二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2019年9月20日(金)更新

15:00

最低防御率でリーグ連覇目前の辻西武
「理想よりも勝てる野球」のリアリスト

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 西武特急の勢いが止まりません。9月に入り、ここまで10勝4敗(9月18日時点。以下同)。リーグ2連覇に向け、視界は良好です。残り7試合でマジック6。このまま埼玉西武が逃げ切れば、昨季に続き、防御率リーグワーストでの戴冠となります。

打撃部門トップがズラリ

 防御率4.36、失点665。どちらの数字もリーグワーストながら、弱いディフェンスを補って余りあるのが、12球団トップの725得点を誇る強力打線です。

 辻発彦監督が命名した“獅子威し”打線の中核を担うのが打率3割3分6厘、キャッチャーとして史上4人目の首位打者を狙う3番・森友哉選手です。1番の秋山翔吾選手はリーグ最多安打(173安打)、4番に座る中村剛也選手は最多打点(120打点)、6番の山川穂高選手は最多本塁打(42本)。脇役陣も充実しています。9番の金子侑司選手は目下、最多盗塁(40盗塁)、2番の源田壮亮選手は盗塁部門で2位(30盗塁)につけています。まさにスピード&パワー。浅村栄斗選手がFAで抜けた穴を微塵も感じさせません。

 昨季もリーグ優勝の原動力は12球団最多の792得点を叩き出した強力打線でした。球界には「打線は水もの」との俗諺がありますが、辻監督は“どこ吹く風”です。

 言うまでもなく辻監督は二塁手としてゴールデングラブ賞に8回も輝く守備の名手です。16年オフ、監督就任会見で「どんな野球を?」と問われ、即座にこう答えました。

「いかにして1点を取り、いかにして1点を守るか。そういう野球が理想です」

 しかし、理想と現実は違います。今の辻野球は、2、3点のビハインドなどものともしない超攻撃的な野球です。

 既視感があります。“いてまえ打線”でパ・リーグを制した2001年の近鉄です。監督の梨田昌孝さんは強肩を売り物に、4度のゴールデングラブ賞に輝く名捕手でした。就任当初の00年はバッテリーを中心にした守りの野球にこだわっていました。

 ところが、“笛吹けど踊らず”の状態が続きます。打線はタフィー・ローズ選手、中村紀洋選手、礒部公一選手らを中心に迫力満点なのですが、肝心のピッチャーが頼りになりません。規定投球回数に達したピッチャーで防御率ベスト10入りを果たしたのは山村宏樹投手ただひとりでした。チーム防御率はリーグ4位の4.66。いくら飛ぶボール全盛の時代だったとはいえ、これはあんまりです。

「僕は未熟な監督」

 普通の監督なら、翌年に向け投手陣に奮起を促すはずです。しかし、リアリストの梨田さん、「無理なものは無理」と諦め、考え方を変えました。

「1対0で勝っても勝ちは勝ち。0対20で負けても負けは負け。大差で負けると、僕はスタンドに向かって心の中で手を合わせていました。“今日は、もう無駄な抵抗はしないからスミマセン”って」

 担当記者からは開幕後、「公約違反じゃないですか」との批判も飛び出しました。監督就任時には「機動力野球」をスローガンに掲げていたのですから、それも当然です。キャッチャー出身の梨田さんは「走られることへの警戒」が強く、それを逆手にとって、「走るチーム」に仕立てようと考えていたのです。

 それが開幕から21試合連続盗塁ゼロなのですから、記者が「公約違反」と詰め寄るのも無理はありません。だが梨田さんは動じませんでした。

「じゃあ盗塁すれば勝てるの?」

 開き直りと言えば開き直りですが、これくらいの図太さがないと、生き馬の目を抜くプロの世界ではやっていけないのでしょう。

 辻監督も梨田さんも、いい意味での現実主義者です。やりたい野球と勝てる野球は違います。やりたい野球を貫いたとしても、勝てなければ意味がありません。

 昨季、辻監督はリーグ優勝を果たしながら、クライマックスシリーズ・ファイナルステージで福岡ソフトバンクに敗れ、号泣しました。労をねぎらうと、<セレモニー前、ビジョンに映し出された選手たちの映像を見ていたらグッときてしまった。頑張った選手たちを日本シリーズの大舞台に立たせてあげたかった。僕は未熟な監督です。>との返信がありました。1年前の悔しさを力に----。リアリストの挑戦が続きます。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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