正力松太郎賞に“下剋上”三浦大輔。「50-50」大谷翔平はなぜ特別賞【二宮清純コラム】

2024年11月12日(火)更新

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正力松太郎賞に“下剋上”三浦大輔
「50-50」大谷翔平はなぜ特別賞

　2024年度の「正力松太郎賞」に、横浜DeNAベイスターズを26年ぶりの日本一に導いた三浦大輔監督が選ばれました。三浦監督は球団を通じ「大変名誉な賞を受賞することができ、光栄とともに感謝申し上げます」とのコメントを発表しました。

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工藤公康は5度受賞

「正力賞」は“プロ野球の父”と呼ばれる正力松太郎の業績を称え、その年の日本のプロ野球の発展に大きく貢献した人物を対象に贈られる賞で、1977年にスタートしました。

　今年の三浦監督も含め、のべ51人が受賞していますが、そのうち34人が日本シリーズ優勝監督です。そのため、同賞には「日本一になった監督に贈られる賞」とのイメージがあります。

　過去、この賞を最も多く受賞しているのは工藤公康さんで5回。西武ライオンズの選手時代に1回（87年）、福岡ソフトバンクホークスの監督時代に4回（15、18、19、20年）受賞しています。

　外国人の受賞も2度あります。最初は05年のボビー・バレンタインさんです。千葉ロッテマリーンズの監督として、チームを31年ぶりの日本一に導きました。多くの選手から慕われ、“理想のボス”とも呼ばれました。

　2人目は17年のデニス・サファテさん。ホークスのクローザーとしてNPBシーズン最多となる54セーブを記録、パ・リーグのMVPに輝きました。また日本シリーズでも3試合を投げ、5イニング無失点。圧倒的なパフォーマンスでシリーズMVPに選出されました。

　さて、今回の三浦監督の受賞を巡っては出席した選考委員によると「はじめは難色を示すメンバーもいた」そうです。

「三浦監督の場合、日本一になったとはいえ優勝した巨人から8ゲーム差を付けられての3位。それならリーグ優勝監督から選ぶべきではないかと。要するにペナントレースの成績を重視すべき、という意見です」

正力松太郎の遺訓

「真っ先に名前があがったのが、ホークスを4年ぶりの日本一に導いた小久保裕紀監督。ペナントレースでの91勝は、新人監督としての最多勝でした。ところが、日本シリーズでの内容が悪かった。2連勝後の4連敗でしょう。最後は尻すぼみになり、有効な手も打てなかった。“あの采配はちょっとねえ”という空気がありました。

　同じく新人監督として4年ぶりに巨人にリーグ優勝をもたらせた阿部慎之助監督を推す声もありました。菅野智之を再生させたり、若手を育てた手腕も評価に値するんじゃないかと。阿部監督は選手時代の12年にも選出されていますから、受賞すると2度目ですよ。

　しかし、2人ともリーグ優勝しているとはいえ、決定的なものがない。それなら、その2人をクライマックスシリーズファイナルステージと日本シリーズで倒した三浦監督はどうかと。まだ1度もリーグ優勝がないとはいえ、22年は73勝で2位、23年は74勝で3位、そして24年も71勝で3位と3年連続で70勝以上をあげ、クライマックスシリーズ出場を果たしている。こうした実績を評価すべきという意見も出ました。でも決め手となったのは、やはり2人のリーグ優勝監督をポストシーズンゲームで下したことだと思います」

　あまり大きく報じられることはありませんでしたが、ロサンゼルス・ドジャースの4年ぶり8度目の世界一に貢献し、レギュラーシーズンでは前人未到の「50-50」（50本塁打・50盗塁）超えの「54-59」を達成した大谷翔平選手は、メジャーリーグでシーズンMVPに輝いた21年、23年に続き、3度目の「特別賞」を受賞しました。

　正力賞の選考対象に、海外でプレーする選手は含まれておらず、ために今回も候補に上がることはなかったようです。しかし正力松太郎の遺訓には次のようなものがあります。「巨人軍はアメリカ野球に追いつき、そして追い越せ」。大谷選手は巨人の選手ではありませんが、彼の活躍を見ていると、遺訓の忠実な実践者のようにも映ります。今後、受賞者の対象が拡大され、いずれ本賞を受賞する日がくるかもしれません。