清宮、安田、中村。史上最強U-18に木製の壁。世界の王の教えは「体で振るな」「壁を作れ」【二宮清純コラム】

2017年9月12日(火)更新

13:00

清宮、安田、中村。史上最強U-18に木製の壁
世界の王の教えは「体で振るな」「壁を作れ」

　またしても世界一にはなれませんでした。カナダで開催されていた「第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップ」。野球日本代表(侍ジャパン)U-18は3位に終わりました。11日、カナダとの3位決定戦に勝利した後で、主将の清宮幸太郎選手(早稲田実・東京)はこう語りました。

「4番に使い続けてもらいましたが、なかなか打ってランナーをかえすことができなかった。自分が打たなきゃ負ける。もっと打っていれば……」

チーム打率2割5分1厘

　野球のU-18ワールドカップは81年、U-18世界選手権として始まりました。今回は日本の他、カナダ、韓国、チャイニーズ・タイペイ、オーストラリア、イタリア、ニカラグア、アメリカ、キューバ、メキシコ、オランダ、南アフリカの12チームが参加しました。

　戦前、今年の代表メンバーは"史上最強"との呼び声も高く、もちろんチームの目標は世界一でした。特にクリーンアップは強力で、高校通算65本塁打の安田尚憲選手(履正社・大阪)、同109本塁打の清宮選手、そして今夏の甲子園で1大会個人最多となる6本塁打を記録した中村奨成選手(広陵・広島)と超高校級のスラッガーが揃いました。だが、世界の壁の厚さは想定していた以上でした。

　安田選手はスーパーラウンド初戦のオーストラリア戦でサヨナラ打を放つなど気を吐きましたがホームランはゼロ。清宮選手は2本のホームランを放ったものの、9試合で32打数7安打、2割1分9厘。中村選手は打率1割2分と低迷しました。チーム打率2割5分1厘。厳しい言い方をすれば看板倒れでした。

　打撃不振の原因は木製バットへの対応力不足につきます。04年、第21回大会にU-18日本代表を率いて出場した渡辺元智さん(横浜高校前監督)は、11日付けのスポーツニッポン紙で、こう持論を述べていました。一部を引用しましょう。

＜金属なら当てれば飛ぶが、木製では飛距離が5メートル以上変わる。加えて、特に米国や韓国の投手は動く球を操る。攻略には、より見極めを徹底する必要がある。最近の日本の高校野球全体に言えることだが「楽しくやる」ことが前提となり、初球からフルスイングする流れに変わってきた。打者の体力が向上して、金属なら簡単に本塁打を打てる。一方で粘って甘い球を待ったり、見極める力が全体に落ちてきてはいないだろうか＞(スポーツニッポン9月11日付紙面)

　さて、金属から木製へのスイッチと聞くと思い出すのが、社会人スラッガーたちの苦悩です。社会人野球では79年から2001年まで金属バットの使用が認められていました。国際大会も然りです。当時、プロ野球のスカウトはよく言ったものです。「社会人の4番はプロでは大成しない」と。

五輪4番の苦悩

「僕もプロに入ったばかりの頃、"金属とは違うんだよ。苦労するぞ"と、先輩に散々言われましたよ」

　こう振り返るのは元福岡ダイエー(現ソフトバンク)の松中信彦さんです。松中さんは新日鐵君津時代の96年、アトランタ五輪に4番打者として出場しました。決勝のキューバ戦での同点満塁ホームランは今も語り草です。外角の変化球を左中間に放り込んだ一撃がプロのスカウトの評価を変えました。「逆方向に打てるなら大丈夫だろう」と。

　97年、逆指名(ドラフト2位)でダイエーに入団しました。即戦力と期待されていた松中さんですが、やはり"木製の壁"にぶつかりました。1年目の成績は20試合で打率2割9厘、ホームランはゼロ。眠れない日々が続きました。

「正直言って最初のうちは木製の使い方がわからなかった。例えて言うならば金属がボールとの衝突であるのに対し、木製はムチ。先にヘッドを出すんじゃなく、ムチのようにボールが当たる瞬間にヘッドを走らせる。そんなイメージなんです。金属に慣れ親しんでいると、どうしても(バットが外から出る)ドアスイング気味になる。インコースを攻められると手が出ない。苦労しましたよ」

　では、どのようにして克服したのでしょう。当時の監督・王貞治さんのアドバイスが打撃開眼につながったと松中さんは言います。

「プロに入る前は"バットは体で振れ!"という教えでした。しかし王さんの教えは、それとは逆。"体で振っちゃいかん"と。"壁をしっかり作って、ちゃんとミートポイントまでバットを出せ"というものでした。最初は意味が分からなかったけど、打てるようになると理解できました。確かに体で振るとバットがムチのようにしならないんですね」

　プロ入り3年目の99年、松中さんは23本塁打を放ってダイエーの初優勝に貢献しました。それ以降の活躍は改めて説明の必要もないでしょう。04年には平成初の三冠王に輝いています。

　社会人出身でオリンピックにも出場した松中さんですら、木製を使いこなすには時間がかかりました。いくら超高校級とはいえ、経験の少ない選手たちに木製での結果を求めるのは酷でしょう。ましてや世界大会です。プレッシャーに打ち克つのは容易ではありません。

　ここはひとつ、松中さんへの王さんからのアドバイスを参考にしてみてはどうでしょう。体で振らない。壁を作れ。まずは隗より始めよ、です。