©「逃亡料理人ワタナベ」製作委員会

グルメドラマの、新たな味覚への追求は留まることを知りません。ひょんなことから全国を逃げ回る料理人ワタナベ（池内博之）と、味を手掛かりに彼を追う刑事（岸谷五朗）との攻防戦。いつの間にか、手に汗を握りながら観ることになるのが、この「逃亡料理人ワタナベ」です。新橋の料亭で働く天才料理人・亘鍋篤（池内）は無口で頑固な職人肌の男。愛する妻と10歳になる娘と幸せに暮らしていましたが、その「人の良さ」が災いし、ある日突然、妻を刺した容疑を掛けられてしまいます。愛する娘と我が身の矜持を守るため、全国を逃げ回りながら各地の特産品を使って絶品料理をつくっていきます。その彼の味を手掛かりに、彼を執拗に追い掛ける刑事・出口（岸谷）。「料理をしながら逃げまくる」という、どこから突っ込んだら良いか分からない斬新な設定なのに、スリリングで、人間味があって、そして何より美味しそう！　あさっての方向から五感を刺激される展開、新鮮な興奮を覚えます。

©坂戸佐兵衛・旅井とり／徳間書店　©テレビ東京

「視聴後コンビニ直行率」の極めて高い作品と言えそうなのが、この「めしばな刑事タチバナ」です。なぜなら、毎回登場する食品や飲料の商品名、メーカー名はすべて実名で登場。実際に味覚の記憶が残る品々ばかり。グルメドラマもここまで「こじらせ」にかかって来たか――。そんな深い感慨を覚えずにいられません。袋入りラーメンや缶詰、カップ焼きそば、レトルトカレーなど、日常生活になくてはならない、手軽で美味しい「身近メシ」をこよなく愛する、城西署の刑事・立花（佐藤二朗）。本庁から転属してきた彼は今日もまた取調室で、そんな「身近メシ」のうんちく、通称「めしばな」を愛情たっぷりに熱く語るのでした。おかず（脇役）も秀逸。「情報屋」として登場するのは、かつて名曲「ろくでなし」に乗せ、鼻に詰めたピーナッツを飛ばして一世を風靡した、WAHAHA本舗の梅垣義明。立花刑事に「限定メニュー」体験談のタレコミ情報を提供します。婦警によるスイーツ紹介も。

©2009安倍夜郎・小学館／「深夜食堂」製作委員会

安倍夜郎による大ヒットコミックが原作の「深夜食堂」は、いま隆盛を極めるグルメドラマの黎明期に燦然と輝く名作です。繁華街の裏通りにある、深夜のみ営業する小さな食堂「めしや」。厨房では、小林薫扮するマスターが黙々と料理をこしらえます。ここの店のメニューに記されているのは「豚汁定食」ただ一つ。ところが、食材さえあれば、彼は何でもつくってくれるのです。そんなお店の暖簾をくぐるのは、ゲイバー従業員、ストリッパーなど、年齢も境遇もまちまちな客たち。夜な夜な集まっては、それぞれの織りなす百花繚乱の人生模様を語り合い、さすらいます。そんな様子を黙って見守りつつ、マスターが差し出してくれる料理は、「それ、ゼッタイ美味しいやつ！」。深夜の空腹時に観てしまったら最後です。これは腹を括って、お酒と肴を用意した上で観ましょう。続編が次々と制作され、映画版・海外リメイク版も誕生しました。いま、「めしや」の常連客は、全世界へと広がっています。

「孤独のグルメ」©2012久住昌之・谷口ジロー・扶桑社／テレビ東京

輸入雑貨商の井之頭五郎（松重豊）が、津々浦々の食堂に一人で出掛けては、食べて、食べて、食べまくる。そんな「ハードボイルド・グルメドラマ」の真骨頂が「孤独のグルメ」です。仕事や出張の合間に彼が立ち寄るのは、庶民的な、どこにでもありそうな大衆食堂やラーメン屋さん。でもちゃんと、素晴らしい逸品があり、井之頭はそれを味わう一瞬に、命を懸けているのです。それにしても圧巻なのは、ただひたすら黙々と、心理描写を時折交えながら食べ続ける、静寂のシーン。「ししおどし」でも聞こえてきそうな圧倒的な静けさに、最初は「えっ？　音声、大丈夫？」と心配になったほど。ところが、これが回を追うごとにハマります。しずる感に満ちた逸品のアップに、井之頭の恍惚とした表情。一口、箸を運び、ゆっくり味わう姿に、よだれ伝染確実。