二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2019年10月29日(火)更新

15:00

沢村賞、19年ぶりの「該当者なし」
求められる「分業制時代の新基準」

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 先発投手にとって最大の栄誉である沢村栄治賞(以下、沢村賞)の選考が21日に行われ、今季は19年ぶりに該当者なしという結果になりました。先発完投から投手分業制へ----。こうした流れの中、同賞を巡っては選考基準の見直しや選考対象の拡大などの議論が浮かんでは消え、消えては浮かんでいます。

「レベルを落としたくない」

 周知のように、沢村賞は1947年、プロ野球草創期に活躍した元巨人・沢村栄治さんの功績を讃え制定されました。当初はセ・リーグの投手のみが対象でしたが、89年からパ・リーグの投手も選考対象となりました。受賞者は選考委員による審議によって選ばれ、現在のメンバーは堀内恒夫さん(通算203勝)、平松政次さん(通算201勝)、北別府学さん(通算213勝)の沢村賞投手と、パ・リーグのレジェンドである村田兆治さん(通算215勝)、山田久志さん(通算284勝)です。

 選考にあたっては以下の7項目が基準となります。15勝以上、奪三振150以上、完投10試合以上、防御率2.50以下、投球回数200イニング以上、登板25試合以上、勝率6割以上。今季は4項目をクリアした巨人・山口俊投手(26登板・15勝・188奪三振・勝率.789)と、北海道日本ハム・有原航平投手(15勝・防御率2.46・166奪三振・勝率.652)が最終選考に残りました。だが、完投数(山口0、有原1)と投球回数(山口170回、有原164回1/3イニング)が基準を満たしていませんでした。

 その他、完投6で11勝の広島・大瀬良大地投手、完封3で13勝の横浜DeNA・今永昇太投手、180回1/3イニングを投げ227奪三振、13勝の福岡ソフトバンク・千賀滉大投手らも候補にあがりましたが、受賞には至りませんでした。

 選考委員長の堀内さんは「該当者なし」に至った理由をこう説明しています。

「野球のシステムが変わってきて、先発投手は非常に完投しにくくなっている。選考委員会でもクオリティースタート(QS)を参考項目としているが、これを正式に選考基準に入れるほどレベルを下げていって、完投なしでもいいとなると、沢村さんの名前に傷をつけてしまうような気がする。賞のレベルを落としたくないというのが本音です」

 その他の委員も「山口と有原は甲乙つけがたいが、ダブル受賞には成績が物足りない」(平松委員)、「今は制度的に役割分担があり完投が出にくい。それでもイニング数はちょっと物足りない」(北別府委員)と、一様に渋い表情でした。

10勝でサイ・ヤング賞

 堀内さんをはじめとする選考委員の言い分に異論はありません。現行の選考基準に照らせば「該当者なし」は妥当です。

 問われているのは、分業制が確立した今も、この基準を続けるかどうかです。

 以前、沢村賞を2度受賞した斉藤和巳さん(元福岡ダイエー/ソフトバンク)はこう語っていました。

「基準を見ればわかるとおり、沢村賞受賞にはトータルでの能力が求められます。だから世間の人たちも"その年最高のピッチャーが沢村賞投手"と誤解するんでしょう。でも、あくまで『先発投手として』と、注釈がつきます。リリーフのことを考えると本当に申し訳ない気持ちになりますね。先発は中6日なら5日はリラックスできるけれど、彼らは毎日投げる準備をする。そんな彼らに対しては本当に感謝の気持ちしかなかった。昔と違って完投数は勝ち星の半分もいかないのが現状です。半分以上はリリーフに助けてもらっている。先発投手の名誉が沢村賞なのはわかっていますが、アメリカのサイ・ヤング賞のようにリリーフも含めた全投手対象の賞があればいいのですが……」

 メジャーリーグのサイ・ヤング賞は沢村賞から遅れること9年、1956年に制定されました。アメリカン・リーグ、ナショナル・リーグからそれぞれ1人ずつが選出されます。昨季のナ・リーグのサイ・ヤング賞は意外な選手でした。

 下馬評ではリーグ最多の18勝をあげたジョン・レスター投手(カブス)、マイルズ・マイコラス投手(カージナルス)、マックス・シャーザー投手(ナショナルズ)らが有力視されていました。だが、受賞したのは10勝9敗のジェイコム・デグロム投手(メッツ)でした。デグロム投手は最優秀防御率(1.70)とともに、先発した32試合中、28試合でクオリティスタート(6回以上3失点以下)を記録したことが評価されたのです。先発投手の10勝での同賞受賞は史上最少でした。

 沢村賞に話を戻しましょう。もし、今の基準を続けるなら、この先も「該当者なし」が続く可能性があります。それで故人が喜ぶでしょうか。現場の声にも耳を傾けるべき時期がきています。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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