二宮清純コラム 平昌五輪、日本は「長野超え」の情勢
まずは氷上のF1・リュージュのスピードに酔う
2018年2月9日(金)更新

 ウインタースポーツの祭典・冬季五輪が9日(一部競技は8日から)、韓国・平昌で始まります。今回、出場する日本人選手は124人。日本オリンピック委員会(JOC)は「メダル獲得目標は複数の金メダルを含む9個」としています。

羽生、五輪連覇に間に合ったか

 今大会、日本人選手はいくつ金メダルを獲得できるのでしょう。アメリカのスポーツデータ分析を行うグレースノート社はスピードスケート女子500mの小平奈緒選手と女子パシュートの金メダル獲得を予想しています。連覇を狙うフィギュアスケート男子シングルの羽生結弦選手は何度目かの予想で「銀」に格下げになりました。

 羽生選手は昨年11月、NHK杯の公式練習中に4回転ルッツに失敗。右足首靱帯を損傷して以後、実戦から遠ざかり、平昌にはぶっつけ本番で臨みます。ソチに続く連覇に期待がかかりますが、果たしてその可能性は?

 元フィギュアスケート選手で2004年四大陸選手権ハミルトンの女子シングルで優勝した太田由希奈さんは年初のインタビューでこう答えました。

「ケガの原因となった4回転ルッツは、羽生選手が最近になってプログラムに組み込んだ技です。羽生選手はすでにトウループ、サルコウ、ループと3種類の4回転を飛ぶことができて、完成度も相当高い。ルッツを飛ばなくても十分に勝てるレベルにいました。でも周りの選手がルッツを飛ぶようになり、負けず嫌いな羽生選手は新しい技に挑戦せずにはいられなかったのかもしれません」

 さらにこう続けました。

「フィギュアスケートでケガからの復帰は個人差もありますが、休んだ期間の二倍以上の時間が必要だと言われています。今回のケガはつらい経験かもしれませんが、彼はストイックで普段からオーバーワーク気味でした。このケガが練習方法などを見直すきっかけとなり良い方向にいったらいいと思います」

 さて上記以外にメダル獲得が期待されるのは以下の選手たちです。

 スピードスケート女子500mで金予想の小平奈緒選手は1000mでもメダル候補です。その他、スピードスケート女子1500mの高木美帆選手、同500mの郷亜里砂選手、ノルディック複合・男子ラージヒルの渡部暁斗選手、スキージャンプ女子ノーマルヒルの髙梨沙羅選手、フリースタイルスキー・女子ハーフパイプの小野塚彩那選手、同・男子モーグルの堀島行真選手、スノーボード・男子ハーフパイプの平野歩夢選手、同・女子スロープスタイルの鬼塚雅選手。以上の選手全員がメダルを獲得すれば、長野五輪の10個(金5、銀1、銅4)を上回ります。

1/1000秒差のデッドヒート

 オリンピックでは自国選手の活躍とともに、普段は見る機会の少ない競技の魅力に気づくのも楽しみのひとつです。20年前、自国開催となった長野五輪では「氷上のF1」と呼ばれるリュージュのスピードに心を奪われました。

 リュージュは1人乗りもしくは2人乗りのソリ競技で、選手は仰向けで凍ったコースを滑走していきます。コンマ数秒の差で順位が入れ替わるスリリングな競技です。

 その魅力について元リュージュ日本代表・金山英勢さんに話を聞きました。金山さんはソチ五輪で男子1人乗りに出場、30位の成績を残しています。現在は一線を退き、仕事の合間に後進の指導にあたっています。

----現役を引退しても五輪が近づくと興奮するのでは?

「前哨戦のワールドカップから動画を見ていますが、見る立場になるとワクワクできますね。ソチのときは出場する側だったので緊張感しかありませんでした」

----リュージュはスタートでは手でコースをかいて勢いをつけます。トレーニングは腕が中心ですか?

「指先につけたスパイクでいかに加速するかが重要なので腕力がポイントになります。あと体幹を鍛えていました」

----リュージュは仰向けでソリに乗る。前方の視界は?

「空気抵抗を減らすためにできるだけ姿勢を平らにする必要があるので体はフラットな状態で目だけで前を見ます。視覚とともに感覚でコースを把握してソリを操作します」

----ソリはどうやって操作するのでしょう。

「選手によって差はありますが足先の細かい動きや、わずかに肩を動かすことでベストラインを走れるように調整しています」

----テレビ映像でわかりますか?

「本当に細かい動きなのでテレビでも難しいでしょう。それよりも、テレビではとにかくスピードが見どころですね。タイムを1/1000秒まで計測するのは夏冬のオリンピック競技でリュージュだけだと思います。それくらい本当にわずかな差で勝負がつく。タイムが更新されるかどうか、ドキドキしながら見てほしいですね」

----平昌のコースの特徴は?

「ソチと似たタイプで選手のテクニックの差はあまり出ないタイプのようです。滑りやすい分、タイムを出すのが難しいコースです。あと平昌は気温が低いので、各選手ともになかなか滑らせるのに苦労すると思いますよ。リュージュは気温が1~2℃くらいがベストコンディション。平昌は氷点下なので氷が溶けずにスピードが出しにくい。選手は滑走面の刃を丸くするなど調整が必要でしょうね」

----注目選手は?

「男子はイタリアのドミニク・フィッシュナラー。イタリアの選手とはワールドカップで一緒に遠征した仲なので頑張ってほしいです。ドミニクはジュニア時代からセンスとスピードがあり、今は体も大きくなりさらに強くなった印象です。イタリアのライバルはドイツ、オーストリアですね。女子はドイツ1強です。ナタリー・ガイゼンベルガーという選手が優勝候補で、対抗は同じドイツのタチアナ・ヒュフナー。その後にはアメリカの選手が食い込んでくるかどうか、という状況です」

 平昌五輪は18日間に渡って熱戦が続きます。まずは冷気を切り裂くリュージュの熱い走りに注目です。

二宮清純

二宮清純 にのみや せいじゅん

1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。
五輪、サッカーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『プロ野球 名人たちの証言』、『広島カープ 最強のベストナイン』など著書多数。

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