二宮清純
二宮清純コラム甲子園、光と影の物語毎月第4木曜更新
2019年10月24日(木)更新

78年センバツ、津田恒美の衝撃デビュー
ライバルが見た“炎のストッパー”の原点

 元広島の津田恒美さんが亡くなって、早いものでこの7月で26年が経ちました。津田さんは、学年で言えば、私よりひとつ下です。同年代ということもあり、思い入れの強い選手のひとりです。甲子園には南陽工(山口)のエースとして、78年の春と夏に出場しています。

ニックネームは「ツネゴン」

 津田さんのニックネームは「ツネゴン」でした。「~ゴン」の由来は円谷プロのプロデュースによる「ウルトラQ」にありました。一世を風靡したこの番組には「カネゴン」や「ナメゴン」といった個性的な「怪獣」が数多く登場しました。つまり、津田さんは「怪獣」なみのスケールを誇っていたということです。

 センバツの1回戦で津田さんを擁する南陽工は愛知の刈谷と対戦しました。初回、なんと津田さんはランナー2人を置いてレフトラッキーゾーンに3ランホームランを叩き込みました。津田さんは快速球より先にバットで怪獣ぶりを発揮したのです。

 結局、このゲーム、津田さんは刈谷打線から10三振を奪う力投で、ホームベースを一度しか踏ませませんでした。後半、やや球威が落ち、刈谷打線にストレートを狙われましたが、それは前半から飛ばしに飛ばしたせいでしょう。いずれにしても、このゲームで津田さんの評価は一気に高まり、その人気は全国区となりました。

 続く2回戦、東海大四(北海道)を7対1で下した南陽工は、ベスト4進出をかけて福井商と戦います。この北陸きっての強豪には板倉利弘投手というアンダースローの好投手がいました。

 板倉投手は高校生のレベルにおいては完成されたピッチャーでした。流れるようなサブマリン投法からストレートと変化球を巧みに投げ分け、しかもコントロールが抜群ときていました。いくら好調な南陽工打線とはいえ、この技巧派の好投手から3点以上とるのは難しいように思われました。

 案の定、試合は1点を争う好ゲームとなりました。勝敗を分けたのは1回、南陽工の守備陣が見せたちょっとしたスキでした。北陸勢とはいえ、豊富な甲子園出場を誇る福井商はエラーに乗じて盗塁とスクイズで「ツネゴン」を揺さぶり、2点をもぎとったのです。

 この2点をバックに板倉投手は打ち気にはやる南陽工打線を手玉にとりました。胸元にキレのあるシュートを投げ、バッターの腰を引かせたかと思うと、次には外角いっぱいをかすめるようなカーブで南陽工打線につけ入るスキを与えませんでした。

 それでも南陽工は最後まで抵抗しました。9回1死から2本の長短打で1点を返すと、さらに追い打ちをかけるようにファーストランナーが盗塁を試みました。板倉投手を揺さぶろうという作戦です。

 しかし、ここは福井商のバッテリーが一枚上でした。同点のランナーは二塁ベース上であえなく憤死。南陽工のベスト4進出の夢が潰えた瞬間でした。

「新幹線のような速さ」

 津田さんと投げあった板倉さん(現コスモ石油)に、久々に話を聞きました。

----津田さんの思い出は?

「ボールに伸びがあった。僕は4打数1安打。1本のヒットは振り遅れた打球を、たまたまファーストが捕れなかったためのもの。あとはファウルばかり。前に飛ばなかった印象があります」

----マウンドでの態度は?

「ひょうひょうとしていましたね。プロで“炎のストッパー”と呼ばれたような気迫は、この当時はまだ感じませんでした」

 実は津田さんと板倉さんの間には他にも因縁があります。高校卒業後、板倉さんは社会人野球の丸善石油に、そして津田さん地元の協和発酵に進みました。1981年の社会人野球日本選手権大会で両チームは対決したのです。

----3年ぶりに津田投手を見た印象は?

「この時、僕は肩やヒザを痛めていてマウンドには上がれませんでした。ベンチから見る津田には、モーションに迫力が感じられました。3年前に比べると随分、たくましくなっていましたね。この試合、結局ウチは0対2で完封負けを喫するのですが、それを手土産に津田は広島からドラフト1位指名を受け、プロに行きます。ウチはこの試合を最後に廃部になってしまったんです。そんなこともあって、この試合は忘れることができませんね」

 1年目、津田さんは11勝をあげ、新人王に輝きます。だが、2年目以降はルーズショルダーや血行障害に悩まされ、手術を経て、86年からクローザーを任されるようになります。闘志を前面に出す鬼気迫るピッチングから“炎のストッパー”の異名を取りました。

 私が取材した中で、最も印象に残っているのが元巨人の中畑清さんのコメントです。

「これまで対戦したピッチャーの中で一番速かったのは誰かと聞かれたら、それは文句なく津田だね。そりゃ、速かったよ。バットを振ろうと思うと、もうミットに届いているんだ。なんだかバッターボックスに立っているのに、プラットホームで新幹線を見送っているような感じだったね。

 全盛期、彼のストレートはわかっていても打てなかった。腕がやや遅れて出てくるため、1,2、3のタイミングで打とうとしても全くタイミングがとれないんだ。これでフォークボールでも投げられてた日には、もうお手上げだったね」

 悪性の脳腫瘍のため、32歳の若さで他界した津田さん。この5月には広島駅からマツダスタジアムに向かうカープロード沿いに津田恒美記念館がオープンしました。ユニホームやグラブ、スパイクといった野球用具の他に、高校時代に愛用していた文具類も展示されているそうです。

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