。あそこは100%の善意、やさしさでそれができてしまう、まどかの残酷さを感じるシーンでもある。あれがあるから、ほむらちゃんはその後、走り続けなければいけなくなってしまうんだけど、まどかにはそんなつもりがなく、ほむらの背中を押してしまうんですよね。
私自身、イベントや朗読劇などでも繰り返し演じてきましたが、まどかのいい部分とわるい部分、それが詰まっている印象深いシーンだと思います。

©Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
――でも、それ以外にまどかはどうすべきだったのかっていうと……。
悠木:そうなんですよ、多分まどかのあの選択は間違ってはいないんです。
というか、『まどか☆マギカ』って全編を通して、「そうせざるを得なかった」「最善だったはず」という選択をしているのに、それによって事態が好転するわけじゃないことが、永久に起こってるんですよね。
悪意のあるような人がだれもいないけど、みんなが不幸になっていく。あえて挙げるとすればキュゥべえだけど、でもあれは機構のようなものだから、そこに怒りをぶつけてもしょうがない……
というような感じで、話出すとキリがないのですが、『まどか☆マギカ』の物語の面白さ、深さ、残酷さといった要素を象徴するような回が、第10話だと思います。またね、最後に『コネクト』が流れる瞬間の、あの“答え合わせ感”がたまらないんですよね。
――めちゃくちゃわかります。多分、あの時人生でも一番鳥肌が立ったんじゃないかというくらいの気持ちでした。『まどか☆マギカ』としては最後の質問になりますが、悠木さんにとって鹿目まどかはどんな存在ですか?
悠木:さっきお伝えしたことにも近いですけど、声優としての私の核を作った人なんじゃないかなと思います。いろいろな感情を教えてくれたし、たくさんの景色も見せてくれた。
「何が正しいんだろう」ということを、彼女と一緒にたくさん考えてきた気がします。友達や家族という存在を超えて、もっと近くにいる。似ているわけじゃないんだけど、かなり同一に近い存在だと思います。
それでいて彼女が出す答えと、私が出す答えでは違いがあるから不思議でもあるんですよね。同じ人でありながら、別人でもある。この辺は、もしかすると何か一つの役を長く演じてきた方でないとわからない感覚かもしれません。
――限りなく近いけれども、違うことを考えている存在?
悠木:というのも、『まどか☆マギカ』という作品がさまざまなメディアミックスで展開される作品ということもあって、そのたびに別の解釈のまどかを演じることがあるんですよね。そうすると、アニメで演じたまどかとは、感情や性格が微妙に違ったりすることもあって。なんていうのかな、難しいけど……
そう、「アルティメット化」してるまどかみたいな(笑)。
――「アルティメット化」(笑)。つまり、概念化しているっていう感じですかね?
悠木:概念化のほうがわかりやすいですね(笑)。
メディアごとに違う姿のまどかがあって、そのすべてが「鹿目まどか」ではあるので、私の心の中にいるまどかと、その全部の集合体である「鹿目まどか」は少し違うのかもしれないです。
そういう意味では、テレビアニメの後にゲームや遊技機など、さまざまなところでまどかを演じてきましたけど、公開を予定している劇場版では久しぶりに「原点の鹿目まどかに会えるんじゃないかな」と期待しているところではあります。
……といっても、どんなお話になるのかは、まだまったく知らないんですけどね(笑)。
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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃