長い歴史を誇る高校野球史上、1大会で2度のサヨナラホームランを記録したチームは1990年春の準優勝校・新田(愛媛)だけです。快挙の立役者に話を聞きました。
今回の主人公は新田の一番セカンドとして準優勝に貢献した池田幸徳さんです。現在は地元のテレビ愛媛というテレビ局に勤務しています。
春夏通じ初出場の新田を率いたのは、当時52歳の一色俊作監督です。「高校野球史上最高の名勝負」と呼ばれる60年夏の松山商(愛媛)対三沢(青森)戦で、松山商を日本一に導いた名将です。
初戦、前橋商(群馬)を9対1で破った新田は、2回戦で日大藤沢(神奈川)と対戦します。9回表が終わって、スコアは日大藤沢の4対1。新田打線は日大藤沢のエース荒木孝二投手を打ちあぐねていました。
9回裏、1死無走者で打席に立った池田さんは四球を選びます。この後、2番・松本洋介選手、3番・堀内勝也選手の連打で1点を返し、なおも1死一、二塁。ここで打席に立ったのが4番・宮下典明選手です。
ベンチを出る宮下選手に、一色監督はこう告げたそうです。
「4番らしい三振をしてこい!」
この一言で迷いが吹っ切れたのか、宮下選手は荒木投手のストレートをバックスクリーンにまで運びます。値千金の逆転サヨナラ3ランホームランでした。
2本目のサヨナラホームランは準決勝の北陽(大阪)戦で飛び出しました。延長17回裏、レフトスタンドに劇的なアーチを架けたのが池田さんです。
この試合、北陽は先発・寺前正雄投手、新田は先発の松田卓也投手から荒川孝史投手、山本雅章投手とつなぎ、試合は3対3のまま延長戦に突入します。前の試合の東海大甲府(山梨)対近大付属(大阪)戦が延長13回と長引いたため、この試合は試合途中から照明が点灯されました。新田の選手たちにとっては公式戦で経験する初めてのナイトゲームです。
通常、ナイトゲームはデイゲームよりもピッチャーが投じるボールが速く見える、と言われます。「大会一の好投手」と評判の寺前投手から、新田打線が点を取るのは難しいように思われました。
しかし、池田さんは「どこかで勝つチャンスがやってくる」と思っていたそうです。
「皆さん、“甲子園は広かった”と言うでしょう。だけど、僕には狭く思われたんです。お客さんも多いし、外野スタンドまでが近く感じられたんです」
延長17回裏、池田さんは先頭打者でした。「何も考えず、とにかく来たボールを打つ」という思いだけで打席に入りました。
「カウント1-1からの真ん中に近いストレート。打った瞬間にホームランとわかりました。ラッキーゾーンを越えてスタンドまで飛び込んだな、と。僕の力というより寺前君のスピードボールに対し、いいタイミング、いい角度でバットが当たった。打った瞬間の感覚は覚えていないですね」
その時の写真があります。新田はベンチから選手全員が飛び出し、“手荒い祝福”で池田さんを迎えました。その向こうに、帽子を目深にかぶり、がっくりとうなだれる寺前投手が写っています。勝者と敗者のコントラストが薄暮れの甲子園にくっきりと描き出されています。
「実は僕、あのセンバツまで公式戦では1本もホームランを打ったことがなかったんです」。池田さんは、不思議そうな表情で言い、こう続けました。「それが甲子園では2本(1本目は初戦の前橋商戦)ですから。あんなところで、僕が(サヨナラホームランを)打つなんて、仲間の誰も思っていない。だから、あれだけ大騒ぎになったんだと思いますよ」
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