二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年11月21日(火)更新

15:00

稲葉ジャパン、2020年に向け好発進
監督未経験も「国際経験豊富」が強み

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 2020年東京五輪で金メダルを目指す野球日本代表(侍ジャパン)・稲葉篤紀監督が、初陣となる「アジアプロ野球チャンピオンシップ」で見事、優勝を飾りました。

 この大会は日本、韓国、台湾によるプロ野球代表対抗戦で、今回が初開催です。参加選手は24歳以下もしくは入団3年目以内の選手たち、オーバーエイジ枠が3名まで認められています。

「まだまだ勉強」

 参加国・地域は3つ。開催期間も4日間と小規模ゆえに、プレッシャーのかかる新人監督の船出にはぴったりの国際大会のように思われました。日本は予選2試合を連勝し、決勝の韓国戦も7-0と大勝。3連勝で優勝賞金2000万円を手にしています。優勝後、稲葉監督は初陣をこう振り返りました。

「初めての監督ということで至らないことがたくさんあり、選手に助けてもらいました。試合後、選手には"ありがとうございました"と伝えました。それが本心です。選手にはもっと成長してほしいし、私自身も監督として勉強することが山積みです。3年間かけてしっかり勉強して、金メダルをとれるように頑張ります」

 稲葉監督が代表監督に就任したのは今年7月でした。発表当初、「監督未経験で大丈夫か?」という声が上がりました。現役時代はヤクルト、北海道日本ハムで活躍し、通算2167安打を放った稲葉監督ですが、本格的な指導経験はありません。指導経験と言えば、日本ハムでの兼任打撃コーチ(1シーズン)と今年のWBCで短期間、打撃コーチを務めたくらいです。

 なぜ稲葉監督だったのか?その理由について中心メンバーとして選考に関わった侍ジャパン強化本部長の山中正竹さんはこう語っていました。

「今回、代表監督の選出に際して、まずWBCやオリンピックで代表監督を務めた方に会い、ご意見を伺いました。もちろん経験があった方がいいという元監督もいたし、未経験者でもいいんじゃないかという意見もありました。そのヒアリングを元にして代表監督に必要な条件をまとめ、強化委員会では、求心力、短期決戦対応力、国際対応力、五輪対応力の4つを必要条件にあげました。

 それに加えて基本として小久保ジャパンの流れを継承していくことも決めていました。というのも、これまで野球界では大きな大会が終わるたびに、スタート地点に戻ってしまうようなことがあった。またゼロに戻ってしまうわけです。そんなことをしていたのでは、球界に進歩はない。良いものは受け継いでいく。そうしたことも選考の対象にしたのは事実です」

 稲葉監督は今年3月、WBC日本代表の打撃コーチを務め、小久保ジャパンのベスト4進出を支えました。08年北京五輪、09年と13年のWBCには選手で出場しており国際対応力、五輪対応力も問題ありません。

名指導者の下でプレー

 元法政大監督の山中さんにとって稲葉監督はいわば教え子にあたります。大学時代の印象をこう語りました。

「中京高校から来た入学当初は"うわ、これはやっぱりすごいな"と思ったんですが、その後、期待していた程に伸びなかった。これは法政にはありがちなことなんですが(笑)。それで私が監督になったときに"キミはこんな選手ではないはずだよ。何をやっていたの?"と言ったんです。4年生のときでしたが、それから意識が変わり、ベストナインや日米大学野球、ユニバーシアードの代表にも選ばれました。でもプロの誘いは近鉄が"3位で指名しますよ"というものだけでした」

 周知のとおり稲葉監督はヤクルトからドラフト3位指名を受け、プロ入りしました。これについては有名なエピソードがあります。「あいつはわしに足を向けて寝られんな」と語るのは、当時のヤクルト監督・野村克也さんです。

「春の六大学で息子(野村克則さん・現東京ヤクルトバッテリーコーチ)の応援で明治対法政を見に行ったら、稲葉がいた。わしが見た2試合ともホームランを打って、"これはいい選手だ"と。スカウトに聞くと"いい選手だけど、プロでは難しい"と言われた。それでも諦められずに、ドラフト当日、まだ稲葉が残っていて、"行け!"と3位で指名したんですよ」

 再び、山中さんの述懐です。

「あのドラフトの後、ヤクルトのスカウト部門の責任者からは"すみません。事前に連絡も入れずに指名してしまって。野村さんが急に、行け! となったものですから……"と謝りの電話が入りました。逆に直前でさらわれた近鉄のスカウトからは"ウチしかないと言ってたのに……"と文句を言われましたよ(笑)。それにしても2000本以上を打つような選手になるとは、まさかですよ。性格が素直だったこと、努力を続けたこと。なによりも指導者に恵まれたことでしょうね」

 稲葉監督は現役時代、野村克也さん、トレイ・ヒルマンさん、梨田昌孝さん(現東北楽天監督)、栗山英樹さん(現北海道日本ハム監督)と新旧の名指導者の下でプレーしました。

「稲葉は監督として成功するでしょう。プロでも苦労していますからね。エリートで入ってきてスターのまま終わった選手だと、指導者になったときに底の浅さが露呈するもんです。誰かは言いませんけど(笑)。彼にはそういうところがないですから」

 滅多に人のことを褒めない野村さんもべた褒めです。2020年に向けて幸先のいいスタートを切った稲葉ジャパンの今後に注目です。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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