二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年12月7日(金)更新

15:00

契約更改は交渉力磨く絶好の機会?
球場の広告提案まで行った里崎智也

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 12月に入り、各球団とも主力選手の契約更改交渉が本格化しています。比較的平穏な「暖冬更改」が続く中、1日、最初の交渉に臨んだ福岡ソフトバンク・上林誠知選手の保留が注目を集めました。交渉を終えた上林選手は、渋い表情でこう切り出しました。

「考えていた金額と少し差が出た。評価はしてもらったけど、納得いく形で来年を迎えたいので……」

野茂英雄の提言

 上林選手はプロ入り4年目の今季、外野のレギュラーとして全143試合に出場しました。自己最多の22本塁打を放ち、62打点をマーク。キャリアハイの成績を引っさげて「倍増以上」を狙いました。しかし、球団提示額は3000万円増の6500万円(金額は推定・以下同)。希望額には届きませんでした。「すわ、銭闘開始か!?」とスポーツメディアは色めき立ちましたが結局、4日後に行われた二度目の交渉で球団は7500万円を提示。上林選手も納得してハンコを押しました。

「球団側も数字を見直してくれて、評価していただいた。来季の年俸は倍増と少しです。前回の交渉で希望額との開きは大中小でいえば中、今回は大と中の間くらいですね」

 その昔、契約更改での"銭闘"はオフシーズンの風物詩でもありました。ネタ枯れのオフ、スポーツ紙の一面を飾ることも珍しくありませんでした。

 そんな景色を冷ややかに見ていたのが近鉄時代の野茂英雄さんです。例のクールな口調で私にこう語ったことがあります。

「交渉が決裂した際、選手を矢面に立たせるのをやめればいいんですよ。そのために代理人制度があるんだと思うんですよね」

 日本プロ野球では2000年オフから代理人による契約更改交渉が認められました。それ以前から代理人制度導入を提唱していた野茂さんは、95年に上梓した自著「僕のトルネード戦記」(集英社刊)でこう述べています。

<球団側が契約のプロを何人も用意して交渉の場につくことができるに対し、選手はたったひとりです。(中略)僕たち野球選手にだって、球団と対等な立場に立ってモノを言える権利があるはずです。そこで契約交渉を専門とする代理人を立て、球団と話し合ってもらう。この制度のいったいどこが悪いのでしょう。(中略)契約が決裂した直後に映し出される選手の顔を見ていると、皆、しぶい顔をしています。なかには唇をとがらせ、不満を言っている者もいる。こういうシーンを見せられるお茶の間の人たちは「野球選手って何て金にうるさいんだ」とか、「さわやかじゃないわねぇ」と思ってしまいかねない。>

フロントの腹を探る

 その一方で代理人なしの直接交渉を好んでいた選手もいます。千葉ロッテで活躍した里崎智也さんです。

「僕は年に一度、球団と直接話せる貴重な機会だと思っていました」

 そして、こう続けました。「席上では自分からは何もしゃべらない。そうすると球団の人が『里崎君、希望額はいくらだい?』と聞いてくる、そこで『いやー、100億円くらいですかねー』と(笑)。そうすると『ハッハッハ、そりゃ無理だよ。実は来季はね』と、向こうから提示してくるので、そこから話を始めます。先にこっちの手の内を見せないのが肝心です」

 なるほど、さすがは頭脳派のキャッチャーです。マスク越しにバッターの狙いを読み解くようにしてフロントの腹も探っていたのです。

 その里崎さんによれば、契約更改は年俸交渉だけでなく様々な意見を球団に伝える貴重な席でもあったようです。

「球場やキャンプ、二軍施設の改善をお願いしたこともありました。あとはファンサービスなどビジネスアイディアを提案したことも。ロッテの本拠地球場は風が強くて風向計がバックスクリーンにあるじゃないですか。絶対にテレビカメラが映すから、『あそこに広告枠を作って売ってみては?』と提案したこともあります。風向計の広告、あれ、いいアイディアだったと思いますよ。僕のですけど、アッハッハ」

 もっとも、里崎さんのような口八丁な選手はプロ野球の世界では、そう多くありません。交渉のプロである球団フロントに言い負かされ、涙目で球団事務所を後にした選手もたくさん知っています。

 しかし、フロントとのやりとりを通じてディールのスキルを身に付けることは消して悪いことではありません。引退後、次の職場で役立つこともあるのではないでしょうか。契約更改は、交渉力を磨くまたとない機会とも言えます。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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