二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2021年1月8日(金)更新
15:00
人的補償で地元DeNAへ移籍の田中俊太
先輩・原辰徳監督に痛烈な“恩返し”を

FA権を行使し巨人入りした梶谷隆幸選手の人的補償として、田中俊太選手が横浜DeNAへ移籍しました。この移籍自体は昨年12月18日に両球団から発表されていましたが、年明けの5日、改めて横浜市内で入団会見が行われ、地元出身の田中選手は「求められて入団したので頑張りたい」と新天地での活躍を誓いました。
「二遊間争いに期待」
今オフ、巨人はDeNAから梶谷選手と井納翔一投手の2人をFAで獲得しました。
FAで選手を獲得した場合、獲得球団は旧所属球団に対し金銭補償もしくは金銭+人的補償の義務が生じます。井納投手は補償対象外のランクC(年俸順11位以下)のため、今回はランクB(年俸順4位~10位)の梶谷選手に対してのみ補償が必要でした。
白羽の矢が立った田中選手はプロ入り4年目の27歳です。神奈川県出身で東海大相模高から東海大へ進み、社会人(日立製作所)を経てプロ入りした田中選手にとって、横浜を本拠地とする球団への移籍は、いわば里帰りのようなものでしょう。
田中選手は昨季まで、吉川尚輝選手、若林晃弘選手、増田大輝選手らとポジション争いを展開し、レギュラー奪取こそなりませんでしたが3シーズンで209試合に出場し、打率2割3分9厘、7本塁打、32打点、10盗塁と、そこそこの数字を残してきました。DeNAでは大和選手、柴田竜拓選手、中井大介選手、伊藤裕季也選手らとの二遊間争いが待っています。
三原一晃球団代表は入団会見で田中選手への期待をこう述べました。
「粘り強い打撃が持ち味で長打力もある。さらにスピードもあって、走塁もうまい。走攻守揃ったバランスのとれた選手です。二遊間争いに絡んでくれると期待しています」
さて、田中選手の移籍を複雑な思いで眺めている巨人ファンも多いのではないでしょうか。というのも過去、巨人が人的補償で手放した選手が、新天地で活躍した例は少なくないからです。95年に補償制度が導入されてから、以下の選手が巨人から移籍しました。
◎巨人のFA人的補償選手(カッコ内はFA獲得選手)
1995年 川邉 忠義 →日本ハム(河野博文)
2001年 平松 一宏 →中日(前田幸長)
2005年 小田 幸平 →中日(野口茂樹)
2005年 江藤 智 →西武(豊田清)
2006年 工藤 公康 →横浜(門倉健)
2011年 藤井 秀悟 →横浜(村田修一)
2013年 一岡 竜司 →広島(大竹寛)
2013年 脇谷 亮太 →西武(片岡治大)
2014年 奥村 展征 →ヤクルト(相川亮二)
2016年 平良拳太郎 →DeNA(山口俊)
2017年 高木 勇人 →西武(野上亮磨)
2018年 長野 久義 →広島(丸佳浩)
2018年 内海 哲也 →西武(炭谷銀仁朗)
2020年 田中 俊太 →DeNA(梶谷隆幸)
「2軍監督時代に見ていた」
特筆すべきは一岡竜司投手と平良拳太郎投手です。一岡投手はプロ入り2年目のオフ、大竹寛投手の人的補償として広島に移籍しました。1年目の14年から16ホールドをあげるなど、セットアッパーとして活躍。昨季まで4度の二桁ホールドを記録しています。広島のリーグ三連覇(16~18年)にも貢献しました。
平良投手は16年オフに山口俊投手の人的補償としてDeNAに移籍しました。高卒4年目、変則サイドスローの大型右腕として将来を嘱望されていた彼のプロテクト漏れは当時、大きな話題となりました。新天地でプロ初勝利をあげた平良投手は、移籍2年目の18年から1軍に定着し、ここまで通算15勝。今ではDeNAの先発ローテーションになくてはならない存在です。
移籍時の年齢は一岡投手が22歳、平良投手が21歳。田中選手も野手としては27歳と若く、伸びしろに期待が持てます。
昨年12月、補償選手について聞かれた際のDeNA三浦大輔新監督のコメントが気になりました。
「決めるのはフロントだけど、僕も2軍監督時代にファームで良い選手を見ていたからね」
新監督のお眼鏡にかなったということでしょう。
移籍に際し田中選手は、高校・大学の先輩でもある原辰徳監督から「環境は変わるけど、野球人としてグラウンドでプレーできることは変わらない」と言葉をかけられたと言います。
「環境が変わることをチャンスと捉えたい。ジャイアンツで培ったものをしっかり出せると思う」と田中選手。
痛烈な“恩返し”に期待したいものです。

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