二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年6月29日(金)更新

14:00

”ジャイアン”金村義明が輝いた夏
81年報徳V、予選から13連続完投

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 甲子園と聞けば太田幸司さん(三沢・青森)、定岡正二さん(鹿児島実業・鹿児島)、荒木大輔さん(早稲田実業・東京)、松坂大輔さん(横浜・神奈川)ら正統派のヒーローを思い浮かべますが、中にはヒール的な選手もいました。

対戦相手を威嚇

 81年夏「4番ピッチャー」、文字通りチームの大黒柱として報徳学園(兵庫)を日本一に導いた金村義明さんは、その典型のような選手でした。

 栄光の前には挫折もありました。同年のセンバツで金村さんは槙原寛己さん擁する大府(愛知)に初戦敗退を喫してしまったのです。名門・報徳の名折れです。

「大府は県立でセンバツ初出場ということもあってナメていた。入場行進の予行演習でわざわざ大府のところまでいって、 "おう、槙原出てこい。かかってこい! "と威嚇したんです。ところが、彼はモノが違っていた。試合当日、1球投げた瞬間、全員静まり返ってしまった。147キロのストレート、今まで見たことのないような速い球でした。結局3-5で初戦敗退。OBや監督から "お前の独り相撲や "とめちゃくちゃ怒られましたよ」

 それだけに夏の大会にかける思いは尋常ではありませんでした。初戦、盛岡工(岩手)を9-0でワンサイドで退けたのです。だが、2回戦の相手は前年の優勝校・横浜。金村さんは「チームメイトの親戚が経営している島根の民宿を予約した」と言います。「だって横浜ですよ。 "もう無理や。負けたら、皆で海に行こうや "と声をかけました。当時の野球部は肩が冷えるという理由で水泳禁止だったんです。夏休みの思い出に、せめて海にでも行きたいなと……」

 しかし、高校野球に波乱は付き物です。金村さんは投げては完投、打っては2ホームランの大活躍で横浜を4対1で撃破してしまったのです。

 ここからも報徳の試練は続きます。続く3回戦は2年生エース荒木の早実。前年夏の準優勝校です。「もう予約していた民宿はキャンセルですよ」。笑いながら金村さんは振り返ります。

「僕は荒木君に対してはジェラシーの塊でした。というのも、当時の荒木フィーバーはハンパなかった。 "松田聖子カット "の女子高生が甲子園にあふれ返ってるんです。彼が移動するたびにキャーキャー、ワーワー。京阪神間の女子高生を皆、もっていかれてしまった。反対に報徳は女の子が逃げていくような高校でしたから(笑)。まして、荒木君はひとつ年下。 "こいつにだけは絶対に負けられん "と、気負いまくっていましたよ」

 案の定、気負いは "凶 "と出てしまいます。9回表が終わった時点で1-4と敗色濃厚。9回裏、先頭のバッターが金村さんでした。

「正直、 "もうこれは負けや "と諦めていました。荒木君に "もうウチら負けやけど、最後は勝負せいよ "とボールを渡したんです」

 要するにストレートで勝負してくれ、という要求です。この "ディール "が功を奏しました。金村さんは微妙な判定の内野安打で出塁すると、そこから打線がつながり4-4の同点に追いついたのです。

 そして迎えた延長10回裏、2死から金村さんは左中間を破るツーベースを放ちました。サヨナラのホームを踏んだのも金村さんでした。

「マウンドは譲らん」

 勢いに乗る報徳は準々決勝で今治西(愛媛)を3-1、準決勝は工藤公康さん擁する名古屋電気(現愛工大名電・愛知)を3-1で下し、いよいよ残すは決勝だけ。頂点は目前でした。

 だが、金村さんの体力は限界に達していました。炎天下のマウンドで疲れ切り、決勝前夜は食事もノドを通らなかったといいます。

「当時、スポーツ栄養学なんてまだ広まっていない。決勝戦を前にして出てきた食事はステーキとトンカツ、 "敵に勝つ! "ですよ。とてもじゃないけど揚げ物はムリ。それで母親に連絡して "助けてくれ "と。母に焼肉屋に連れていかれ、どじょうをすり下ろしたのをご飯にかけてガーッて食べた。さらに "精がつくから飲みや "とコップで出されたのをグイッと飲んだら、高麗人参でした(笑)。体がカーッと熱くなって、最後は漬けていた高麗人参もバリバリ食べて、それでなんとか体力回復。どうにか決勝のマウンドに上がることができました」

 京都商(現京都学園・京都)との決勝戦、金村さんは100球を投げ、2-0で完封勝利を収めました。最後のバッターは三球三振でした。狙っていたのでしょうか?

「僕は甲子園を最後にピッチャーを辞めようと思っていたから、最後はピッチャーとしての意地ですよ。3球ともアウトローのまっすぐ。100球ちょうどで完封勝利。狙ってもできませんよね、こんなこと」

 自画自賛です。この年、金村さんは地方大会7試合、甲子園6試合の計13試合を、たったひとりで投げ抜きました。これは当時、戦後2人目の快挙として話題になりました。それはともかく、報徳ほどの強豪校なら控え投手もいたはずです。彼らに任せる気はなかったのでしょうか。

「僕は最後の甲子園にかけていました。監督は2番手、3番手を投げさせようとしましたが、それで負けたら悔いが残る。 "絶対にイヤや "とマウンドを譲らなかった。負けたら終わりですからね。優勝から20何年か経って、控えピッチャーに"オマエも1回くらい甲子園のマウンドに立ちたかったやろうなァ。でも、もしオマエが投げて負けていたら、生かしておかんかったでェ"と言うと、"いやぁ、ホンマに投げんで良かった"と笑っていましたよ」

 ベビーフェイスだけが甲子園のヒーローではありません。金村さんのような "ジャイアン "タイプが光り輝くのも、甲子園の魅力のひとつだと個人的には考えています。

K.Ninomiya二宮清純
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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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