
声優・本渡楓
ロングインタビュー #1
「素直なお芝居」ってなんだろう。
本渡楓の声優としての原点
2025年2月28日更新
HONDO
INTERVIEW
幅広いキャラクターを的確に演じ分ける力と、繊細な感性で直向きにキャラクターに向き合う姿勢を武器に、『魔女の旅々』イレイナ役、『夜桜さんちの大作戦』夜桜六美役、『ゾンビランドサガ』源さくら役、『パリピ孔明』月見英子役など、数々の人気作品でヒロインを演じている声優・本渡楓さん。彼女のお芝居に対する姿勢を形づくったのは、駆け出しの頃に現場でかけられた「本渡はもっと、素直にお芝居をしたらいいのに」という、いまは亡き音響監督の言葉でした。それから今日に至るまでこの言葉の意味に向き合い続け、マイク前に立ってきた本渡さん。このインタビューでは全3回にわたり、彼女の出演作品やキャラクターに対する思いやこれまでの歩みをひもときながら、その声優としての信念に迫ります。
幼少時代から強かった意志

――小さい頃は、どんな気質のお子さんでしたか?
本渡:幼少期の記憶は、幼稚園の頃がギリギリあるくらいで、それよりも小さい頃は、親が言うにはすぐに泣いたり、わがままを言ったり、ダダをこねたり、親が手を焼くような子どもだったらしいんです。
でも、「ごめん、全っ然覚えてない!」という気持ちなんですよね(笑)。いまの私から考えると、けっこう真逆な気がしています。
物心がつく頃になると、いまの自分に通じるような部分もあって、例えば「これが食べたい!やりたい!」と思ったものには、納得できる理由がもらえるまでなかなか引き下がらない。
あとは、目立ちたがりで褒められたいのに人見知り、とか……(笑)。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案だから、友達をぐいぐい引っ張るような役周りの子どもじゃないんだけど、学芸会となると「目立つ役やりたい!」と手を挙げてしまうというような、そんな子どもでした。
――あまり周りには出さないけれど、内面には強い気持ちを抱えている子だったんですね。
本渡:そんな気質だったから、周りの話にもあまり左右されなかったんですよね。
例えば、小学生の頃ってクラスでいろいろな噂話を耳にするじゃないですか。友達から「〇〇らしいよ」って言われても、「そうなの?でも自分で見たわけじゃないし、気にしなくていいんじゃない?」と思っちゃう子どもでした。
でも一方で、自分がこだわるポイントを見つけるまでには時間がかかるタイプで、結構いろいろなことに手を出しては確かめてみるんです。
例えば、小学校高学年で部活動が始まったときに「ソフトボールをやってみたい!」と思って体験入部みたいなことをしてみたんですよ。
そしたら、たまたままぐれで「カキン!」とホームラン性の当たりを打ってしまって……それで満足して辞めちゃったりとか(笑)。
――その1回で……!?
本渡:「もうやりたいことがないや〜」と思ってしまったんですよね(笑)。
その後に入った合唱部は楽しくて、中学校に上がってからも合唱部に入りました。でも、なんだか小学生の頃の合唱部よりも空気感がピリピリしていて、あんまり楽しくないと思って辞めちゃった。
それからソフトテニス、バスケ、水泳……といろいろな部活を転々として。最終的には、学校に陸上部がなかったので、走るのが好きな子を集めて陸上同好会を作ったんですけど、それもなんかしっくりこなくて辞めるという……。
「とりあえず、やってみよう!」と思って入るんですけど、やってみると「なんか違うな」と思って辞めちゃうんですよね。話してると、めっちゃ問題児気質ですね(笑)。
――でも「しっくりこないことは続けない!」という本渡さんの気質が、感じられますね。
本渡:そうですね。学生時代から、楽しくないと続けられないし、そうじゃなければ「無理に続けてもしょうがない」と考えていたとは思います。
演劇部で一番好きだったのは、本読み

――声優に興味を持つようになったきっかけのお話も、聞いて行きたいと思います。
本渡:小学生の頃、見知らぬおばさんに「化粧映えする顔だね」と言われたんです。その時は「化粧映え」という言葉もわからなくて、ネットで検索してみたら女性俳優やモデルの記事が出てきて。
そこで「メイクしてもらう側」の職業があることを知って、当時はまだ子どもだったので単純に「私も女性俳優になれば、メイクしてもらえて“化粧映え”が活かせる!」って!
その頃、ティーン誌にも果敢に応募していたんですが、服装やメイクも未熟。いま考えれば受かるわけないのに、当時は「おかしいな、化粧映えするって言われたのに全然受からないぞ」とか思ってましたね(笑)。
そんなこんなで高校受験のときに、「俳優になる」という夢を思い出して演劇部がある学校を選んで、進学したんです。それで演劇をやってみたら、すごく楽しくて。
――高校生のときに、演劇の楽しさに目覚めたんですね。どんなところに惹かれたんでしょうか?
本渡:そうですね。演劇をやると、いろいろな役になれるじゃないですか。それがすごく楽しくて。
でも、中でも一番楽しかったのが、セリフを暗記する前にやる「本読み」。役を振り分けてから、みんなで台本を持って丸く座って声だけで進めていく、演劇の稽古の一つです。
……というのも私、動きを付けたお芝居があまり得意ではなかったんです。役柄をまとって舞台に立つときに、なんだかすごく気恥ずかしさを感じてしまって。だけど、声だけのお芝居はしぜんとすっと役に入れる感覚がありました。
先輩からも、よく「目をつぶってたらいいお芝居なんだけど、目を開けると全然動けていないね」とか言われてしまったり。
――なんとなく「目立ちたがりだけど、引っ込み思案」という、本渡さんの元々の気質がうかがえるお話ですね。
本渡:まさに、小さな頃から変わらない部分がよく出ているなと自分でも思います。
そんなとき、同じ演劇部の友達から「2年生になったら声優の養成所に行こうと思うんだけど、一緒に通わない?」と誘われたんです。それで友達と一緒に「通ってみよう!」となり、2年生になってから養成所に通い始めることになりました。
なので、ちゃんと「声優に舵を切った」と言えるのは、その時かな。
――それまでは、あんまり声優のことは考えていなかったんですか?
本渡:じつは演劇部に入った頃はまだ声優についてそんなに詳しくなくて。私は名古屋の出身なんですが、名古屋駅の近くに養成所があることも、その時調べてみて初めて知ったくらい。
当時の私は声が高くて背が低くて、演劇部で舞台をやるときにどうしても妹役や子ども役を任せられてしまうんですよね。それが嫌でもあって。「もっと色々な役を演じたいのに」という思いがどこかにありました。
でも、考えてみると声優なら、舞台演劇と違って、背が高い女性も妖艶な女性も演じられる。いろんな役を演じてみたいと思っていた私にとっては、「声優って結構いいのでは?」という感じで、わりとすんなり選択したように思います。
――高校に通いながらの養成所。当時、ご両親はどんな反応でしたか?
本渡:親は「自分で費用を払うならいいよ」というスタンスでした。私も、「自分でやりたい」と言い出してのことなので「そりゃそうか」と思って、それをきっかけにアルバイトを始めることにしました。
週1回、週末に授業があるコースがあったので、「これなら学校に通いながらでも行けそうだな」ということで、そのコースの授業料を自分で稼いでいましたね。
――学校に通いながら、演劇部にアルバイトに養成所と、当時から多忙な高校生活を送っていたんですね。養成所の授業はいかがでしたか?
本渡:周りを見ると「声優になるぞ!」という人たちだけが集まる場だったので、1週間の中でどの時間よりも濃密で、すごく楽しい時間でしたね。
ただ、最初の頃はじつはちょっとしたモヤモヤもあって。「声優のクラスに通うんだ!」と思って入るわけじゃないですか。でも、じつは最初にやることって、発声練習だったり、ストレッチだったり、演劇の基本的な稽古になるんですよ。
当時は気持ちも幼かったので、「演劇じゃなくて、声優のお芝居がやりたいのに!」とか思ったりしている自分もいました(笑)。
でも、やっぱり授業で習うことって声優になるために必要なことを教えてくれているんですよね。
体の動かし方って、声優になってからもすごく大切なんですよ。マイク前に立ったら、ノイズを立てちゃいけないし、足踏みをして音を立ててもいけない。
ちょっとややこしいですけど、「体を動かさないでいる」という体の動かし方を、そのとき初めて教えてもらったような気がします。