松坂大輔、12年ぶりの球宴出場へ!。ファン必見”平成のレジェンド”の雄姿【二宮清純コラム】

2018年6月19日(火)更新

12:00

松坂大輔、12年ぶりの球宴出場へ!
ファン必見”平成のレジェンド”の雄姿

　今年のオールスターゲームは7月13日(京セラドーム大阪)、14日(藤崎台・熊本)に開催されます。それに伴うファン投票最終中間発表で、中日・松坂大輔投手がセ・リーグ先発投手部門のトップに立っていることが報告されました。4日の中間発表で巨人・菅野智之投手を逆転。そこから票を伸ばし続け、現在、29万7763票を得ています。2位・菅野投手を10万票以上引き離し、25日に行われる最終結果発表でもトップ通過が確実視されています。

球宴はモチベーション

　オールスターゲームに出場を果たせば実に12年ぶりとなる松坂投手ですが、以前は常連でした。ルーキーイヤーから8年連続で選出され(2002年、03年は故障により出場辞退)、そのうち6回がファン投票1位によるものでした。当時からオールスターゲームについて「モチベーションになる」と口にしていた松坂投手は、今回の投票結果を受けて、こう述べました。

「多くの人に投票してもらって、ありがとうございます。これからも票が伸びるように、次の登板もがんばります」

　松坂投手は17日、メットライフドームで予定されていた古巣・埼玉西武相手の先発を背中のけいれんの影響で回避し、登録抹消が濃厚と見られています。だが、中日・西山和夫球団代表は「オールスター出場に向けて最善を尽くします。本人もそのつもりでしょう」と、球団をあげて全面的にバックアップする姿勢のようです。

　さて、オールスターゲームのファン投票はプロ野球が2リーグに分立した翌年の1951年、現行のセ・パ対抗方式になったのを受けて始まりました。03年からはハガキに加えてインターネット投票も開始されました。ファンの声をより反映させるための試みでしたが、こんな出来事もありました。この年、1度も1軍の試合に出場していない中日・川崎憲次郎投手が、セ・リーグ投手部門の1位に躍り出てしまったのです。

　ありえない出来事は、なぜ起きてしまったのでしょう。川崎さんに裏事情を聞きました。

「最初は3年間、マウンドに上がってない自分に対して"頑張れ"という激励の意味だと思っていたんです。でも、調べるとどうも違っていました。インターネットの掲示板の"給料泥棒の川崎を晒し者にしてやろう"という書き込みに応じた人たちによる"いたずら"だったんです」

　川崎さんは00年にFAでヤクルトから中日に移籍しました。だが、その年のオープン戦で肩を故障し、以降、一度も1軍のマウンドに上がったことはありませんでした。そのことを快く思っていなかったファンによる"集団投票"だったというのが川崎さんの見立てです。

　悩んだ末に、川崎投手は選手会を通じて、「1票、1票を自分への叱咤激励だと思って1日でも早く1軍で投げられるように頑張ります」とのコメントを発表し、オールスターゲームを辞退しました。川崎さんにとっては、今も苦い思い出です。

プリンスの悩み

　もうひとり、元近鉄の太田幸司さんの名前もあげておきましょう。太田さんと言えば三沢高(青森)のエースとして69年、夏の甲子園決勝で松山商(愛媛)を相手に延長18回、そして翌日の再試合を1人で投げきった元祖・甲子園のアイドルです。「青森県　太田幸司様」でファンレターが届いたという逸話を持つ程の人気は近鉄に入ってからも続きました。ルーキーイヤーの70年から3年連続ファン投票1位でオールスターゲームに出場しました。だが、これは太田さんにとって大変な苦痛でした。

「あの時期は本当に憂鬱でしたね。ファン投票の中間発表にちらりと目をやると、まだ1位。"早く逆転してくれ"と本気で思っていたものです。次に見たときに2位との差が開いていたりすると、もうショックでショックで……」

　70年は1勝、71年は0勝、72年は2勝しかあげていない太田さんにとって、オールスターゲームのベンチは針のむしろだったと言います。ファン投票1位は73年で一度途切れますが、74年と75年、太田さんは再びファン投票1位でオールスターゲームに出場しました。だが74年、75年はそれまでとは違い、オールスターゲーム前に74年は5勝、75年は7勝をあげ、ローテーション入りを果たしていました。

　75年、オールスターゲーム第1戦で太田さんは先発を任されました。初回に全セ3番の山本浩二さん、6番・衣笠祥雄さんの"赤ヘルコンビ"にアベックホーマーを献上しましたが、「不思議と悔しい思い出はまったくないんですよ」と語り、こう続けました。

「75年のオールスターは、それまでとは違って一人前として認められての出場でした。だから打たれても恥ずかしくなかったんです」

　18日現在、松坂投手は3勝3敗、防御率2.41という成績です。この4月30日には4241日ぶりに勝利投手になりました。日米通算167勝の雄姿をその目に焼き付けておきたいとのファンの願いはよく理解できます。37歳になっても華のある舞台が似合う松坂投手です。