「受かったから、私、大学辞めます!」

――それから、養成所には3年間通い続けたんですよね。
本渡:そうですね。高校を卒業するタイミングで事務所に所属できたらよかったのかもしれないんですが、私は結局そのときには入れませんでした。
私としてはどんどん若い声優さんが活躍し始めている状況を眺めている焦りもあった。一刻も早く東京に行って、そこで声優としてのお芝居をもっと突き詰めたいという気持ちがありました。
でも親からは、「地元の大学に通いながらでもいいんじゃないか?」という話をされて。両親からすれば娘を一人で東京に送り出すのも不安だし、声優になれるという未来が確定しているわけでもないし。大きい不安がある気持ちというのは、私も十分にわかっていたんです。
100%納得していたわけじゃないけど、そんな親の気持ちも考えて「それなら大学に入ってから、なるべく早く声優の道が現実的になればいいんだ」と思って、地元の大学に通うことにしたんです。
「絶対、声優がやりたいから早くその道に進んで、大学は途中で辞めるつもりだから」というのはずっと伝えていました。
――それが、本渡さんにとってもいいモチベーションにもなったのかもしれないですね。
本渡:声優の道に進む上では、大きな燃料になっていたと思いますね。
そんなんだから、大学に進学してからも頭の中は声優のことでいっぱい。教科書に鼻濁音のマークを付けたり、「ここは立てて読むべきだな」とメモを書いたり(笑)。
そんな日々を3ヶ月くらい過ごしてたら、ある時、大学で海外に行くカリキュラムの案内がきたんです。しかも見てみると、すごく費用が高い。
そこで考えたんです。
「私は4年間この大学に通って、たとえ卒業しても声優を目指すつもりでいる。それなら4年間の学費ってすごくもったいなくない?しかも海外の授業まで……。それでも私が学校にい続ける理由って、あるんだろうか?」と。
――確かに、4年間の学費と海外の授業が毎年あると考えたら、相当な金額になりそうですもんね。
本渡:その話をあらためて親にしたら、最初は冗談だと思われたんですよ(笑)。「まだ通い始めたばっかりなのに」って。
でも「冗談じゃないんです!これだけお金がかかるし、今休学すれば、海外にも行かなくて済む。無駄なお金を払わずに済むんだ!」って言ったら、そこでようやく私の本気が伝わったようで。
なんとか「休学なら」という条件をこぎつけて、3ヶ月ほど休学して、バイトで上京資金を貯めました。そんなとき、たまたま名古屋学院大学と養成所の合同プロジェクトで、とあるキャラクターのオーディションにご縁があって受かることができて。
「受かりました!私、大学辞めます!」と親に伝えて、その年に事務所にも所属することができて、上京もできたんですよね。
――すごい……!やっぱり「こう」と決めたらそこに向かってまっすぐ進む力というか、めちゃくちゃエネルギーを感じますね。
本渡:ただ、これを読んでる声優志望の子は絶対マネしちゃダメですよ……!?本当に偶然の重なりでそうなっただけで、「強い気持ちがあればかならずそうなる」というものじゃないですから。私の話は聞き流す程度にしておいてください(笑)
――なるほど(笑)。でも、確かにそうですよね。本渡さんの選択がどこかで一つでも違ったら……
本渡:多分、いまこうして声優としてインタビューを受けている可能性は、かなり低いと思います。
大学で、カメラや番組制作について学んでいたので、もしかするといま頃カメラマンとして、番組を作っていたかもしれないです(笑)。
人との接し方を学んだアルバイト経験

――名古屋時代、そして上京してからと、アルバイトではどんなことを経験されたんでしょうか?
本渡:名古屋にいた頃は結構いろんなバイトを経験しましたよ。回転寿司のホールをやったり、油そばのお店で接客したり、ドーナツ屋さんでデコレーションの仕上げをやったり。
――飲食店が多かったんですね。アルバイトを通じて、気づいたことや学んだことってありますか?
本渡:そうですね。お客様と接する業種が多かったので、社会での“人との接し方”は、すごく多くの経験値を積んだと思います。
接客業だといろいろなお客様がいらっしゃるんですよ。怒っている方もいれば、「いい声だね」ってやさしく声をかけてくださる方もいる。
人ごとに対応を変えるわけじゃないけど、その場に応じた適切な対応をするのは、すごく難しいと感じていました。
いろいろな大人と触れ合うことで、ちょっとずつ人と接する感覚をつかんでいって、同時に心も強くなっていったような気がします。
――人に接する上では、何を大切にしていたんでしょうか?
本渡:例えば、外見や年齢から想像するイメージと、その人本来の気質や気分は、全然違うことがあるということですかね。だから、あまり「こういう人だな」と決めつけすぎないように気をつけていました。
私自身もそうなんですが、年齢って1年ずつ増えていくわりには、「20歳くらいで気持ちが止まってる」みたいな感覚がありませんか?
私はそれで戸惑ってしまうことも多くて、そういう経験が自分にもあるから、そういうギャップのある人に出会ったときでも、あまり動じなくなったと思っています。
例えば「年上だ!」と思っても、内面は少年少女のような気持ちを持っている方もいたり、とかね。
――外見や年齢に惑わされずに、その人自身を見るようになった?
本渡:そうですね。例えば、一人の年上の男性の方がいたとして、その方が社長であろうと、子どもを連れたお父さんであろうと、一人の人間として対等に接する、ということは変わらないじゃないですか。
もちろん、どちらにも人生の先輩として敬う気持ちは大切ですが、「肩書き・地位によって距離感や接し方を変えないことが大事」とは、つねに思っています。
――確かに。かなり意識的にやらなければ、一人一人と対等に接するって意外と難しいですよね。ちなみに、上京してからはどんなバイトを?
本渡:東京に来た当初は、「貯金があるうちにアルバイトを」と思って探していたんです。でも、どうしても「働き方」に正直に答えようとすると、全然受からなくて……。
オーディションが急遽入ることもあるし、「急に休むことはありますか?」という質問に、私は「はい!でも働きたいです!」って答えちゃうんですよね。
でもそこでウソをつくのも、私には無理だなって思って。結局、その時期はピンチになったら「お母さん、おにぎりしかない~」と両親に助けていただいてました(笑)。