二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年9月28日(金)更新

15:00

胴上げの位置取りで分かる監督との距離感
「世界一」で王監督の真下にいた里崎智也

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 3度目ともなればその姿も堂に入ったものです。26日、広島が球団史上初の3連覇を達成し、緒方孝市監督が9度、本拠地マツダスタジアムの夜空に舞いました。「9」は広島のリーグ優勝回数であり、緒方監督の現役時代の背番号でもあります。

「マツダの胴上げ、最高!」

 試合後、胴上げの主はインタビューにこう語りました。

「今年は絶対にマツダで優勝を決めるという気持ちでやってきました。ファンの方とこうして喜ぶことができて嬉しく思います。皆さん、3連覇おめでとうございます!マツダでの胴上げは最高です!」

 そこで今回は胴上げにまつわる話です。プロ野球で優勝チームの胴上げが始まったのは1950年とされています。この年から2リーグ制がスタートし、初代セ・リーグ王者となった松竹・小西得郎監督が優勝決定後に胴上げされました。それ以来、ずっと続いている日本ならではの"儀式"です。

 まずは82年の西武です。この年、西武は所沢移転後、初のリーグ優勝を果たしました。田淵幸一さんや東尾修さんら、当時の主力選手は「胴上げの最中に監督を落としちゃおうぜ」と物騒な計画を練っていました。ターゲットは広岡達朗さんでした。

 ことの発端は81年秋、監督に就任したばかりの広岡さんの毒舌でした。田淵さんはこう語っています。

「81年の秋季キャンプで選手を集めての第一声が、"このチームには高給取りなのに走れない、守れない選手がいる"でした。名前は出さないけど、みんな僕を見るわけです。随分、恥をかかされました。この調子で東尾(修)や太田(卓司)、石毛(宏典)もめちゃくちゃに批判されました」

 田淵さんは続けます。

「監督の"言葉の暴力"が原因で、"そこまで言うなら優勝して見返してやろう"とチームがひとつになった。そして、こんな悪巧みをしたんです。"優勝したら監督を胴上げするだろう。そのとき3回胴上げして4回目は手を離そうぜ"と……」

 82年10月、西武は日本ハムとのプレーオフを制し、初のリーグ優勝を決めました。輪の中心に広岡さんが入っていきます。胴上げの直前、田淵さんと東尾さんの間ではこんなやりとりがあったといいます。

「ぶっさん(田淵さんの愛称)、あの約束、本当だろうな?3回上げて、4回目に手を離すんだよな」「ちょっと待て。優勝までさせてくれた上に給料も増える。日本一になったらもっと増えるだろう」

「王さんを世界一に」

 田淵さんの説得で広岡さんは危うく難を逃れました。日本シリーズでも西武は余勢を駆って中日を下し、日本一になりました。翌年も西武はリーグ連覇、日本シリーズでは盟主・巨人を倒して2年連続で日本一に輝きました。再び田淵さんです。

「巨人を倒した日本一の胴上げで東尾がまた言うわけですよ。"ついに来たな、巨人も倒したじゃねえか。ここで監督を落としちゃおうぜ"と。僕はこう言って制しました。"ちょっと待て。こんなに優勝させてくれる監督に、俺たちは感謝しなくちゃいけないんじゃないか"って。裏切り?いや、大人の対応です(笑)。まあ東尾にはずっと言われましたよ。"この裏切り者"ってね」

 また現役を引退したばかりの古田敦也さんから、こんな話を聞いたことがあります。

「胴上げの輪を見ていると監督と選手の関係がわかるんですよ。監督の真下やすぐ近くにいるのは、監督に使ってもらって感謝している信頼関係の強い選手。輪から離れるに従って徐々に監督との関係は薄くなっていき、輪の外側、特にカメラの方を向いてぴょんぴょん飛び跳ねているのはあまり監督に起用されなかったか、信頼関係を築けていない選手です。まあ、あくまでも僕の私見ですけどね」

 この話を聞いて、はたと納得したのが06年の第1回WBCです。決勝でキューバに勝ち、WBC初代王者となった日本代表は、王貞治監督を胴上げしました。早くから王監督の真下に陣取っていたのが、日本の正捕手・里崎智也さんでした。以下は本人の述懐です。

「ええ、あのときの胴上げは王さんの真下にいました。僕のWBCでの目標は王さんを世界一にすることだったので、当然、胴上げも特等席をとりましたよ。人づてに聞いた話ですが、WBC代表を選ぶときに王さんはキャッチャーとして真っ先に僕の名をあげてくれたそうです。初めて顔を合わせたときには"サトに全部任せるからな"と言ってくれた。そこまで言われたら意気に感じるでしょう。王さんとは誕生日(5月20日)が同じ、しかも干支まで一緒で、子供のときから一方的にシンパシーを感じていた。そんなこともあって、とにかく王さんを世界一にしたいという思いで、あの大会を頑張ったようなものです」

 このように胴上げには、胴上げの数だけドラマがあります。誰がどの位置をキープし、どれくらい儀式に貢献しているか。これをチェックするのも一興です。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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