二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2019年2月19日(火)更新
15:00
日ハム吉田、柿木に見る当世ライバル事情
「蹴落とす」よりも、互いに「高め合う」

北海道日本ハムは16日、沖縄・名護で一軍、二軍合同の紅白戦を実施しました。かいぎんスタジアム国頭では2200人が観戦。お目当ては白組先発・吉田輝星投手、紅組先発・柿木蓮投手の両ルーキーでした。そう昨夏、列島を熱狂させた甲子園決勝戦、金足農(秋田)と大阪桐蔭、両エースの対決です。
「気合いが入った」
注目の対決を振り返りましょう。先にマウンドに上がったのは吉田投手でした。先頭の西川遥輝選手をセカンドゴロに打ち取る上々の立ち上がり。だが、続く大田泰示選手に高めのストレートを狙われ、バックスクリーンに飛び込むホームランを浴びました。その後、清宮幸太郎選手をセカンドゴロに打ち取って2死。2四球を挟んで鶴岡慎也選手を三振に切ってとりました。以下は一軍レギュラー相手のデビュー戦を終えての感想です。
「(ホームランを打たれたの球は)甘いところに行ってしまった。最後は低めにしっかり押さえつけられた。思っていたよりも通用して、直球に関しては圧倒されたわけではないので自信になりました」
その裏、今度は紅組先発の柿木投手がマウンドに上がりました。先頭の浅間大基選手を2球で追い込み、1ボール2ストライクからセンターフライに打ち取りました。続く松本剛選手は1ボール1ストライクからセカンドゴロ。さらに台湾プロ野球で4割を2度マークした左の強打者、王柏融(ワン・ボーロン)選手に対してはストレート、スライダー、フォークで追い込み、最後はこの日最速の143キロのストレートでファーストゴロに打ち取りました。三者凡退で役目を終え、会心の13球をこう振り返りました。
「輝星が先に投げているのを見て気合が入ったし、プラスにできてよかった。この後もアピールポイントを出して、少しでも一軍に近づけるようにしたい」
デビュー戦対決は昨夏の甲子園に続いて柿木投手に軍配が上がった格好です。
夏の甲子園を沸かせた両投手、昨秋のドラフトでは明暗が分かれました。吉田投手が1位指名を受けたのに対し、柿木選手は下から3番目の5位指名。「まさか柿木があそこ(5位)まで残っているとは思いませんでした」とは、ドラフト後に聞いた栗山英樹監督の言葉です。
だがこの2人、ドラフトでのわだかまりは全くないようです。もちろん柿木投手の「気合いが入った」とのコメントからもわかるように、心の中は「負けたくない」との思いで充たされていることでしょう。それを表に出さないのが当世流のようです。キャンプ中は宿舎が同室ということもあり、練習の行き帰りでも談笑する姿が見受けられました。
「ドラ1を追い越せ」
昭和のプロ野球において、同期と言えば「仲間」というよりも「ライバル」の対象でした。巨人などで活躍した沢村賞投手の西本聖さんは、ドラフト1位入団の定岡正二さんを、それこそ目の仇にしていました。自らは甲子園未出場で、しかもドラフト外。一方、定岡さんは長嶋茂雄さんの期待を独り占めする「まぶしい存在」でした。
44年前を西本さんはこう振り返ります。「当然といえば当然ですが、どこに行っても、何をやっても定岡ばかり注目される。向こうは甲子園のスター選手、こっちは無名の高校生ですからね。定岡のそばにいようものならファンの人から“そこの人、写真の邪魔!”なんて言われたもんです」
では、どうすればライバルを蹴落とせるか。ルーキーの頃、西本さんはそのことばかり考えていたそうです。<バス掃除などの新人の仕事はつねに協力しあって一緒にやっていたが、一緒に遊びに出かけるようなことはなかった。「定岡には負けたくない」「ライバルより先に一軍に上がってやる」。そのことしか考えていなかった>(自著「長嶋監督の往復ビンタ」ザ・マサダ刊)
プロは実力の世界です。「負けたくない」との思いは大事でも、それが空回りしてしまっては逆効果です。そこで<ドラフト1位の定岡を追い越すためには、ふだんの練習だけじゃ駄目>と西本さんは自分に言い聞かせ、ハードワークを自らに課しました。4列に並ぶランニングでは一番距離が長くなる外側のレーンを走り、寮の中では一本歯の下駄を履き、また移動の電車内ではつま先立ちで過ごすなど徹底的に自らを鍛え上げたのです。
その成果は2年後に表れました。西本さんはプロ入り3年目の77年に初勝利をあげるや、翌78年に4勝、79年には8勝をあげて一軍に定着しました。一方、定岡さんのプロ初勝利は、西本さんから遅れること3年後の80年。定岡さんとのライバル対決に勝利した西本さんは、次のライバルをひとつ年上の江川卓さんに設定し、さらなる高みを目指したのです。
だが以上はあくまでも昭和の風景です。現在のライバルたちは「蹴落とす」ことよりも「高め合う」ことを互いに意識しているようです。それが証拠に吉田投手と柿木投手は宿舎でピッチングフォームの動画を見せ合い、気付いた点を指摘し合っているそうです。ウインウインの関係構築に余念のない2人を見ていると、時代の移り変わりを実感せずにはいられません。

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