二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2018年7月27日(金)更新
16:00
熱闘甲子園が”熱湯”甲子園に!?
猛暑の夏、求められる熱中症対策

全国高校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園に向けて、各地から続々と代表校が名乗りを上げています。大会を前にして気になるのは今年、日本列島を襲う猛烈な暑さです。
選手も応援団も搬送
21日、高知大会2回戦では高知商の3年生が足や腹筋の痙攣を訴え、市内の病院に搬送されました。暑さにやられるのは選手だけではありません。16日、岐阜県内の3球場では、スタンドで応援していた生徒ら計29人が熱中症の疑いで救急搬送されました。
場所によっては日中の最高気温が40℃を超す"異常気象"の下で、球児や応援の生徒を守る対策は急務と言えるでしょう。
23日に行われた京都大会準々決勝は、午前中から午後1時にかけて2試合を消化した後、約3時間のインターバルを設けました。第3試合のプレーボールは午後4時過ぎ、第4試合は午後7時過ぎ。この日、京都市内は午後2時過ぎに38.7℃の最高気温を観測しましたが、午後7時には33.2℃まで下がっていました。それでも猛烈な暑さです。
試合と試合の間に長時間のインターバルを設けるのは異例の措置ですが、日本高等学校野球連盟(高野連)は「選手、観客の生命と進行の遅れを天秤にかけたら、(2試合ずつに)分ける方に賛成する」(竹中雅彦事務局長)と京都高野連の対応を支持しています。
さらに8月5日から始まる本番でも2つの新しい熱中症対策が採用されることになりました。
「開会式では参加者全員に飲料を携帯させて式典途中に給水の時間を設ける」
「大会本部またはバックネット裏本部委員の判断で試合中、給水・休憩のための時間を取ることができることとする」
竹中事務局長は「他にもできることがあれば追加していきたい」と語り、こう続けました。「今年の甲子園では時間や日程の変更などは難しいが、おいおい考えましょうという段階ではない。そういうことも現実的な選択肢のひとつです」。
ところで、真夏の高校野球がどれほど過酷なのか。これは経験者に聞くより他にありません。上宮(大阪)で1989年夏の甲子園に出場した元木大介さんに話を聞きました。
炎天下の金属バット
「一番、暑い、というか熱いのは足の裏なんですよ」
足の裏とは、意外な答えでした。
「いやいや、本当ですって。昔、僕たちが履いていたスパイクはカンガルー革で、ソールが非常に薄かった。そこに金属の歯を釘で装着しているので、地面の熱がまともに足の裏にくるんですよ。尋常じゃない熱さです。だからスパイクの上からじゃんじゃん水をかけていました。"ムレて水虫になるんじゃないか"と心配しましたけど、まあその水もすぐに蒸発するくらいの熱気でしたよ」
元木さんはさらに続けました。
「次に熱いのが金属バットです。"さぁ、こーい!"って打席でバットを担ぐと、首筋に当たって"アチチッ!"となる(笑)。炎天下、地面に置いていた金属バットなんて持てないですよ。だからうちの高校はバケツの氷水で冷やして使っていました。よく強豪校の秘密として"冷やすと反発係数が上がって飛距離が伸びる"とか言いますけど、多少はあると思いますが、それが目的ではない。単純に熱いから冷やしたんです。甲子園ではベンチにバケツを持ち込めなかったから冷やしてませんでしたけどね」
ちなみに元木さんは"熱いバット"もものかは、この甲子園で1試合2ホーマーをかっとばしています。
「巨人時代、こういう"高校野球あるある"で盛り上がっていたんですけど、江川卓さんに言われましたよ。"お前らはまだいい。ユニホームがメッシュだっただろ"って。そういえば、江川さんの時代、ユニホームは綿の分厚いのでしたよね。アンダーシャツは着替えても、その上に汗で濡れてずっしりと重いユニホームを着るんですから……。真夏の高校野球は大変ですよ」
現在は汗の蒸発を促すアンダーシャツや速乾性素材のユニホームなど球児をサポートする用具の進化はめざましいものがあります。とはいえ人間の体の放熱機能には限界があります。熱闘甲子園が"熱湯"甲子園になってしまったらシャレになりません。熱中症対策には万全を期してもらいたいものです。

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