二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年8月17日(金)更新

15:00

184球完投は「美談」か「酷使」か!?
次なる百年に向け安全確保と健康管理を

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 節目となる100回目の甲子園も、いよいよクライマックスを迎えます。熱戦続きのなか、2つの意味で注目を集めたのが12日に行われた2回戦、済美(愛媛)対星稜(石川)戦です。

橋下徹の指摘

 延長13回、タイブレークまでもつれこんだ激闘は史上初めて逆転サヨナラ満塁ホームランで決着がつきました。その一方で済美のエース・山口直哉投手が184球を投げたことに対しては批判の声が上がりました。

 その急先鋒が橋下徹・前大阪市長でした。自身のTwitterでこうつぶやきました。

<投球数制限は直ちに導入すべき。こんな不合理・非科学的なことをやり続ける国は、前近代的野蛮国家だ(後略)>(2018年8月13日ツイート)

 山口投手は8回裏、右ひざ付近に死球を受けました。その影響からか、2点リードで迎えた9回表には4本のヒットを打たれて同点に追いつかれてしまいました。そうしたハンディを抱えながら、ひとりで投げぬいた精神力の強さには頭が下がります。

 試合後、山口投手はこう語りました。

「(8回に)仲間が逆転してくれたので、絶対に負けたくないと思って投げた。(死球の痛みはあったが延長でも)マウンドは譲れないという気持ちだった。次の試合も1人で投げ抜きます」

 山口投手は1回戦の対中央学院(西千葉)戦でも完投し、8月15日現在、甲子園で計22イニング、293球を投じています。愛媛県大会初戦から数えれば7試合連続完投です。

 済美・中矢太監督は試合後、山口投手の184球をこう称えました。

「もともとスタミナはある選手ですが、暑さもあったので心配していましたが、延長戦に入り球速が持ち直して(編注・延長12回に143キロをマーク)、キレも出てきていた。他の投手も準備をしていたし、山口とは"行けるか?大丈夫か?何かあったらすぐに言えよ"と話をして状態は把握していました。死球が当たったことも心配していたけど、とにかくそういう状況の中、本人が気力で投げてくれたと思います」

 監督と選手の絆の深さが窺われます。しかし、「行けるか?」と聞かれ、「行けません!」と言い返す高校生はいないでしょう。「大丈夫か?」と問われると「大丈夫です!」と答えるのが常です。

「子供への虐待」

 済美には54人もの部員がいます。監督が山口投手に絶大の信頼を寄せているのはわかりますが、「他にピッチャーはいないのか?」と心配になった向きも少なくないでしょう。

 というのも、済美には、過去にもピッチャーの投げ過ぎが物議をかもしたことがあったからです。2013年のセンバツ、2年生エース・安樂智大投手(現東北楽天)は、決勝戦の6回にマウンドを降りるまで772球を投げました。

 これに「酷使だ」と噛み付いたのが米国の野球専門誌「ベースボール・アメリカ」です。「メジャーの投手なら5~6週間分に相当する球数」と疑問を呈しました。

 米Yahooスポーツに10年以上寄稿しているベテランのベースボール・コラムニスト、ジェフ・パッサン氏は自著「豪腕 使い捨てされる15億ドルの商品」(ハーパーコリング・ジャパン刊)でこう述べています。

<この数字は日本では有名になり、日本以外では酷評された。この772球は太平洋と同じくらい大きな文化差を象徴している。「これは子どもへの虐待ですよ」と、日本のトップ選手の代理人を長く務める団野村は言った。日本の大衆は安樂の名に"怪物"という冠をかぶせた。野球選手にとってこれ以上の褒め言葉はない。甲子園でもこの異名を与えられるのは超絶的な投手に限られる。ゲームを支配する力や抜群の成績があればこの名がつくわけではない。マウンドに上がったときの存在感と威圧感と"野球"の中核原理である闘争心、つまり欲求と意志の組み合わせが必要になる。アメリカでは安樂は、投手の腕に配慮しない無謀な時代錯誤的システムから生まれた犠牲者とみなされた。10代の投手の腕をあえてここまで酷使するコーチは、愚か者か正気でないか、その両方かだ。>

 もちろん投げ過ぎが即、故障につながるわけではありません。球数よりも投げ方をチェックすべし、という専門家もいます。

 一方で、高校時代の投げ過ぎが原因で、その後、故障に泣いた選手がたくさんいるのも事実です。かつては「腕も折れよとXXX球」といった具合に「酷使」を美化するような報道もありました。いずれにしろ、高野連には次なる100年に向け、選手の安全確保、健康管理に万全の注意を払ってもらいたいものです。

K.Ninomiya二宮清純
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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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