2026年2月18日(水)更新
りくりゅう、大逆転の金メダル
信頼の絆で絶望の淵から頂点へ
2月16日(日本時間17日未明)、フィギュアスケート・ペアで世界王者の三浦璃来選手/木原龍一選手組(木下グループ)の“りくりゅう”が、日本勢として初めて金メダルに輝きました。ショートプログラム(SP)終了時点では、首位ミネルヴァ・ファビアン・ハーゼ/ニキータ・ボロディン組(ドイツ)から6.9点差の5位。絶望的な点差のようにも思われましたが、翌日のフリースケーティング(フリー)で世界歴代最高の158.13点を叩き出し、合計231.24点で大逆転優勝を果たしました。
ミスからのドラマ
15日のSPでりくりゅうが痛恨のミスを犯したのは、中盤の見せ場となるグループ5アクセルラッソーリフトの場面でした。ポジションチェンジをする際、ふたりは互いの左手を握り損ない、スコアを落としました。
このミスが響き、得点は73.11点。団体戦での82.84点を大きく下回ってしまいました。
得意技でミスを犯したショックのせいでしょうか。木原選手は演技終了後、リンクにひざを突いたまましばらく動くことができませんでした。傍らの三浦選手が、慰めるように寄り添う姿が印象に残りました。
木原選手がのぞき込んだ絶望の淵の深さは、以下のコメントからも明らかです。
「リフトは僕たちの最大の武器、得意としている技。それが、なぜ、こんなことになってしまったのか……。それだけにショックが大きかった。メンタルが崩壊してしまいました」
帰りのバスの中で、いったん気持ちを切り替えたつもりでしたが、思い出すたびに悔しさが込み上げてきて、夜も眠れませんでした。朝起きても、涙が止まらない状態。「なぜ、こんなに泣いているのか、自分でもわからない状態だった」というのですから、事の深刻さが偲ばれます。
そんな木原選手を、パートナーの三浦選手は、どう見ていたのでしょう。
「ロングプログラム(フリー)の朝、朝ごはんを食べる時にもポロポロ泣いていた。こんな龍一君の姿を見たのは、この7年間で初めて。逆に私が強くならないといけないのかなと……」
妹からお姉さんへ
周知のようにペアのリーダーは9歳年上の木原選手です。日本勢として初のグランプリファイナルを制覇した2022年のトリノでは、演技前、「緊張している」と告げた三浦選手に、諭すように言いました。
「今シーズンのゴールではないから、別に失敗してもいいんだよ」
まわりからは、お兄さんと、ちょっと年の離れた妹の関係のように映りました。
ところが、時を経て、お兄さんを頼っていた妹はしっかり者のお姉さんへと成長しました。
再び三浦選手です。
「今朝から龍一君がすごく泣いていて。その姿を見て、“私は今日は龍一君のために滑るよ”と声をかけたんです。すると龍一君も“じゃあ、お互いのために滑ろうね”と……」
木原選手が、完全に気持ちを切り替えることができたのは、ウオーミングアップ前、「洗面所で顔を洗った時」だと言います。
「試合時間が近づくにつれ、(三浦選手、ブルーノ・マルコットコーチらから)いろんな言葉をかけてもらいました。このまま終わっていいわけがない、と。顔を洗い、“この悲しい感情は全部捨てた”と切り替えてウオームアップに向かいました」
フリーでの演技は、ちょっと言葉では表現し切れません。神がかっているように映りました。
終盤のコレオシークエンスで見せた三浦選手の笑顔には、演じることの喜びがあふれていました。「璃来が強く引っ張ってくれたので、何とか戻ることができたし、諦めないことが本当によかったと思います」と木原選手。互いが互いを支え合い、助け合い、信頼し合った末の金メダル。2人が発信した愛のメッセージは、世界中に届いたはずです。

二宮清純
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