昨季、巨人の5年ぶりのリーグ優勝に貢献した元木大介さんは、その功績が認められ内野守備兼打撃コーチからヘッドコーチに昇格しました。今では文字通り原辰徳監督の右腕です。
巨人一筋15年、元木さんの代名詞は「くせ者」でした。
元木さんによると、「くせ者」と命名されたのは、「入団して3、4年目くらい」だそうです。命名の経緯と理由については、こう語っていました。
「僕にしてみれば、右打ちにしても特別なことをしている感覚ではなかったんですが、それをやったことで長嶋茂雄監督にもイメージがつき、そう呼んでくれた。
そうなると、さすがに長嶋さんの影響力はすごくて、相手も僕が出てくると何かやるんじゃないか、何をやるんだっていうふうに見てくれる。“ああ、元木か。イヤなヤツが出てきたな”と、そう思われたらプロの選手としては存在感が増していくわけですよ。
だから、そういう言葉をちらほら聞いたときには“ああ、やってて良かったな。あのときに4番を捨てて、相手が嫌がることは何かというのを自分の中でやってきて良かったな”と思いましたね。自分で言うんじゃなくて、相手が言ってくれるわけですから」
この元木さんを誰よりも嫌っていたのが中日監督時代の星野仙一さんです。嫌っていたとはいっても、もちろん人間性ではありません。その理由について聞くと「アイツは何をしてくるか読めん」と吐き捨てるように語ったものです。
これを受けての元木さんの感想です。
「野球選手として最高の褒め言葉ですよね。中日から巨人にトレードできた前田幸長さんに聞いたんです。“星野さんはウチで誰を一番イヤがっていますか。やっぱりヨシノブ(高橋由伸)ですか?”と。そうしたら“お前だよ、お前”って。
いつだったか中日戦で2安打した後、次の打席に入ると、ベンチから“いったれー、いったれ!”と星野さんのヤジが飛んできた。“いったれって、どこに?”と、もう気になって気になって集中できなかったことがあります」
元木さんの背番号77は星野さんが監督時代に付けていたもの。もとをたどればV9巨人の指揮官・川上哲治さんが背負っていたものです。中日の監督に就任する際、星野さんが川上さんの野球を手本したのは有名な話です。
ところで元木さんの「くせ者」の原点は高校時代にあります。元木さんが初めて甲子園の土を踏んだのは1988年のセンバツ、元木さんは上宮高(大阪)の2年生でした。
上宮は3回戦で優勝候補の高知商と対戦しました。ショートを守っていた元木さん、ピンチの場面でベースを離れた二塁ランナーにススッと近づき、ポンとタッチしたのです。
走者はキツネにつままれたような表情で呆然と立ち尽くしていたと言います。そりゃそうでしょう。高校野球で、まさかの隠し球をくらってしまったわけですから。結局、ゲームは元木さんの頭脳的プレーもあり、7対3で上宮が勝ちました。
大変だったのは試合後です。上宮に高校野球ファンから抗議電話が殺到したというのです。「卑怯なことをするな」「ちゃんと教育しているのか」「高校生らしくない真似をさせるな」……。
隠し球は違反でも何でもありません。しかし高校野球ファンには「卑怯な行為」と映ったようです。
それを受け、監督の山上烈さんは元木さんに「気にするな」と声をかけました。最初、元木さんは「何のことかさっぱりわからなかった」そうです。自分のプレーが原因で母校に苦情電話が殺到していることを知らなかったというのです。
「どうもそれ以来、高校野球では隠し球が禁止になったみたいですよ」と元木さん。真偽の程はわかりませんが、それだけインパクトの強いプレーだったということでしょう。
ちなみにプロ野球選手になってからも、元木さんは公式戦で2度、隠し球を成功させています。
最初は94年7月26日の阪神戦。4回1死二塁の場面で、二塁走者の久慈照嘉さんをアウトにしました。投手は桑田真澄さんでした。
2度目は97年6月26日の対横浜戦。0対0の8回、無死一、二塁の場面。ショートを守っていた元木さん、「一塁コーチが見ていなかった」ことをいいことに、グラブの中に球を隠し持ち、離塁した二塁走者の鈴木尚典さんにそっとタッチしたのです。この時の投手は斎藤雅樹さんでした。
元木さんに隠し球の極意について聞きました。
「ピッチャーの演技力が一番重要なんです」
----演技力?
「うまかったのは斎藤さんと桑田さん。プレートをまたいだり踏んだりしたらボークだけど、ランナーをだますためにギリギリを攻めるんです。2人とも素知らぬ顔でうまくとぼけてくれました。
逆に下手だったのは槙原寛巳さん。急にマウンド上でうろうろし始めるんです。“それじゃランナーが(塁から)出てくれないぞ”と思って見ていると、急に振り返って“ボール返せ”だって。根が正直なんでしょうね(笑)」
憎めない表情でサラッと答える元木さん。くせ者は永久に不滅です!
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