創刊40周年を迎えるスポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』のバックナンバーから、
球団ごとの名試合、名シーンを書き綴った記事を復刻。2020年シーズンはどんな名勝負がみられるのか。
2013年楽天 日本一
[インサイド・レポート] 楽天野手陣、結束Vの全内幕
text by Osamu Nagatani
ロッテとのクライマックスシリーズを制した後、銀次は、主将の松井稼頭央に訊いた。
「カズオさん、日本シリーズって打撃戦になるんですかね? 相手は巨人ですよ」
松井は答えた。
「絶対、重苦しい試合になるよ。相手投手だっていいし、そんなに点は取れない。でも、それは俺たちの望むところだよ。センター中心に打ち返していくしかない。巨人は長打狙いだけど、俺たちはつないでいこう」
活路は、つなぐことから生まれる。いつも何気ない会話からさりげなくそう伝えられてきた銀次は、黙って領いた。「カズオさんの言葉にはいつも含蓄がある」という信頼感が、野手陣の支えになっている。
星野仙一監督はシリーズ前日の監督会議で、〝王者・巨人だから〟と胸を借りるフリをして、予告先発を申し入れた。星野監督はスタメンについて「6番と9番を除いて、固定メンバーでいく」と明言。6番と9番を、相手投手が右か左かによって使い分けることを決めていた。事前に相手投手がわかる予告先発は、非力な楽天の方に、より有利に働く。その〝策〟に原辰徳監督が乗ってきた時、楽天の野手の間には「ウチの監督の方が一枚上手だ」という安心感が漂った。初めて迎える頂上決戦を前に、銀次などは「CSの方が緊張した」と話すほど余裕を持って臨むことができていた。
直前のミーティングでは、「ともかく体を張っていこう」ということと、「センターを中心に、逆方向狙いに徹していこう」という打撃の基本を確認。さらに、スコアラーが集めたデータの再チェックを行なった。内海哲也と杉内俊哉の両左腕に対しては、落ちるボールを引っかけないこと、スライダーはセンター返し、と対策が徹底されたのだった。
そして迎えた日本シリーズ第1戦。巨人の先発はエース内海哲也。いくら予備知識があっても難攻不落、簡単には打ち込めない相手である。楽天はルーキー則本昂大の力投に応えられないまま、0-2で完封負けを喫した。
8回、マウンドを降りた則本にアンドリュー・ジョーンズがこう声をかけた。
「次は必ず、ハッピーにする」
則本は、「この言葉に救われた」という。
星野監督が「柱ができれば枝葉はどうにでもなる」と信頼を寄せる主砲のジョーンズとケーシー・マギー。この二人が見せるナインへのさりげない配慮は大きな力になっている。第1戦でゴ口ばかり打たされた銀次は「ボールになる球に手を出している」とジョーンズに指摘され、ハッとしたという。
第1戦で放ったヒットは9本。無得点に終わったが、それでも、田代富雄打撃コーチは「明日につながる敗戦」と言い切った。それは、打球の多くが逆方向へのもので、ミーティングでの指示が徹底されていたからだった。
田中将大が満を持して登板した第2戦。0-0で迎えた6回表、ピンチを背負った田中に駆け寄るマギーの姿があった。「お前は大丈夫だ」と何度も声をかけ、松井もまた、こまめにマウンドに足を運んだ。「若い投手を支えてくれたのは、この二人だ」と佐藤義則投手コーチも言う通り、打撃だけでなく、ピンチに立たされた時のアドバイスで、投手はどれだけ救われてきたことだろう。田中はこの2死満塁の場面で、マギーの「思い切れ」という言葉通り、ロペスにストレートを投げ、三振に打ち取った。
その裏、1番の岡島豪郎が逆方向のレフト前ヒットで出塁すると、藤田一也がきっちり送りバントを決める。昨季、DeNAから移籍してきた藤田は、移籍後、「なぜトレードになったのか考えた」という。自分なりに出した答えは、自己犠牲が足りなかったから、だった。そして今季は33個の犠打を記録。星野監督が「俺が2番にした理由がわかるやろ」と自慢するほど立派な2番打者になった。
この試合初めて作ったチャンス。ここで銀次がセンター前に先制タイムリーを放つ。前日のジョーンズのアドバイスを生かした一打だった。続く7回には藤田のしぶとい内野安打で、貴重な追加点が入った。
ロースコアゲーム特有の重苦しい空気の中、徹底したセンター返しを実践してもぎとった1勝。松井は「気分が楽になって、東京に行くぞ!」と大声を張り上げていた。
「杉内を攻略するには、3回までボールになる球を見逃すこと。そうすれば、苦しくなった杉内は内側を攻めてくる」
先乗りスコアラーとして巨人についていた関口伊織は、第3戦に先発する杉内攻略の糸口をそう報告していた。
第3戦で6番に起用されたのは、牧田明久。楽天の創設時メンバーである牧田は、生き残りをかけて、与えられた出番では必死になって頑張る。こうした野手間の競争もまた、今季の楽天の強さを支えるものだった。
2回、楽天に早くもチャンスが訪れる。そのきっかけをつくったのは、牧田が起用に応えて放ったセンター前ヒットだった。続く松井はライトへ弾き返す。牧田は三塁を欲張ってアウトになったが、それでも続く嶋が7球粘って四球を選び、岡島の死球で満塁に。ここで藤田、銀次が連続二塁打を放って一挙4点を奪い、杉内をKO。試合を決めた。
「カウント1-1からストライクを取りたがるのは、杉内のソフトバンク時代からのクセなんですよ」と語るのは、小池均スコアラー。「それを思い切りよく振ってくれました」と、小池は藤田と銀次の打撃に目を細めた。
2勝1敗とリードして迎えた第4戦を前に、捕手で登録されている岡島は言った。
「自分が投手をリードしているつもりで打席に立て、と嶋さんに言われてます。それを意識して打席に入ったら、配球が読めるようになった。今は塁に出ることだけを考えてます」
岡島には、シリーズ前、打撃コーチからこんな〝1番打者の心得〟が与えられている。
「コントロールのいい内海には積極的に、球に力のある菅野(智之)は追い込まれる前に、立ち上がりの悪い杉内はじっくりと攻めろ。そしてコントロールの悪いホールトンも、じっくりと見て入れ」