二宮清純コラム 冬季五輪に熱を呼ぶアイスホッケー
男女とも優勝争いはカナダが軸か!?
2018年2月16日(金)更新

 アイスホッケー女子日本代表、通称スマイルジャパンが五輪初勝利をあげました。14日に行われた予選リーグB組の対コリア戦。韓国・北朝鮮合同チームを相手に4-1と完勝しました。長野、ソチ、そして平昌。五輪13戦目でつかんだ悲願の1勝でした。

NHL選手は不参加

 今回、女子アイスホッケーは日本、コリアの他、アメリカ、カナダ、フィンランド、OAR(個人資格として参加のロシア選手)、スウェーデン、スイスの計8チームが参加しています。アメリカ、カナダ、フィンランド、OAR、スイス、スウェーデンが決勝トーナメントに進出し、日本は5~8位決定戦に回りました。金メダル争いの中心にいるのは世界ランキング1位のアメリカと五輪4連覇中のカナダです。

 女子アイスホッケーが正式採用されたのは1998年の長野大会からですが、男子アイスホッケーは今から94年前の24年、第1回シャモニー・モンブラン冬季五輪から連綿と続いている伝統競技です。

 平昌大会ではカナダ、OAR、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、チェコ、スイス、スロバキア、ノルウェー、ドイツ、スロベニア、コリアの12チームが参加しています。日本代表は残念ながら出場できませんでしたが、日韓ロの三カ国のクラブチームが参加するアジアリーグアイスホッケーでお馴染みのマイケル・スウィフト選手(ハイワンアイスホッケーチーム)やマイク・テストウィズ選手(同)が特別帰化選手としてコリア代表に名を連ねています。

 五輪ではカナダが2連覇中です。しかし今回、世界中からトッププレーヤーが集まる北米のNHL(ナショナルホッケーリーグ)が選手派遣を見送ったことで波乱が予想されます。

 そこで男子アイスホッケーのメダル争いや見どころについて、元日本代表DFの三浦孝之さんから話を伺いました。三浦さんは長野五輪の他、世界選手権に3度出場した日本を代表するプレーヤーです。

「今回、NHLの選手が参加しないので各国の勢力図が変わっています。予選リーグでアメリカがスロベニアに負ける番狂わせがあり、決勝まで目が離せない状況です。NHLの選手が参加しないことで、パスをつなぐヨーロッパスタイルのホッケーが見られるんじゃないかと思っています。オリンピックはインターナショナル規格のリンクを使います。NHLが使用する北米規格より幅が約4メートル広い。そうするとパスを回してリンクを広く使うことになるので、接触プレーよりもテクニカルなプレーに秀でたチームが有利になりますよ」

注目は17歳のディフェンスマン

----メダル争いの中心は?

「NHLのトップ選手がいないといってもカナダは外せません。チームの結束力、そして国技としての意地がある。カナダの監督はウィリー・デジャーデン。アシスタントコーチがデイブ・キング。デジャーデンは以前、西武鉄道のヘッドコーチを務め、キングは日本代表のヘッドコーチやGMとして一緒に長野を目指した人物です。どちらも一線級ではない選手たちを集めて勝たせることに長けた知将です。日本に縁のある2人が王国カナダを率いるので、ぜひ応援したいですね」

----カナダに対抗できるチームは?

「ソチでメダルを獲ったフィンランド、スウェーデンでしょうか。あとチェコも面白い存在です。チェコ代表はロシアのリーグで一緒に戦う選手が中心で結束力があります。リンクを広く使う華麗なプレーが持ち味なので、パスホッケーが有利とされている今回は一気に躍進の可能性がありますね」

----注目選手は?

「スウェーデンのディフェンスマン、ラスムル・ダリン。17歳の若手ながら評価が高く、6月のNHLドラフトで1巡目指名が確実視されています。身長190センチと大柄なのにスティックワークが柔らかく、DFながらFWでもいいくらいの動きを見せます。実際、得点力も高く、オフェンスで評価されています。これまではU-20など同世代とのプレーでしたが、今回のオリンピックでは世代は関係なく本当のトップとの戦い。そこでどんなプレーを見せるのか非常に楽しみです」

----激しいぶつかり合いが当たり前のアイスホッケー、乱闘も必見?

「アイスホッケーの乱闘、ファイティングにはグローブを取って素手で殴り合う、必ず1対1で戦う、など暗黙のルールがあります。仕掛けられて受けなきゃ"チキン(弱虫)"とレッテルを貼られるから逃げるわけにはいきません。私も世界選手権で何度も乱闘に参加して、鼻の骨を折られたこともあります。ただ、乱闘は禁止されていないもののペナルティはある。仕掛けても受けてもどちらもペナルティですが、自分だけが罰を受ける危険性もある。そうなると数的不利な状況になりますから、メダルを目指す短期決戦のオリンピックではやらない方がいいでしょう。テレビの前では乱闘を期待している人がいるかもしれませんが、あまりそういうシーンはないでしょうね。それよりも世界トップレベルのスキルフルな得点シーンやディフェンスの攻防を見てほしいですね」

 アイスホッケーはフィギュアスケートと並んでチケットの入手が困難な人気競技です。手に汗握る戦いに注目です。

二宮清純

二宮清純 にのみや せいじゅん

1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。
五輪、サッカーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『プロ野球 名人たちの証言』、『広島カープ 最強のベストナイン』など著書多数。

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