二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2019年7月26日(金)更新

15:00

広島・緒方孝市監督、ビンタで厳重注意
”愛のムチ”は過去。他球団は「他山の石」

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 オールスターゲーム明けの8試合で、5連勝を含む6勝2敗と復調の広島に思わぬスキャンダル発覚です。緒方孝市監督が試合中、緩慢なプレーをしたことを理由に野間峻祥選手を複数回平手で叩き、球団から厳重注意処分を受けていたことが24日、わかりました。

怠慢走塁に激怒

 問題のプレーは6月30日、横浜スタジアムでの横浜DeNA戦です。延長11回、2対2。1死無走者の場面で打席に入った野間選手は、DeNAの5番手エドウィン・エスコバー投手の3球目を差し込まれ気味にスイングしました。ピッチャー方向にフラフラッと上がった打球を目で追う野間選手は、しばらく走り出しませんでした。これは明らかな怠慢プレーです。

 エスコバー投手は、決して守備が上手ではありません。小飛球の捕球に失敗し、慌ててボールを拾うと一塁へ。最初から全力疾走していればセーフだったはずですが、走り始めるのが遅かったためアウトとなりました。

 結局、試合は両チーム無得点のまま進み、延長12回、2対2のドローに終わりました。

 緒方監督が”愛のムチ”を振るったのは、試合後だったといいます。幸い野間選手にケガはなく、緒方監督にも「(暴力の)常習性がない」(鈴木清明球団本部長)ことから、球団は厳重注意処分としました。

 以下は鈴木球団本部長のコメントです。

「手をあげること自体がダメ。そのことは監督に厳しく言いました。野間選手の姿勢を正す過程において、行き過ぎた行為があった。再発防止に努めます」

 野間選手もこの問題を長く引きずるつもりはないようです。

「監督の気持ちは理解している。監督に不平不安はなく、この問題を大きくしたくない。この件については球団本部長に任せています」

 野間選手は14年秋、緒方監督の「即戦力投手が希望だったが、外した場合は一目惚れした野間で」とのたっての希望で広島が1位指名した選手です。自らが現役時代に背負っていた「37番」を与えたのは期待の表れでしょう。「かわいさ余って憎さ百倍」といった面もあったのかもしれません。

 かつてプロ野球において”愛のムチ”は当たり前でした。メディアには肯定的な意味で、しばしば「鉄拳制裁」という見出しが躍ったものです。

 元巨人の西本聖さんは「長嶋監督の往復ビンタ」(ザ・マサダ)という本を上梓しています。若い頃、不甲斐ないピッチングをした時、宿舎で長島茂雄監督にビンタをくらったといいます。

「一度に18発」

<監督は僕たちに気づくと、腰にバスタオルを巻いただけの姿で近づいてきた。すさまじい形相で僕を睨みつけている。

「おまえらは!」

 いきなり強烈なビンタが飛んできた。一瞬、耳がキーンとして頭の中が真っ白になった。体のバランスを失いそうになったが、腹筋に力を入れて踏ん張っていると2発目が飛んできた。続いて角にもバシッ、バシッとビンタが飛んだ。

「おまえらは、命まで取られるわけじゃないだろう! ビビッて投げやがって!」

 そう叫ぶと監督はまた僕の顔を平手でたて続けに殴った。

「根性のないピッチングをしやがって!」「逃げるなって言ってんだろ!」

 殴りながら監督は怒りの言葉を僕の頭の上に浴びせた。次に角にも、「向かって行くんだ、何でビビるんだよ!」と叫んで何発をビンタを食らわせた。バシッ、バシッ、バシッ。

 今度はまた僕にもビンタの雨。僕は頭がもうろうとしていたが、20発までは数えていた。しかし監督の怒りはそれをはるかに通り越していた。殴りながら監督は「命まで取られるわけじゃないんだ。何でビビるんだ。キンタマ付いてんだろ!」と何度も繰り返した。>

 しかし、”鉄拳制裁”となると、この人の右に出る者はいません。今は亡き星野仙一さんです。

 元中日の山本昌さんが、こんな証言をしています。

<星野さんには、よく叱られました。ビンタなんてしょっちゅうでした。もう時効だから話しますが、僕は最高で一度に18発殴られたことがあります。まわりにいた人間が一発一発、数えていたと言うんです。

 僕が不甲斐ないピッチングをした時のことです。星野さんから”愛のムチ”を受けました。直感的に、僕は”下がったらマズイ”と思い、殴られながら前に出ていったんです。

 すると星野さんのビンタが弱くなっていく。ボクサーが相手の懐に入って、距離を潰すのと一緒ですよ。僕がどんどん顔を近付けていったことで、星野さん、ストロークが取れなくなってしまった。僕は勝ったと思いました。>(文藝春秋2015年12月号・筆者インタビュー)

 昭和のプロ野球において”鉄拳制裁”は美談でした。しかし、今の時代、もう”愛のムチ”は通用しません。他球団の監督、コーチは緒方監督の一件を”他山の石”とすべきでしょう。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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