COURSE & INTERVIEW
羽海野チカの人気コミック『3月のライオン』の名を冠した『J:COM杯3月のライオン子ども将棋大会』が今年もスタートする。今年で13回目を迎える同大会は、全国各都市で開催。大会の審判を務めた藤森哲也五段と、『3月のライオン』の映画・コミックの両作の監修に携わった先崎学九段に、大会への想いを語ってもらった。※称号は当時のものです
藤森僕は子どもの頃、たぶん先崎先生より多くの『子ども将棋大会』に出ていると思います。父親に連れて行かれることが多くて、大人の大会にもよく出場したんですけど、やっぱり『子ども将棋大会』だと出場者が同年代で、歳の近い友達もいっぱいいたので楽しかったですね。あと全国大会だと、そのときにしか会えない友達とかもいたりするんですよ。将棋を指すのはもちろんうれしいんですけど、そういう楽しさもありました。
先崎私は小学校3年生までは、たまに出てましたね。夏休みに一回、GWに一回くらい。そもそも、今よりも子ども向けの将棋大会というのは少なかったんですよ。私の時代というのは、子どもは大人にからかわれる存在だった。将棋で反則なんかしようものなら、「とっとと帰りな、坊主」なんて言われたりして(笑)。その後は、私は小学校4年生から師匠のもとに内弟子として入門したので、大会には出てませんね。今思えばなんであのとき写真を撮っておかなかったのかって。
藤森残ってないんですか?
先崎ほとんど。棋士ってね、過去の思い出にこだわらない人が多いんですよ。家のどこかにあればいいって。そうしているといつの間にかなくなっちゃう。自分にとってのお宝プラス思い出ですからね。なんで取っておかなかったんだろう……。なので、今度の大会に出る子どもたちの親御さんは、ぜひとも我が子の写真を撮って、大切に保管しておくことをおすすめします。後悔しないために(笑)。
藤森そうですね。普段は街の将棋道場とか、そういうところで将棋をやっていて、大会は自分がどれくらい上達したのかを試す場所になっていましたね。
先崎腕試しはもちろん、いろんな理由があったと思います。目立ちたかったから、親に言われたから、暇だったから、大人では相手がいないから、優勝したかったから……など、これら全部が理由ですね。あんまり覚えてないですけど、自分の中では、暇だったし、目立ちたかったというのが大きかったんじゃないかな。
先崎小学校3年生の頃には実感があったと思います。でも、4年生で内弟子になって、将棋が強いという意味を一から考えさせられましたね。で、5年生の時には「俺って将棋が弱いんだ」って気付いて「ダメだ、これ」って(笑)。あとはその繰り返しですね。
藤森僕は、小学校3~5年生くらいの頃は自信を持って将棋をやっていたと思います。
先崎そのくらいの頃は、みんな自信があるんですよ。みんな天狗になる(笑)。でもそうでなきゃ、将棋指しにはなれないですから。
藤森そうなんですよ。けっこう生意気だった。大会に行くと、バーっと全体を見渡して、「僕の敵は、あいつとあいつとあいつだな」って(笑)。そういう感じになるんです。
先崎でも奨励会に入ると、同じようなレベルの奴がゴロゴロいて、「なんじゃこりゃー!」となるわけです。
藤森はい、そういう世界です(笑)。
先崎でも、イマドキはもっと早くから、自分の本当の実力が分かるらしいね。昔は奨励会に入って、自分が井の中の蛙だということを知るんだけど、今は小学生くらいで強い子と当たって衝撃を受ける。もちろん個人差はありますけど、大会などで、いい勝負や負けを繰り返して、飛躍していくんです。
藤森すごくワイワイガヤガヤしていて、にぎやかなんですけど、でも対局が始まるときには、みんなすごく将棋に集中していて、そういうメリハリは素晴らしいなと思いました。対局では、特に「全国クラス」のレベルが高くて、子どもの対局ってすぐに終わりがちなんですけど、大熱戦になることもちらほら。20~30分かかることもあって、すごく見ごたえがありました。プロが指すような将棋をする子もいますし、面白かったですね。最後は持ち時間を計る時計を使うんですね。普通、子どもは何も考えないでバンバン指してしまうんですけど、時間ギリギリまで考えてから指す子とかもいて、普段から練習しているんだなと、素直に感心しました。
先崎私の時代にはそんなことできる子はいなかったからね。
藤森あと、子どもの大会だと、どうしてもトラブルが起きやすいんですけど、この大会はスタッフの方がたくさんいて、何か起きて、子どもが手を挙げたら、すぐにスタッフが駆けつけて対応してくれるので、すごく安心感がありますね。僕なんかは見ているだけでいいというか(笑)。
先崎それは安心だよね。あと、何度も対局できるのもいいと思います。
藤森そうですね。大会はトーナメント戦なんですけど、トーナメントで負けてしまっても、その後、友達や奨励会の方と何度も対局ができるので、一日を通して将棋が楽しめるのも大きな魅力ですね。僕も子どもの頃、大会に出場したら、本戦以外に、ちょっと空いているところで友達と練習したりした思い出があるので。負けてもそれで終わりじゃないのはすごくいいですよね。
藤森今、この『J:COM杯3月のライオン子ども将棋大会』ってすごく参加者が増えていると思うんですね。将来的にはこの大会がきっかけで、プロ棋士になりましたという人がたくさん出てくるはずなんです。そういう意味でもすごく楽しみですね。
先崎実際にプロが出そうなんでしょ?
藤森第5回の仙台大会で優勝した子が、女流棋士まであと一歩のところまで来てますね。
先崎将棋界、最近女性の活躍も目立つよね。奨励会でも男性に交じってプロ棋士を目指している人が何人もいるし。
藤森最近では外国人の女流棋士も誕生しましたし、大会も女性の参加者が増えているので、全体的に盛り上がっていますね。大会はまだまだ男の子が多くて、なかなか馴染みにくいところもあるかもしれないけど、男の子たちに混ざっても、女の子も十分活躍できると思うので、頑張ってもらいたいですね。
先崎そこはいろんな参加の理由があると思うんですよね。勝ちたいとか、楽しみたいとか、強くなりたいとか。簡単に考えて、強くなりたいなら「全国クラス」に出ればいい。今何段だからこっちというのはありません。参加しちゃいけないレベルというのもない。遠慮することはないです、好きなクラスに出ればいい。将棋はあくまで娯楽ですから。
藤森そうですね、別に深く考える必要はなくて、出たいクラスに出ればいいと思います。
先崎そうそう、「どのクラスに出ようかな」って考えるのも楽しいじゃないですか。とりあえず参加してみてください、と。気軽にね。
藤森将棋界って、なかなか普通の人が知らない世界なので、こういう大会を通して知っていただきたいという気持ちがあります。将棋って一回覚えたら、なかなか忘れられないものだし、スポーツのように体力の衰えで引退しなきゃいけないということがなく、ずっとできるものなので、知れば知るほど面白くなっていくものだから。
先崎そうですね。難しそうなイメージがありますけど、思った以上に参加のハードルが低いというか、入りやすいというのもあります。ゲームであり娯楽ですから。何も難しいことはないんです。気軽に楽しんでほしいですね。
藤森この大会はトーナメント戦なので、勝ってうれしいこともあるし、負けて悔しいこともあると思うんです。でも、その一局は自分が上達するための大事な次に繋がる一局なので、ぜひとも精一杯頑張ってほしいですね。あと、自分の子どもを強くしたいという親御さんは多いと思うんですけど、子どもが楽しくなくなってしまったら、そこでお終いなんですね。上達の近道は将棋を指し続けることなので、いかにのびのびと続けさせるかという点を考えていただきたいですね。大会に出ることは、将棋を好きにさせることに繋がると思うんです。僕もそうなんですけど、子どもの頃に出た大会って意外と覚えているもの。きっといい思い出になるし、友達にも会えるので、ぜひ積極的に大会に連れて行ってあげてほしいですね。
先崎子どもっていうのは、天邪鬼というか、逆のことをしたがるんですよ。あんまり熱心にこれやれ、あれやれ、これ覚えろって言うんじゃなくてね、自由にさせてやって、その中でさりげなく勧めてやるのがいいかもしれないですね。さりげなく『3月のライオン』の本を置いておくとか、さりげなく映画に連れていくとか(笑)。大会には友達同士で行かせてもいいかもしれない。将棋とか趣味で得た友人というのは大人になってもなぜか妙に仲がいいものなんです。大会は、非常に貴重な体験ができる、素晴らしい機会です。勝ちとか負けも大事ですけど、それ以外に将棋に対する思い出や友達との絆を作ってください。そして、いつまでも将棋に対する情熱を持ち続けてください。
撮影:荻窪番長
取材・文:山口智弘
1970年6月22日生まれ。青森県出身。原作および映画『3月のライオン』の監修を担当。順位戦A級2期、棋戦優勝2回等の実績を持つ。文筆でも評価が高く、単行本内で将棋コラムを連載している。
1987年5月9日生まれ。東京都出身。映画『3月のライオン』の監修を担当。新人王戦で2012年、2013年と連続準優勝。2017年3月、五段昇段を果たす。師匠である塚田泰明九段と同様、猛烈な攻め将棋である。