二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年10月26日(金)更新

15:00

広島、リベンジの標的はタカの指揮官
SB工藤公康監督はスゴ腕の鯉キラー

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 広島東洋カープ対福岡ソフトバンクホークス。今年の日本シリーズはフレッシュな対決となりました。カープ対ホークスというカードも初めてなら、西日本を代表する都市である広島と福岡を本拠地とするチーム同士の対決も69回目を数える日本シリーズで初めてのことです。

「工藤ひとりにやられた」

 しかし、カープファンにとってホークスはリベンジの対象です。チームを率いる工藤公康監督には西武時代に2度も痛い目に遭わされているからです。1986年と91年の日本シリーズ、広島はあと一歩のところまで西武を追い詰めながら、いずれも逆転で日本一の座を逃しています。

 工藤投手の日本シリーズでの"鯉キラー"ぶりは以下の成績にはっきり表れています。86年=1勝1敗2セーブ、防御率1.20、MVP。91年=2勝1敗、防御率1.71。

 とりわけ86年の日本シリーズはカープファンにとっては"悪夢"でした。広島は初戦こそ引き分けたものの、2戦、3戦、4戦をとって3勝1分け。日本一はもう目の前です。

 王手をかけて迎えた第5戦、先発は広島が北別府学投手、西武が東尾修投手でした。両エースの投げ合いで試合は淡々と進み、延長戦へ。10回表、東尾投手に代わってマウンドに上ったのがプロ入り5年目のサウスポー工藤投手でした。

 リリーフに立った工藤投手のピッチングは圧巻でした。10、11、12回の3イニングで5つの三振を奪う力投で、広島を寄せつけません。12回裏、西武にサヨナラのチャンスが巡ってきました。1死二塁、ここで打席に立ったのが工藤投手です。

 当時、既にパ・リーグはDH制を採用していました。工藤投手はレギュラーシーズンで打席に立ったことがありません。マウンドには広島の守護神・津田恒実投手。勝負ははじめから決まっているようなものです。

 ところが、野球というスポーツは何が起きるかわかりません。工藤投手が2球目のストレートをライト前に弾き返し、西武がサヨナラ勝ちを収めたのです。

 これで潮目が変わりました。広島市民球場に戻った第6戦、7戦を西武が連取し、3勝3敗1分けのタイに。決着は史上初の第8戦に持ち込まれました。

 このゲームも広島は天敵・工藤投手にしてやられました。2対3で迎えた終盤、8回からマウンドに上った工藤投手にピシャリと封じられてしまったのです。まさに「工藤ひとりにやられた日本シリーズ」(広島・達川光男選手)となってしまったのです。

サヨナラヒットの伏線

 後年、工藤投手からおもしろい話を聞きました。

「サヨナラヒットを打った第5戦、ベンチ前に戻ると先輩選手にもみくちゃにされて、"ようやった"と褒められました。でも、ヒーローインタビューを終えてロッカールームに戻ると、なんか雰囲気が暗い。アレ?と思っていたら"なんでわざわざ広島に行って胴上げを見んとならんのだ"と、先輩たちがブツブツ言っている。"今から1つ勝ったところで……。余計なことしやがって"という感じでしたね」

----空気を読め、と。

「そうです。でも、広島に戻るとカープの選手たちの様子が変わっていたんですよ。あと1勝の緊張感からか、試合前のノックでもポロポロと球をこぼしたりしていた。"ひょっとしたらいけるんじゃないか"と思ったら案の定でした。向こうの緊張に乗じてウチが逆転日本一を果たしたというわけです」

----それにしても、まさか、あの場面でサヨナラヒットが飛び出すとは……。

「あれにも伏線があるんです。実は12回表、広島の攻撃のとき、僕はキャッチャーの達川光男さんにデッドボールを当ててしまった。帽子をとって謝ったんですが、達川さんは見てなかったようで、一塁ベース上で何かブツブツ言っていました。僕は知らん顔をしていたんですが、たぶん"おう、帽子とれ。次、覚悟しとけよ"みたいなことを言ってたんでしょうね。その裏の打席、早速1球目がインコース膝下に来た。これは次もインコースだな、とヤマを張ってイチ、ニ、サンでバットを振ったら、うまいこと当たった。そう、あのヒットは打ったんじゃないんです。当たったんですよ(笑)」

 工藤投手は「まぐれ」を強調していましたが、インコースにヤマを張るあたりが勝負師です。要するに"読み勝ち"だったということでしょう。

 あれから32年、今では達川さんは工藤監督の貴重な右腕です。ヘッドコーチとしてチームを支えています。「昨日の敵は今日の友ということよ」(達川コーチ)。人間関係があやとりの糸のように複雑にからみ合う、関西を除く史上初の"西日本シリーズ"です。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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