二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2018年11月23日(金)更新
15:00
FA市場の目玉・丸佳浩流失に備える広島
“打高守低”西川、メヒアに外野転向指令

今オフのFA市場の主役は広島の不動の三番打者・丸佳浩選手です。14日、NPBからFA選手として公示されると、早速、巨人と千葉ロッテが獲得に名乗りをあげました。ここまでは予想通りの展開です。
「最悪」に備えよ
連日、スポーツ新聞には景気の良い見出しが躍っています。<広島、4年総額17億円>、<巨人、5年総額30億円>、<ロッテ、6年総額24億円>。金銭面だけではありません。巨人は原辰徳監督が現役時代につけていた背番号8を、ロッテは将来の監督手形を用意したとの報道もあります。宣言残留か、それとも移籍か。カープファンはしばらく悶々とした日々が続きそうです。
そんな中、チームを率いる緒方孝市監督は「最悪のケース」を想定して動き出しました。秋季キャンプでアレハンドロ・メヒア選手、西川龍馬選手に外野守備練習を命じたのです。その意図を緒方監督はオブラートに包んでこう語りました。
「チームは底上げが必要。複数ポジションを守れれば、選手にとってもチャンスになるし、チームにとってもプラスになる」
メヒア選手、西川選手ともに、いわば"打高守低"型のプレーヤーです。バットを持たせると一級品ですが、守りには一抹の不安があります。とりわけ西川選手の守備はザルも同然です。
今季、107試合に出場した西川選手は打率3割9厘をマーク。細身に似合わぬパンチ力も持ち合わせています。その一方でサードの守備は危なっかしくて見ていられません。リーグ最多の17失策、そのうち悪送球が9つもありました。「西川の場合、捕るまでが不安で、捕ってからがまた不安(苦笑)」とは、広島でコーチ経験のあるOBです。
拙守ぶりが際立ったのが9月24日、マジック1で迎えた横浜DeNA戦です。エラーがついたのは6回の悪送球ひとつだけでしたが、他にも怪しいプレーが2つほどありました。西川選手の目を覆うような守備が先発クリス・ジョンソン投手の足を引っ張り、チームは5対7で敗れました。この日を最後に、西川選手は定着していたサードのポジションを失いました。おそらく、コーチからは内野失格を言い渡されたはずです。
そんな西川選手ですが、秋季キャンプでは意欲的に外野守備の練習に取り組んでいました。「外野もできれば出場機会が増えますから」。コンバートを前向きに捉えているようです。
イップスからの解放
内野から外野へのコンバートが選手を大成させた例はいくつもあります。その代表格がオリックスやMLBカージナルスなどで活躍した田口壮さん(現オリックス一軍コーチ)です。
田口さんは92年、関西学院大からドラフト1位でオリックスに入団しました。俊足、強肩、強打のショートとして将来を嘱望されましたが、首脳陣の期待に応えることはできませんでした。イップスによる送球難に苦しめられたのです。それについて以前、田口さんは私のインタビューにこう答えました。
「実は入団したその年のキャンプ3日目でイップスにかかってしまったんです。投げ方にクセがあって、それを見た土井正三監督が"長く野球をやりたいなら直せ!"とおっしゃった。ところが、それでバランスを崩して、どう投げていいかわからなくなってしまったんです。上に行ったり、ひどい時には、送球したボールがスタンドにまで飛び込んでしまう程でした」
結局、田口さんのイップスは完治せず、プロ入り3年目の94年4月、新監督の仰木彬さんから直に外野手転向を命じられました。再び本人です。
「4月の終わりに、ショートを守っていて立て続けに送球ミスをした。監督に交代を告げられた後で、こう言われました。"もう、(ショートは)ええやろう"って。僕は"すみません"としか言えなかった。次の日から外野に行かされました……」
しかし、人間万事塞翁が馬とはよく言ったものです。レフトを守るようになってイップスから解放された田口選手は、水を得た魚のように本領を発揮し始めました。レフト・田口さん、センター・本西厚博さん、ライト・イチロー選手(現マリナーズ)。鉄壁の外野陣が95年、96年のリーグ連覇を支えたのです。
話を広島に戻しましょう。フロントもファンも丸選手の残留を願っていますが、こればかりは本人の権利ですから、どうすることもできません。転ばぬ先の杖とばかりのコンバート策、果たして吉と出るのでしょうか。

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