日本高校野球連盟(高野連)は20日、「投手の障害予防に関する有識者会議」の第3回会合を開き、投手の球数制限に関し、「1週間で500球以下」と決定しました。この球数制限は11月の高野連理事会を経て、早ければ来春のセンバツから導入される見通しです。
球数制限の詳細は以下のとおりです。対象となるのは春と夏の甲子園大会と各地方での公式戦で、他に軟式野球の公式戦にも適用されます。導入にあたっては3年間の試行期間が設けられ、その間は罰則のない「努力目標」とされます。
同会議の中島隆信座長(慶應義塾大教授)の説明はこうです。
「球数制限には複数投手制が必要となり、投手の育成には時間がかかるため、3年間の試行期間を設け、本格導入はその後になります」
また正富隆委員(高野連医科学委員会委員)は、「500球」の根拠についてこう述べました。
「基準としたのは1995年に出された日本臨床スポーツ医学会による“高校生は1日100球、1週間500球を超えないこと”という提言。強いエビデンスがあるわけではないが、500球でスタートして、それを検証する努力をしたい」
高校野球の現場を誰よりも知る元横浜高校監督の渡辺元智委員も、今回の決定には概ね賛成のようです。会議後にこう語っていました。
「現時点で500球というのは理想的な数字。地方大会でも投手の過度な負担が減るでしょう」
また今回の会合では500球の球数制限以外にも規制案が示されました。そのひとつが金属バットに関する規定の見直しです。
現在、高校野球で使用できる金属バットの最大径は67ミリ。これを64ミリにするというのです。64ミリは木製バットの平均的な太さで、反発力の抑制が狙いです。バットに関する新規定は最短で2022年からの導入を目指しています。以下は田名部和裕委員(日本高野連理事)の説明です。
「(バットの最大径を細くすることで)若干、飛距離は落ちますが、打撃優位の環境を変えないと、投手の障害予防にはつながらない」
ここで改めて金属バットの歴史を振り返りましょう。木製から金属に変わったのは74年の夏でした。材料となる木材の不足や、折れやすい木製バットによる部活動費用の負担軽減などが主な導入理由でした。
木製バットの時代、甲子園の最多本塁打数は19本(24年夏)でした。それが金属バットの導入により、高校野球はガラッと変わってしまいました。ランナーが出れば、決まって送りバント。1点を確実に取る野球から、取られても取り返す攻撃的な野球へと変貌を遂げたのです。
その象徴が“やまびこ打線”の異名をとった池田高(徳島)でした。同校が初優勝を果たした82年夏、大会通算本塁打は、それまで最多だった79年夏の27本を5本上回る32本に増加しました。2年生ながら「5番レフト」で2本のホームランを放って優勝に貢献した水野雄仁さんは、こう語っていました。
「池田が“イレブン旋風”を巻き起こして準優勝したのは74年のセンバツでした。実はその年の夏の大会から金属バットの使用が許可されたんです。つまり、その時のセンバツが木製の最後の甲子園だったんですよ。だからバントなどの小技を用いて、少ない得点で勝つことのできる最後のチャンスだったんです。ところが、金属になってからはそれでは勝てなくなってしまった。そこで僕たちの代になって、蔦文也監督がウエイトトレーニングを始めるんです。僕が1年の冬から2年の春にかけてやったら、身体つきも変わりましたし、何より打球の速さが違いました。それでホームランを量産するようになったもんだから味をしめて、ガンガンにウエイトトレーニングをさせるようになったんです」
21世紀に入り、高校野球の“打高投低”はさらに進みました。06年夏に初めて60本台(60本)に乗り、17年夏には68本にまで記録を伸ばしました。
カキーン、カコーンと快音の響く甲子園ですが、一方で金属バットの弊害を指摘する声は後を絶ちません。横浜DeNAの主砲・筒香嘉智選手もそのひとりです。
<金属バットは、とにかく当てれば遠くに飛んでいきます。腕を使って上体だけで振っても、当たれば軽く飛んでいく感じです。それに比べて木製のバットは、インサイドからきっちりバットを出していかないと、しっかりボールをとらえることはできません。(中略)いままではこれくらいの振りであそこまで飛んでいたのに、木製バットで打ったら全然、飛ばなくなってしまう。それでどんどんバッティングそのものが崩れる原因にもなりました。>(「空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ」自著・文藝春秋)
8月30日から9月8日にかけて韓国・機張郡で行われたWBSC U-18野球ワールドカップにおいて、高校日本代表は5位に終わりました。奥川恭伸投手(星稜・石川)を中心にしたピッチャーは奮闘し、12チーム中トップの防御率(1.58)を残しましたが、打線が振るいませんでした。打率2割5分9厘はスーパーラウンドに進出した6チーム中5位でした。甲子園では活躍しても国際大会では通用しない----。そんな状況を改善する上でも“飛ぶバット”からの決別は急務と言えるでしょう。
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