二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2019年1月11日(金)更新

15:00

沢村賞と最優秀中継ぎのマルチ投手
ホークス攝津正は平成の「器用長者」

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 沢村賞投手でもある福岡ソフトバンクの攝津正投手が現役引退を発表しました。昨年11月、戦力外通告を受けた後も他球団での現役続行を希望していましたが、年末までにオファーがなく、やむなく引退に至りました。8日に行われた会見で36歳のベテラン右腕は「10年という短い選手生活でしたが、満足していますし、後悔も悔いもなく終わることができました」と、晴れやかな表情で語りました。

遅咲きの苦労人

 攝津投手は2009年、ドラフト5位でソフトバンクに入団しました。秋田経法大付属高(現・明桜)から進んだ社会人野球のJR東日本東北時代はなかなかドラフトで声がかからず、同社野球部で8年を過ごしました。26歳で念願のプロ入りを果たしたいわば遅咲きの苦労人です。

 1年目からセットアッパーとして起用されるとリーグ最多の70試合に登板し5勝2敗、34ホールド、防御率1.47。新人王と最優秀中継ぎのタイトルを獲得しました。翌年も71試合に投げ、ブライアン・ファルケンボーグ投手、クローザーの馬原孝浩投手とともに"勝利の方程式"を確立しました。さらに翌11年からは駒不足のローテーションを埋めるために先発へ転向。ここで14勝をマークし、チームのリーグ連覇と日本一に貢献しました。翌年も先発を務めて両リーグトップの17勝をあげ、最多勝と最高勝率のタイトルとともに沢村賞に輝いたのです。長いプロ野球の歴史の中で最優秀中継ぎのタイトルと、先発投手の最高の栄誉である沢村賞の両方を受賞しているのは攝津投手だけです。

 ひと昔、いやふた昔前ならリリーフから先発への転向は「出世」と言われたものです。だが分業化が進み、リリーフという専門職が確立された近代野球では、そうした意味は薄れています。攝津投手のケースも「出世」というよりも「配置転換」でした。以前、本人にインタビューした際、「中継ぎと先発では調整法が違うだけ、投げろと言われた場所で投げるだけです」とひょうひょうと語っていたものです。

 とはいうものの、リリーフと先発の両方で結果を残すことは簡単ではありません。近年屈指のクローザーとして真っ先に名前の浮かぶ佐々木主浩投手(横浜など・日米通算381セーブ)や藤川球児投手(現阪神・日米通算227セーブ)も、プロ入り当初は先発を務めていました。そこでは芽が出ず、リリーフ転向後に才能が開花したのは周知のとおりです。佐々木投手は落差の大きなフォークボール、藤川投手は最速156キロの火の玉ストレートを武器に勝ちゲームを締めくくりました。どちらも「わかっていても打てない」と言われる必殺のウイニングショットでした。

「日本のクレメンス」

 では、攝津投手の場合は?ストレートは平均140キロ前後、変化球はシンカー、カーブ、スライダー、チェンジアップの4種類。これを丁寧に投げ分けました。いずれも"必殺"ではありませんが、この多彩な変化球がマルチ投手としての活躍を支えたのです。

 メジャーリーグのカージナルスやカブスで活躍した後、10年に古巣オリックスに戻った田口壮選手(現オリックス一軍コーチ)に攝津評を聞いたことがあります。「彼は日本のロジャー・クレメンスですよ」とべた褒めでした。ロジャー・クレメンス投手といえば、メジャー通算354勝、サイ・ヤング賞を史上最多の7度受賞したレジェンドです。さらに田口選手は続けました。

「もちろん攝津にクレメンスほどの剛速球はない。でもピッチングの巧さはクレメンス級です。特に厄介なのが内角のシンカー気味のボール。ヒザ近辺の落ちるボールはまず打てません。ここは見逃さなければならない。加えてチェンジアップもいい。浮いてこないから失投になることが少ない。自分の思い描くとおりに投げられる数少ないピッチャーのひとりだと思います」

 プロ野球に限らずどの世界でも成功するためにはオンリーワンの武器が必要です。それに反し、攝津投手のように「これぞっ!」というウイニングショットを持たないにも関わらず、4億円プレーヤー(14年~)にまでなれたのは、打者に的を絞らせないオンリーワンのテクニックがあったからでしょう。

 大相撲の世界には"なまくら四つ"という言葉があります。左四つでも右四つでも同じように取れる器用な力士のことを指しますが、一方でこれといった型を持たない力士、すなわち"器用貧乏"の代名詞として使われることもあります。どんな変化球でも器用に投げ分けられる攝津投手は、言ってみればプロ野球界の"なまくら四つ"ですが、最優秀中継ぎや沢村賞に輝いていることを踏まえれば"器用長者"と言えるかもしれません。地味ながら味のあるピッチャーでした。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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