吉田輝星が体験する「書かれざるルール」。大差でフルスイング、新庄剛志に報復死球【二宮清純コラム】

2018年9月4日(火)更新

15:00

吉田輝星が体験する「書かれざるルール」
大差でフルスイング、新庄剛志に報復死球

　第12回BFA U18アジア選手権(宮崎/9月3日～9日)が始まりました。この大会には日本の他、香港、韓国、スリランカ、中国、チャイニーズ・タイペイ、パキスタン、インドネシア、計8つの国・地域が参加しています。上位2チームには来年夏の「WBSC U-18ワールドカップ」への出場権が与えられます。

侍ポーズ禁止令

　大会前に話題になったのが吉田輝星投手(金足農・秋田)への「侍ポーズ禁止令」でした。侍ポーズとは、投球開始前にマウンドに右膝をつき、中堅手とタイミングを合わせて刀を抜くように行うパフォーマンスのことで、彼のルーティンとして、この夏すっかりおなじみになりました。

　だが、今アジア選手権では「報復行為を避けるため」に日本高校野球連盟が禁止を通達しました。高野連では「吉田投手のルーティンということはわかっているが、国際大会では誤解を生み、報復につながりかねない」と説明しています。

　報復とは穏やかではありませんが、野球の国際大会ではルールブックには書かれていない不文律、通称「アンリトン・ルール」が存在するのも事実です。

「アンリトン・ルール」には以下のようなものがあります。大量得点差の終盤に送りバントや盗塁をしない、奪三振後に投手はハデなガッツポーズをしない、ホームランの後に打者は立ち止まって打球を見送らない……等々。これら「書かれざるルール」を破ると敬意を欠く行為と見なされ、当事者以外でも報復の対象となることがあります。

　昨年9月に行われた、U-18ワールドカップでは早実(東京)のスラッガー清宮幸太郎選手(現北海道日本ハム)が報復の対象となりました。カナダとの間で争われた3位決定戦、7点をリードして迎えた8回でした。2死二塁から日本の選手が三盗を試み、失敗に終わったものの、これがカナダベンチの怒りを買いました。9回、先頭打者として打席に入った清宮選手の背中に"報復球"が飛んできたのです。

「7点差とかつくと、挑発行為になるんですか? 報復されたのかな」

　清宮選手は不本意な表情で語りましたが、文字通り「アンリトン・ルール」ですから明確な規準などありません。カナダは「リスペクトを欠く行為」と見なし、清宮選手に"お返し"をしたのです。

新庄の"挑発"

　メジャーリーグの試合が日常的に見られるようになったことにより、「アンリトン・ルール」という言葉も広く浸透しました。しかし、国内において21世紀の初頭は、まだそうではありませんでした。2001年の5月には阪神からメッツに移籍したばかりの新庄剛志さんが報復の対象となりました。

　そのときの取材ノートには、こう記してあります。

＜5月25日、ニューヨーク、シェイ・スタジアム。メッツ対マーリンズ戦。0-3で迎えた7回1死。新庄はマーリンズのブラッド・ペニーから左肩に死球を受けた。実はこの死球は、ペニーによる報復だったのだ。

　話は前日に遡る。11-3と8点差リードで迎えた8回、新庄はカウント3ボール・ノーストライクからのストレートを強振した。空振りに終わったが一発を狙っていたことは誰の目にも明らかだった。その瞬間、マーリンズのベンチからは"サックユー(やってやるぞ!)"との声が上がった＞

　メジャーリーグ(マイナーリーグでも)においてゲームの行方があらかた決している場面で「死者にムチ打つ行為」は許されません。大差のついた試合終盤、ピッチャーがストレートでストライクをとりにくる3ボール・ノーストライクというカウントで、ホームランを狙って強振した新庄さんはマーリンズにとって「許されない選手」となったのです。

　加えて言えば彼とマーリンズの間には因縁がありました。同年3月、マーリンズとのオープン戦で、新庄さんは初ホームランを放ちました。ダイヤモンドを1周して戻ってきた新庄さんはベースを足でなく右手で払うようにタッチしたのです。これをマーリンズベンチは「挑発」と受けとめました。「俺たちをナメやがって!」というわけです。

　新庄さんは「次の打者がストライクゾーンを見やすいように」と土を払っただけで、悪意はなかった、と言います。しかし、メジャーリーガーからすればホームベースは「踏む」ものであって「払う」ものではありません。カルチャーギャップが巻き起こしたトラブルが報復死球の伏線だったといっても過言ではありません。

　最後にU-18日本代表に話を戻しましょう。吉田投手の他にも根尾昂選手(大阪桐蔭)、藤原恭大選手(同)、小園海斗選手(報徳学園・兵庫)など、このチームには将来、侍ジャパンのトップチーム候補が何人かいます。「アンリトン・ルール」を学ぶには、いい機会かもしれません。