二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2018年4月3日(火)更新
17:00
「凱旋」上原浩治のシンプル・イズ・ベスト
今シーズンの巨人は「一味違う」との予感

開幕カードの対阪神戦を2勝1敗で勝ち越した巨人の戦いぶりを見ていて「今シーズンは一味違う」との印象を抱いたファンは少なくないはずです。"上げ潮"ムードをつくり出しているのは10年ぶりに復帰した上原浩治投手です。
中継ぎとして2試合に登板し、2イニングでひとりの走者も許しませんでした。その熟達のピッチングを振り返りましょう。
大歓声の東京ドーム
復帰初登板は3月31日、開幕2戦目でした。7回裏に巨人が5対4と勝ち越した直後の8回を託されました。「ピッチャー、上原」のアナウンスに東京ドームは大きな歓声と拍手に包まれました。
先頭打者の大山悠輔選手を初球、インコースのフォークボールで空振りさせると、2球目はストレート、3球目はワンバウンドになるフォークボールで3球三振に切って取りました。続く糸原健斗選手には日本復帰後、最速となる140キロのストレートを連続して投じて2ストライクと追い込み、最後はアウトコースのストレートでレフトフライに仕留めました。
2死後、打席に迎えたのは代打の高山俊選手。上原投手はフォークボールを4球続け、セカンドゴロに打ち取りました。試合はその裏、巨人が3点を追加し、8対4で逆転勝ちを収めました。
試合後、凱旋インタビューのお立ち台に立った上原投手は「お久しぶりです」と挨拶し、こう続けました。
「1点差はしびれますね。抑えることができてよかった。3球三振をとりましたが、アウトをとれればいいですから。自分の役割は便利屋なので、どこでもやります」
翌4月1日、再び出番が回ってきました。今度は8回表、3対2と巨人が1点リードの場面です。
先頭の高山選手を低めのフォークボールでピッチャーゴロに打ち取ると、2番・鳥谷敬選手には初球を打たせてサードフライ。ここで迎えたのが、前日、ホームランを放っている3番・糸井嘉男選手です。
初球、外寄りのフォークボールでストライクを取ると、2球目のフォークボールはアウトコース高めに外れるボール球。3球目、低めのフォークボールでファウルを打たせ、カウントは1ボール2ストライク。4球目、5球目もアウトローにフォークボール。糸井選手はファウルで粘ります。
6球目、さらに低く投じたフォークボールはワンバウンドのボール球。そして2ボール2ストライクからの7球目、今度はフォークボールを一転してインコースへ。糸井選手は窮屈なバッティングを強いられ、結果はサードゴロ。この間、無駄な球は1球もありませんでした。
コントロールとリズムの良さ
この2日間で上原投手は計23球を投げました。改めてそのピッチングを振り返ると、高めの危ない球がひとつもなかったことに驚かされます。メジャーリーグでいうところの「キープダウン」(低めを維持しろ)です。
上原投手のピッチングについて、以前、巨人OBの仁志敏久さんから次のような話を聞いたことがあります。セカンドのポジションからマウンドの上原投手はどう映っていたのでしょう。
「彼は無駄なボール球がないため、複雑なシフトを敷く必要がほとんどありませんでした。コントロールも良くて、ブルペンでボールを受けたキャッチャーによると、ほとんどミットを動かさなくてすんだそうです。さらに上原投手はキャッチャーからボールが返ってくると、すぐに投球フォームに入って投げるんです。自分のやるべきことが明確になっているからリズムよく投げられるんでしょうね」
----リズムの良さが野手の守りやすさにつながる、と?
「そうです。それに加えて、逆球が少ない。これも守りやすさの理由のひとつです。キャッチャーの構えがアウトコースなのにボールがインコースにいってしまうようでは、野手もポジショニングを考えるのに一苦労です。上原投手が投げるとファインプレーが多かったのは、狙ったところにきちんと投げられるコントロールとリズムがあったからでしょう」
上原投手の加入により巨人の泣き所だったブルペンは一気に強化されました。それにも増して、彼の「シンプル・イズ・ベスト」とでも呼びたくなる合理性の極みのようなピッチングは若手投手にとって良き手本となるはずです。
とはいえ上原投手も、この4月3日で43歳になりました。1年間、フル回転というわけにはいきません。殊勝にも自らのことを「便利屋」と呼ぶベテランをどう上手に使いこなすか。ベンチの腕が試されます。

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