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創刊40周年を迎えるスポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』のバックナンバーから、
球団ごとの名試合、名シーンを書き綴った記事を復刻。2020年シーズンはどんな名勝負がみられるのか。

1996オリックス 日本一

[仰木マジックの謎を解く]
栄光の采配。

text by Osamu Nagatani

1996年 オリックス 日本一
1996年 オリックス 日本一icon
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※実際の誌面

オリックスの監督に就任して、3年目で念願の日本一を達成した仰木彬監督。昨年の日本シリーズでは、ヤクルトの情報操作に翻弄されたが、今年は、巨人・長鳴監督を相手に堂々と渡り合い、横綱相撲を見せてくれた。

その戦法、戦術は驚くほど正攻法であり、選手の使い方は理に適った起用であった。世に言う、「仰木マジック」を期待して、日木シリーズ観戦に来た、セ・リーグの野球しか見ていない評論家たちは、その正攻法の野球に戸惑いを隠せなかった。

シリーズ開幕前、第1戦の先発の大方の予想は、後半戦負けなしのフレーザーか、球に力のある野田浩司だった。巨入の斎藤雅樹に対抗するには、その方が無難、2戦目にエースの星野伸之をもってくるという意見が多かった。常に相手チームを見ての起用ということになるのだが、仰木采配が正攻法だという理由は第1戦の星野の起用をみても納得できる。

「自分のチームで、シーズンを通じて一番柱になってやってきた投手で初戦を戦うのが当然だと思います。その方が星野にも自覚がでますし、チームの連帯感もでてくる。相手チームを見る前に自分のチームのことを考えました。巨入が斎藤で来ようがガルベスで来ようが関係なく、とにかく第1戦は星野だったのです」

勿論、その考えを踏襲した上で、山田コーチに任せているのだが、第1戦の星野の起用について選手会長の藤井康雄なども「一番おさまりのいい起用だったと思う」と語っている。

正攻法で戦った第1戦、初回に得点を許したものの、何とかゲームを崩さずに来た5回、走者を出したところで、落合博満を迎えて、星野から小林宏にスイッチしている。落合対策については、戦前、仰木は山田コーチ、長村裕之コーチ、岡田幸喜スコアラーを集めてミーティングをしている。結論は、「落合が出てきても、ウチの中で球の速い小林と平井正史をぶつけることで、彼を抑えることができる」というものだった。だから、仰木はここで躊躇なく小林にスイッチすることができたのだ。この継投についても仰木は語る。

「継投というのは、ウチがいつもやっているパターンですから、選手の方もそれに慣れていると思います。選手も私のやることを理解してくれているので、思い切ってやれます。選手には残り7試合終わればもう当分、野球をしなくてもいいから、とにかく悔いの残らないように戦おう、と声をかけました。シリーズでは、普段のシーズン中にやらないようなことをやっても全体がおかしくなる。だから、出来るだけシーズン中にやったことを踏襲しようと考えていました」

特に活躍の著しかった鈴木平は5試合中、4試合に登板し、3試合にセーブを上げている。巨人打線を完璧に抑えたかといえば、決してそうではない。第1戦、9回に大森剛にバックスクリーンに本塁打を打たれている。この時、鈴木は「僕がメークドラマの主役ですか、あの球は打たれても仕方がない」と開き直っていた。だから、2戦目の9回2死一塁、一打同点の場面で、落合を迎えたところでの指名に身震いしたという。

「前の日に失敗している僕を指名してもらった時、前日うまくいった平井ではなく、何でこの僕なのかと思いましたけど、意気に感じたのは確かです。あそこで、落合さんを抑えられたことで、残りの試合も自信を持って投げられました」と仰木の起用に感謝している。

その鈴木を仰木に薦めた山田コーチは、「僕が不安がっていては駄目だから、自信ある表情を頑張って作って進言した」と内情を吐露した。

巨人は前日、イチローに本塁打を打たれた河野博文をベンチから外していた。一方のオリックスは同じように打たれた鈴木9回に投入したのは、なぜなのか?

「ウチはシーズン中、どれだけ鈴木に助けられたか。抑えは彼の役目なんだから、少しくらい打たれても気にすることはない。打たれたことに関しては、ゲームから少し離れていたので、カンが狂ったのかなと思いました。ただウチは、シーズンからずっと中継ぎ、抑えでやってきた。今さら、少々のことでこのパターンを変えられないという開き直りもある。それに、一度ぐらいの失敗で使うのをやめると、選手は働き場を失ってしまうじゃありませんか」

打撃については、1、2戦を振り返って、「確かに田口壮や大島公一が成長してくれたことで、イチロー、ニールを固定することができました。ミーティングで巨人の外野陣なら、ウチの足を使えば二塁から本塁に戻ることは十分可能。だからともかく、二塁に進もうという作戦だった。ウチのバントはひとつ先の塁を取る積極策だったのです」と話す。

特に、第1戦の3個の犠牲バントはそれを如実に物語り、次打者が投手でもバントさせたことについて、

「巨入の投手からは、そんなに点がとれないと思っていた。だから、常にプレッシャーをかけ続けることの方が大事だと考えたから」と答えている。

東京ドームでの二つの勝利は、仰木自身にも、確かな手応えを感じさせてはいたが、決してそんなことは表には出さず、また、相手チームへの批判については極力話そうとせず、自分たちの野球をやるだけだという信念を貫いていた。仰木は、近鉄時代の89年、巨入との日本シリーズで3連勝した後、4連敗を喫した苦い経験がある。移動日を振り返ってこう語っている。

「二つ勝って、神戸に戻れて、気分悪いはずがありません。ただ、89年のことは少し思い出しました」と。

第3戦は、ガルベスか宮本和知かで意見が分れた。オリックスナインはガルベスより宮本の方を嫌がっていた。だが、仰木はピタリとガルベス先発を当てて、オーダーを組んでいる。予告先発の有利さを最大限生かして、オーダーを組み替えてきた仰木にとって、それがない日本シリーズは不利とされていたが、的中させた理由は何だったのか?

「打者の連中は宮本の方がガルベスより嫌だと言ってました。第3戦に来る投手が、第7戦にも来ると考えた場合、宮本でいいのかなと思った。当然左投手を頭に入れながら、ガルベスを想定したオーダーを組んでいきました。終わってみればストライクゾーンの狭い小兵で、しかもストレートに強い下位打線がチャンスを作ってくれて、投手を助けてくれました。9回の頭からの鈴木のリリーフは予定していた通りでした。野田が船球も投げていましたから」と試合後に語っていたが、9回落合から始まる打線は、当然大森にまで回って来る。そこで鈴木に打ち取らせて今後に繋げていこうと思ったのはシナリオを書くのが好きな仰木らしいところであった。

だが、勝ちが見えて来た時、何か特別な仕掛けや、新聞の見出しに舞う文字を考えて、自分のシナリオを作って失敗することもよくあった。ある選手は、「また、同じミスをやるのか、オイ、オイという感じ」だと言い、別の若手の選手は「ああ、また同じことをやっているな、と思えてホッとする」と表現しているのだが……。

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