二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~

2024年8月9日(金)更新

フェンシング躍進の陰に外国人コーチ
レジェンド太田雄貴語る「愛と情熱」

 新お家芸といっていいでしょう。パリ五輪フェンシング日本代表は、個人・団体合わせて計5個(男子エペ個人・加納虹輝=金、男子フルーレ団体=金、男子エペ団体=銀、女子フルーレ団体=銅、女子サーブル団体=銅)のメダルを獲得しました。日本勢躍進の陰には、外国人コーチの存在がありました。

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ルペシュー采配的中

 2021年に男子フルーレのコーチに就任し、日本勢の躍進に貢献したエルワン・ルペシューさんは、21年東京大会にフランス代表として出場し、男子フルーレ団体金メダルに輝いています。

 イタリア代表との男子フルーレ団体決勝では、ルペシューさんの采配がピタリと的中しました。

 35対34と1点リードの第8ピリオド。ルペシューさんは、今大会で初めて永野雄大選手をピストに立たせたのです。相手は34歳のアレシオ・フォコーニ選手。永野選手は、貫禄負けしそうな元世界王者に果敢にアタックし、5対0で突き放しました。

 そしてアンカーは、今回初めての大役となる20歳の飯村一輝選手。41対36から4連続ポイントをあげ、51秒を残して日本が45点を先取。表彰台の真ん中を確保しました。

 この飯村選手にしても、アンカー起用を決めたのは決勝1時間前。世界ランキング1位のトマゾ・マリニ選手との相性を考慮した上でのルペシューさんの決断でした。

 このように次々と“勝負手”を繰り出すルペシューさんに対する選手たちの信頼は抜群で、飯村選手は「すごく尊敬していますし、(現役時代の)エルワンみたいな選手になりたい」と語っていました。

 試合後、金メダルの立役者となった永野選手について聞かれたルペシューさんは<彼はいちばんの努力家で誰よりも練習する。いちばん大変なときに出場して元世界チャンピオンの相手を完膚なきまでに倒した。すばらしい働きをみせてくれた>(2024年8月5日10時25分配信 NHKニュースより・原文ママ)と最大級の言葉で褒め称えました。

 また、リードを守り抜いた飯村選手については<オリンピックの決勝の舞台で初めてフィニッサーをお願いしたが、彼は『分かった』と淡々としていた。最年少だが本当に頼もしく、ポジティブなエネルギーをチームに循環されてくれた>(同前)と、これまた賛辞を送っていました。

フランスへの恩返し

 ルペシューさん以外にも、フランス人のジェローム・グースさん(サーブル)、同じくフランス人のフランク・ボアダンさん(フルーレ)、ウクライナ人のオレクサンドル・ゴルバチュクさん(エペ)の3人の外国人コーチが、陰に陽に日本の選手たちを支えました。

 あるフェンシング関係者は、「彼らは選手に技術や戦術を教えるだけでなはなく、ヨーロッパに知己が多いため、いろんな情報が入る。日本にとっては、それが大きかった」と明かしました。

 さて、日本のフェンシング史を語る上で、絶対に欠かすことができないレジェンドが、08年北京五輪で、日本人として初めて表彰台に立った太田雄貴(男子フルーレ個人)さんです。

 実は太田さんとルペシューさんは、古くからの“戦友”です。

 2008年北京五輪前のワールドカップで来日した際、浅草など観光名所を案内したのが太田さんでした。

 折を見て、太田さんはルペシューさんとブリス・ギヤール(フルーレ)さんに聞いたそうです。

「北京五輪が終わったらどうするの?」
「フェンシングが続けられる環境があれば、ずっと続けたい」

 真っすぐな目を向けながら話すルペシューさんたちを見ていて、太田さんは「自分が恥ずかしく感じられた」と言います。

「自分自身、フェンシングは大好きだと思っていたけど、コイツらに比べれば全然たいしたことないなって。彼らはフェンシングができる状況のありがたさを理解している。それが彼らの強さの源だとわかったんです」

 フルーレ団体、東京大会金メダルのフランス代表には、準決勝で勝利しました。ルペシューさんに対する最大の恩返しとなりました。

二宮清純

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