二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2018年11月16日(金)更新
15:00
日米野球、“タナキク”コンビで決勝点
稲葉ジャパン、東京五輪の予行演習?

広島の本拠地マツダスタジアムで13日に行われた日米野球第4戦は、カープファンにとって最高の結末となりました。MLB選抜のスターター、元広島の前田健太投手(ドジャース)が好投し、チームの顔である田中広輔選手と菊池涼介選手が見事な"連携プレー"を披露して侍ジャパンを逆転勝ちに導きました。早速、"タナキク"が躍動したシーンを振り返りましょう。
セーフティースクイズ
1対3と2点ビハインドで迎えた9回表、日本は無死二塁から上林誠知選手(福岡ソフトバンク)のタイムリーで1点を返し、なおも一死二塁とMLB選抜に迫ります。ここで田中選手がセンター前に弾き返して同点。田中選手は続く秋山翔吾選手(埼玉西武)の打席でニ盗を決めると、これが相手捕手の悪送球を誘い、一気に三塁まで進みました。秋山選手は歩かされて1死一、三塁。ここで打席に入ったのが2番の菊池選手でした。
MLB選抜8番手のジョン・ブレビア投手(カージナルス)の2球目、菊池選手が一塁側にセーフティーバントを転がすと、三塁から田中選手が猛然と突っ込み、ついに試合をひっくり返しました。勢いに乗る日本は、さらに1点を追加し、MLB選抜から3勝目をあげました。
盗塁でかき回してからのセーフティースクイズ。まるでシーズン中のカープ野球を見ているようでした。田中選手が「積極的に行こうと思っていた。広島ファンの前でいい結果を出したかった」と振り返れば、菊池選手は「広輔が打つ前から『これはあるな』と思っていたので、準備はできていました」と、してやったりの表情でした。
以下は稲葉監督の試合後のコメントです。
「最後まで諦めない気持ちがつながって最後にいい形に出た。菊池とはベンチで『セーフティースクイズあるよ』と話をしたら、『2球目ぐらいにどうですか』と答えてくれた。1ボールになった後、こっちもしっかりとサインを出して、本人もそれを理解してきちんとセーフティーバントを決めてくれました」
標語は「スピード&パワー」
昨年、侍ジャパンの指揮官に就任した稲葉監督は、菊池選手をチームのキーマンに指名し、重用しています。その理由は稲葉監督の掲げる野球スタイルに合致しているからです。これまで侍ジャパンは「スモール・ベースボール」を標榜していましたが、稲葉監督はそれをさらに進化させたいと考えています。標語は「スピード・アンド・パワー」。その象徴が菊池選手なのです。
<例えばWBCで本塁打を放った菊池選手には、常に何をやるかわからないような雰囲気がある。(中略)菊池選手の(WBCでの)一発でもわかるように、一振りでムードを変えられるのが本塁打。日本は一発がない、単打ならOK、という気持ちで攻められると打者は余計不利になる>(日本経済新聞・18年7月24日付)
驚くことに100行ちょっとのインタビューの中に菊池選手の名前が2回も登場しています。またスポーツ庁・鈴木大地長官との対談にも菊池選手の名前がありました。「東京五輪の時にリーダーになりそうな選手は?」との質問に、稲葉監督はこう答えているのです。
<何人かいます。巨人の坂本勇人選手、広島の菊池涼介選手、西武の秋山翔吾選手らは、国際大会の経験も豊富です>(毎日新聞・8月21日付)
言うまでもなく菊池選手の守備はワールドクラスです。打者としては小技に加え、一発長打の意外性もあります。その菊池選手が海外FA権を取得するのは早くても2021年のシーズンです。故障さえなければ、2020年の東京五輪において攻守の要として稲葉ジャパンの中核を担うことになるでしょう。もしかすると"タナキク"のセーフティースクイズは東京五輪の予行演習だったかもしれません。

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