二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~

2021年8月3日(火)更新

松山英樹、「詰め切れなかった」悔い
銅をかけた7人のプレーオフの壮観

「3位になるために、こんなに頑張ったことはない」。ロリー・マキロイ選手(アイルランド)のこの一言が全てを物語っていました。男子ゴルフは、最後のメダルをかけて7人が通算15アンダーで並び、プレーオフの結果、潘政琮選手(台湾)が銅メダルを獲得しました。金メダルは通算18アンダーのザンダー・シャウフェレ選手(米国)、銀メダルは同17アンダーのロリー・サバティーニ選手(スロバキア)でした。

金のチャンスも

 ツアーでは絶対に見ることのない光景が、夕刻の霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉)には広がっていました。最終日、最終ラウンドを終えた7人の選手が通算15アンダーで3位に並び、銅メダルをかけたプレーオフがスタートしたのです。

 7人による前代未聞のプレーオフは、1組目が潘選手、コリン・モリカワ選手(米国)、ギジェルモ・ミト・ペレイラ選手(チリ)、セバスティアン・ムニョス選手(コロンビア)の4人。18番パー4での1ホール目は全員がパー。そして2組目が松山英樹選手(日本)、マキロイ選手、ポール・ケーシー選手(英国)の3人。松山選手は2打目にピンを狙いましたが、無情にもボールはピンを外れ、グリーン左の深いラフにつかまります。続くアプローチも寄せ切れず、パーパットも外してしまいました。この時点で松山選手のメダルへの挑戦は終わりを告げました。

 しかし銅メダルを巡る激闘にまで終止符が打たれたわけではありません。ところが、次の瞬間、中継していたNHKの画面はスタジオへ。視聴者は滅多に見ることのできない、五輪ならではの“筋書きのないドラマ”を見る機会を奪われてしまったのです。

 ネットには「日本人だけがゴルファーではない」「NHKは金メダル以外は興味がないのか!?」「決着がつくまで放送して欲しい」といった不満の声があふれていました。

 結局、熾烈な銅メダル争いは4ホールまでもつれた末に、世界ランキング208位の潘選手がモリカワ選手との一騎打ちを制しました。

 勝負に“たら”“れば”は禁句ですが、最終日、首位に立つシャウフェレ選手と1打差の2位でスタートした松山選手には、銅メダルどころか金メダルのチャンスも十分ありました。

マスターズ再現ならず

 まずパー5の5番、1メートルのバーディーパットを外し、波に乗り損ねました。サンデーバックナインの15番でもパーパットを外すと、17番では2メートルのバーディーパットを決めきれません。最終18番でも約4メートルのバーディーパットを外し、銅メダルをたぐり寄せることに失敗しました。

 優勝したシャウフェレ選手とのマッチアップは今年4月のマスターズを思い起こさせました。

 パー5の15番。グリーン手前と奥に池があり、ティーショット、アイアンともにターゲットが狭い難所で、フェアウェイからの2打目、松山選手が手にしたのは4番アイアンでした。

「(仮に失敗しても)攻めていった方が悔いが残らない」

 2オンを狙ったものの、思った以上にショットが伸び、ボールはグリーン奥の池へ。なんとかボギーで踏みとどまったものの、同組のシャウフェレ選手に2打差にまで迫られたのです。

 しかし、マスターズの女神は、攻めの姿勢を貫く松山選手を見捨てませんでした。16番では逆にシャウフェレ選手が池に入れ、あろうことかトリプルボギー。前のホールで松山選手が見せた「とどめを刺してやる」という気迫が、シャウフェレ選手にプレッシャーをかけたように私には見えました。

 その再現を期待していたのですが、「最後の詰めがうまくいかない結果になった」(松山選手)のは、病み上がりの影響が大きかったように思われます。「悔しさしか残らない」。丸山茂樹ヘッドコーチは「軽く流せる試合があって、出ていれば変わっていたかも……」と残念そうに語っていました。

 1カ月ぶりの実戦が感覚を微妙に狂わせたのかもしれません。逆説的に言えば、完調には程遠いコンディションながらも金メダルに限りなく近付いた松山選手の地力には改めて脱帽です。

二宮清純

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