二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~

2024年9月6日(金)更新

小田凱人「これが現実」の嘆き
テレビ含むメディアの使命とは

 車いすテニス男子で金メダルを狙う世界ランキング2位の小田凱人選手は、日本人パラリンピアンのオピニオン・リーダー的な存在でもあります。自身のSNS(インスタグラム)には2.7万人のフォロワーがいます。

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「とりあえず試合で魅せます」

 8月31日(現地時間)に更新したインスタグラムのストーリーズで、小田選手はこう書きました。

<明日試合はあるけどテレビ放送はないらしいです。多分試合は日本時間日曜日のゴールデンタイム。なんのためにメディアに出て、演出してきたか分かんなくなりそうだけど、これが現実。とりあえず試合で魅せます>

 男子シングルスで第2シードのため、2回戦から登場した小田選手は9月1日、世界ランキング27位のベン・バートラム選手(イギリス)と対戦し、ストレート勝ちしました。

 少年時代、「仮面ライダー」に憧れ、「子どもたちのヒーローになりたい」という夢を持つ小田選手にとって、パラリンピックは、自らをアピールする最高にして最大の舞台です。

 開幕前には、「凱旋門の前で金メダルを掲げたい」と抱負を語っていました。このような意気込みで臨んだパリ大会ですが、放送の予定がないと聞いて、少々落胆したようです。日本からの応援を力に変えたい、という思いも小田選手にはあったのです。

 では車いすテニスの放送(日本時間5日時点)はどうなっているのでしょう。

 9月5日(日本時間) 女子ダブルス決勝、男子シングルス準決勝 NHKEテレ
 9月6日(日本時間) 男子ダブルス決勝、女子シングルス決勝 NHKEテレ
 9月7日(日本時間) 女子シングルス決勝 J:テレ(J:COM)※録画
 9月8日(日本時間) 男子シングルス決勝 J:テレ(J:COM)※録画

 男子の場合、日本で小田選手のプレーを生中継で初めて見ることができたのは日本時間の6日未明に行われた準決勝。そこまでの戦いぶりはニュースやネットで確認するしかありませんでした。

ユニバーサルサービス

 かつて小田選手と同じように、障がい者スポーツに対する無理解を嘆いていたパラリンピアンがいました。小田選手が憧れた車いすテニスのレジェンド国枝慎吾さんです。

 国枝さんがデビューした頃、障がい者スポーツの結果については、新聞のスポーツ面で扱われることはほとんどありませんでした。扱うのは社会面が中心で、「感動した」「勇気をもらった」といったステレオタイプのまとめ方になっていました。

「なぜ健常者も障がい者も同じスポーツをやっているのに、健常者はスポーツ面で、障がい者は社会面なのか……」

 国枝さんから、そう聞かれて、返事に窮したことがあります。

 このような問題提起がきかっけで、近年はどの新聞も障がい者スポーツを、きちんとスポーツ面で扱うようになってきました。当然と言えば当然ですが、そうなるまでには時間がかかったのです。

 さらに国枝さんは、こんなことも語っていました。

「車いすに乗ってテニスをしているということで、よく“偉いね”と言われるんです。僕は別に偉くも何ともない。ただ、皆さんが好きなスポーツをやるように、車いすの僕でもできるスポーツは何かないかと探しているうちに、車いすテニスに巡り合っただけなんです」

 オリンピックが「平和の祭典」なら、パラリンピックは「人間の可能性の祭典」です。車いすテニスについて言えば、高度な車いす操作が必要とされるため、「へぇー、こうやって(車いすを)操るのか」と見ているだけで新鮮な発見があります。

 勝ち負けも大事ですが、それ以上に重要な生きるためのヒントや、困難の克服の仕方が障がい者スポーツには、たくさん含まれています。テレビを含むメディアのユニバーサルサービスに関する使命については、もっと議論があってもいいかもしれません。

二宮清純

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