二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2021年1月15日(金)更新
15:00
桑田真澄、15年ぶりG復帰の「吉報」
「温故知新」で巨投再生に全力投球

巨人は12日、球団OBである桑田真澄さんの入閣を発表しました。コーチ陣の組閣は昨年12月に完了しており、キャンプインも間近に迫ったこの時期の追加人事は異例です。15年ぶりに巨人のユニホームを着ることになった桑田さんは1軍投手チーフコーチ補佐として、宮本和知投手チーフコーチを支えていくことになります。
「角度を意識」
桑田さんにラブコールを送っていたのは原辰徳監督でした。以下はオンライン会見での発言です。
「昨年末、山口寿一オーナーと会った際、“OBで気になる後輩がいる。ぜひジャイアンツのために、選手はもちろん、すべてにおいて戦力になってもらいたい人がいる”と伝えました。それが桑田真澄でした。本人には1月5日だったと思いますが、会って思いを伝えました。彼は水を得た魚のごとく目を輝かせて、“ぜひ野球界、ぜひジャイアンツのために!”と一寸の迷いもなく話を聞いてくれました。ジャイアンツにとっては春から素晴らしい吉報です」
巨人のユニホームを脱いで15年になる桑田さんにとっても、このオファーは渡りに船だったようです。
「巨人軍のOBの1人として少しでも力になりたいと思い、お引き受けしました。今年のスローガンであるワンチーム、そういったチームを作り上げていきたいと思っています。
我々の時代はたくさん走って、たくさん投げろという時代だったと思います。でも今はテクノロジーの進化で、自分のフォームをすぐコマ送りで見られる時代なので、自分の感覚、イメージ、それと実際の動きが一致することが大事だと思います。実際の感覚とイメージ、それに科学的根拠の両方を添えて指導していきたいなと考えています」
桑田さんと言えば、昔から理論派で有名です。現役引退後は早大大学院でスポーツ科学を研究、修士論文は「『野球道』の再定義による日本野球界のさらなる発展策に関する研究」でした。東大大学院では投手や野手の動作研究を行い、硬式野球部の特別コーチも務めました。
巨人入団以来、桑田さんには何度もインタビューする機会がありましたが、一番印象に残っているのは「角度」の話です。
周知のように桑田さんはプロ入り2年目の1987年に早くも15勝(6敗)をあげ、以来、巨人のローテーションの中心を担います。彼の1年後輩が、現在、北海道日本ハム2軍総合コーチの木田優夫さんでした。ともにドラフト1位組ながら、入団以来の2年間、木田さんは2軍暮らしでした。
「お手本は沢村栄治」
桑田さんは身長174センチと小柄なのに対し、木田さんは188センチと長身。「伸び悩んでいる原因は?」と訊ねると、「せっかくの身長を生かし切れていない。彼は角度についてもっと考えた方がいい。すると、途轍もないピッチャーになりますよ」と語ったのです。それ以来、ずっと「角度」という言葉が気になっていました。
桑田さんに最後に会ったのは2017年の3月、「先人たちの底力 知恵泉『 野球が愛されるわけ 沢村栄治の挑戦』」というNHKの番組でした。私が沢村栄治さんの人物像について語り、桑田さんには技術的な分析を行ってもらいました。
その時、初めて知ったのですが、中学時代に桑田さんが参考にしたのが沢村さんのフォームだったというのです。
「ピッチャーをやるにあたってプロ野球の偉大な投手の方々の写真を切り抜いて、フォームで一番守らなくてはいけないことは何かを自分なりに考えていました。そのときに沢村さんの写真に出会いました。沢村さんはご存知のように右肩を大きく下げるフォームをしていました。それをマネしたところ投球が劇的に良くなったんです」
沢村さんの身長は174センチで桑田さんと同じです。この身長でメジャーリーガーをきりきり舞いさせた「ホップするストレート」を投げることができたのですから、桑田さんが夢中にならないわけがありません。
というのも、中学時代の桑田さんには悩みがありました。当時の指導者が教えるスタンダードなピッチングフォームは「両肩は地面に平行」というもので、桑田さんも、指示通りに投げていました。ところが、さっぱり球が速くなりません。そこでたどりついたのが「角度」、沢村さんのフォームだったというのです。
桑田さんは語りました。
「右肩を下げると、投げるときには必然的に右肩が上がる。そうすることで自然とボールに角度がつく。そう気が付いてからは自分のフォームに自信と確信が持てるようになりました。右肩を下げる沢村さんのフォームは実は合理的で効率的なフォーム。それは時代が変わっても残るということなんですね」
温故知新という言葉があります。概ね昔のことを調べることで、新しい時代に必要な知恵や知識と巡り合うことができるという意味です。原監督が桑田さんに求めている役割とは、原点回帰による巨人投手陣の再生----。大物コーチの手腕に注目が集まります。

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