今永昇太、驚異の“スピン量”の秘密。川口和久が解説「ピンチ力とは？」【二宮清純コラム】

2024年12月13日(金)更新

15:00

今永昇太、驚異の“スピン量”の秘密
川口和久が解説「ピンチ力とは？」

「ヘイ、シカゴ！」の入団会見からおよそ1年。シカゴ・カブスでの今永昇太投手のMLBファーストシーズンは、大方の予想を上回るものでした。29試合に登板し、15勝3敗、防御率2.91。1年目にしてエースと呼ぶにふさわしい成績を残しました。

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奪三振率9.03

　奪三振率とは、ピッチャーが1試合（9イニング）完投したと仮定して、いくつ三振を奪ったかを示す指標です。奪三振数×9÷投球回で算出することができます。

　今永投手はMLB1年目の今シーズン、173回3分の1を投げて奪三振は174。先の数式にあてはめると、奪三振率は9.03になります。すなわち1イニングに1個以上三振をとった計算になります。

　今永投手のピッチングで特に目を見張ったのが、真ん中高めに投じるスピンのきいたフォーシームでした。さして上背のない（身長178センチ）今永投手は、重心の低いフォームから、フォーシームを放ります。ボールへの目付けを低くしていたバッターにすれば、ボールが浮き上がってくるように見えたはずです。それが証拠に、高めのフォーシームで奪った三振の多くが空振り。バットはボールの下をくぐっていました。

　スピン量の多い今永投手のフォーシームは、指先の強さに起因しているように思われます。ボールの縫い目にしっかり指をかけ、腕を振り抜くことで高濃度のホップ成分を確保しているのでしょう。

「僕は彼のピンチ力に注目しています」

　そう語るのは同じサウスポーで、セ・リーグで3度の奪三振王（1987、89、91年＝広島東洋カープ在籍時）に輝いた川口和久さんです。

　断っておきますが、この場合のピンチとは「苦境」や「窮地」のことではありません。指先でつまむことを意味します。要するに「つまむ力」です。

ファールの方向

　現役時代、スピン量の豊富なフォーシームで空振り三振をとりまくった川口さんは、チーム1のピンチ力を誇っていたといいます。

「僕がカープに入った頃、チームにはピンチメーターというピンチ力を測定する計測器が置かれていました。当時のカープには北別府学さんや大野豊さんなど好投手が多かった。握力は人並みの僕ですが、ピンチ力だけはチームナンバーワンでした」

　そして続けます。

「僕が意識していたのはボールをリリースする瞬間です。人差し指と中指でボールに強い回転を与えるんです。そのためリリースの瞬間、爪がパチーンと音を立てて割れることもあった。爪を保護するため、カルシウム分の多い食事を心がけていましたね」

　川口さんは強いピンチ力を維持するため、常にテニスボールを持ち歩き、指で潰すトレーニングを行っていたそうです。奪三振王は1日にして成らず、ということでしょう。

　横浜DeNAベイスターズ時代、今永投手はテレビ解説で球場に訪れた川口さんにフォーム上のアドバイスを求めることがよくありました。

　川口さんによると、今永投手の好不調は、「ファールの方向を見ればわかる」そうです。

「バックネットにファールが飛んでいる時は調子のいい証拠。フォーシームの下面をバットが叩いているからです。同じファールでも前に飛び始めたら気を付けなければならない。総じて言えば、メジャーリーグのバッターはコツコツと当てにこない。いわゆる“マン振り”してくるバッターが多いだけに、彼にすればお手のものだと思いますね」

　2年目のジンクスも心配無用の“投げる哲学者”です。