二宮清純
二宮清純コラム甲子園、光と影の物語毎月第4木曜更新
2021年10月28日(木)更新

04夏、大旋風巻き起こした駒大苫小牧
指揮官は道産子の意識をどう変えたか

 高校、大学、社会人、プロを通じ、北海道で初めて全国制覇を達成したチームは社会人野球の大昭和製紙北海道(現WEEDしらおい)です。1974年の都市対抗野球に白老町として出場し、黒獅子旗を北の大地に持ち帰りました。

「内地と外地」

 優勝メンバーの中には、68年夏、興南(沖縄)のキャプテンとして甲子園ベスト4進出の原動力となった我喜屋優さんもいました。これは沖縄の高校が本土復帰前に達成した甲子園における最高の戦績でした。

 我喜屋さんは都市対抗優勝の思い出を、こう述懐しています。

「北海道のチームは雑草軍団でしたが、地域の応援のおかげで、2万4千人しかいない白老市のチームが勝ち進んでいる。やはり社会人野球は根っこづくりからやっていけば強くなるんだということも感じました。また北海道に行ってよかったのは、冬場の半年間、雪や寒さに対する工夫や知恵がついてきたこと。そういった逆境を味方にしたのが北海道のチームでした」(沖縄電力公式HPより)

 その我喜屋さんから北海道での指導法を学んだのが、駒大苫小牧高校の監督として、夏の甲子園連覇(04、05年)を果たした香田誉士史さんです。

 駒沢大学で社会科教諭の免許をとった香田さんが、恩師である太田誠監督(当時)から呼び出され、北海道行きを告げられたのは23歳の冬でした。

 最初はコーチの予定でしたが、前任者が辞任したことで、いきなり監督のポストに就くことになりました。

 香田さんの回想。

「僕は九州出身ですから北海道の寒さには耐えられなかった。最初は教員住宅に入った。古いつくりなので、もうスカスカになっている。あまりにも寒いのでストーブをつけっ放しにして寝ると、母親に“あんた、バカなことをするんじゃない。そんなことしたら死ぬよ!”って叱られました。そりゃ、そうだと思ってストーブを消して寝ると寒さで凍え死ぬかと思った。起きたら側に置いていたペットボトルの水が凍っていました」

 北海道の人々は本州のことを「内地」と呼びます。この呼び方に香田さんは違和感を覚えたといいます。

「ということは北海道は外地なのか……。自分たちは外れている。野球は遅れている。ハンデがある。夏のスポーツはできない。自分たちで言い訳をつくっているのではないか……」

「地響きのような歓声」

 香田さんが最初に取り組んだのは選手たちの意識改革でした。そのためには言い訳のできない環境を自らがつくるしかない----。そう考えた香田さんはブルドーザーを使って雪をどけ、トンボでグラウンドを丁寧に均しました。

 選手に向かっては、こう言いました。

「今、この時間、本州の選手も外で練習をやっているけど、ウチだってやっているぞ。あとは寒いか寒くないか、地面が赤茶色か白いかの差だけだ。他には何の違いもないぞ!」

 監督に就任して7年目の01年、ついに香田さんは甲子園出場の権利を手にしました。同校としては35年ぶり2度目の甲子園でした。

 入場行進の練習の際、香田さんはあることに気が付きました。他校の選手たちが積極的によその学校の選手たちに笑顔で話しかけているのに対し、駒大苫小牧の選手だけは端の方でひとかたまりになっていたのです。

「それを見て無性に腹が立ったんです。“何やってるんだよ!”って。もう戦う前から気持ちで負けていた。でも、そういう僕と部長も開会式の日、新しいユニホームで出かけてしまっていた。開会式って試合のないチームはただのお客さんだからユニホームで行く必要なんてないんです。選手たちだけを叱るわけにはいかない。僕たちも何も見えていなかったんです」

 駒大苫小牧が甲子園に大旋風を巻き起こすのはその3年後、04年の夏でした。

 気がつくと決勝まで来ていました。日大三(西東京)、横浜(神奈川)、東海大甲府(山梨)といった全国区の強豪を撃破し、勢いに乗りました。

 決勝の相手は春夏連覇を狙う四国の強豪・済美(愛媛)です。

 2回が終わって1対5。ゲームは一方的な展開になりそうな気配を漂わせていました。

「2回か3回あたりで選手に聞いたんです。“おい、大丈夫か?”って。すると“全然いけますよ”と。そうしたら本当に逆転してしまった。あの時のスタンドの地響きのような歓声は未だに忘れられません」

 終わってみれば13対10。北海道勢が初めて甲子園に姿を見せたのは1920年の第6回大会(北海中)。84年の歳月を経て、ついに深紅の大旗が津軽海峡を越えたのです。

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