スタジアムに虹を架ける男・大谷翔平。岩村明憲「下半身始動」で量産態勢へ【二宮清純コラム】

2021年4月16日(金)更新

15:00

スタジアムに虹を架ける男・大谷翔平
岩村明憲「下半身始動」で量産態勢へ

　メジャーリーグに移籍して4年目のエンジェルス大谷翔平選手、昨季悩まされた肘のケガも癒え、いよいよ“二刀流”全開です。投手としては1試合に登板し勝ち負けなしですが、打者・大谷は絶好調。14日（日本時間・以下同）のロイヤルズ戦では4号ホームランを含む3安打を記録し、連続安打を6試合に伸ばしました。ホームランはこれで日米通算99本。大台まであと1本です。

外野手は一歩も動けず

　打者として昨季は打率1割9分、ホームラン7本に終わった大谷選手ですが、今季は開幕から絶好調です。

　3日のホワイトソックス戦で今季初安打となるホームランを放つと、2日後のホワイトソックス戦では第2号を右中間スタンドに放り込みました。この試合、大谷選手は「2番ピッチャー」でスタメン出場。メジャーリーグ公式戦でDH解除による投手の出場は2016年、ジャイアンツ時代のマディソン・バムガーナー選手（現ダイヤモンドバックス）以来、5シーズンぶり。「2番ピッチャー」は、1903年のジャック・ダンリービー投手（カージナルス）以来118年ぶりでした。

　その後も大谷選手は打ちまくり、10日のブルージェイズ戦で3号、そして14日に4号を放ちました。この4号ホームランは飛距離131メートルの特大弾でした。エンジェルスが2点ビハインドで迎えた5回表、2死ランナーなし。1ボールからロイヤルズの先発左腕マット・ダフィー投手が投じた2球目でした。やや甘く入ってきた低めのスライダーを捉えた打球は、打った瞬間、それとわかる一打。外野手は一歩も動けず、白球は右中間スタンドに飛び込みました。

　打たれたダフィー投手、試合後に大谷選手をこう評しました。

「スライダーが甘くなって、その代償を払うことになった。彼はとてつもない才能がある選手。投打どちらも一流の選手との対戦というのはなかなかできないこと。間違いなく特別なプレーヤーだ」

　大谷選手はここまで11試合に出場し、打率3割6分4厘、4本塁打、12打点。NHK BSのメジャーリーグ中継で解説を務める岩村明憲さん（レイズなど。現BCリーグ福島監督）に話を聞きました。

　岩村さんは175センチと小柄ながらパワフルなバッティングが身上で、ヤクルト時代の2004年には44ホームランを記録しています。レイズ時代は、レッドソックスの本拠地フェンウェイパークの“グリーンモンスター”と呼ばれるレフトフェンス（高さ11.3メートル）越えのホームランを2度も放ったことで有名になりました。

「長いリーチで完璧に」

「大谷の今日（14日）のホームラン、すごい当たりでしたが、実は真芯に当たっていないんです。芯の少し先に当たっています。それであの当たり、あの飛距離ですから驚きです。最初の内野安打は内野手が右に寄るシフトを敷かれショートの位置にいたサードに捕られましたが、快足を飛ばしてヒットにした。9回にはシフトで右に寄っていたセカンド左側を抜けるライト前ヒット。あれも鋭い打球でした。定位置ならセカンドゴロでしたから、相手としては悔しい一打でしょうね」

----今季、好調の理由は？

「去年に比べ、自信を持ってバットを振れている感じがします。下半身から始動することで、全身のタイミングが合ってきた。だから体が回転しやすくなっています。上半身と下半身の動きが合っていないと、ぎこちないスイングになるんですが、そういった兆しはまったく感じられません。あと彼は逆方向にも強くて大きな打球を打っていますが、やはりあれだけ身長（193センチ）があってリーチが長いと、外の球を完璧に捉えることができるんですよね。普通は届かないですよ。175センチの僕からしたら、うらやましい限りです（笑）」

　大谷選手はこれでメジャーリーグでのホームラン数を51本としました。日本人メジャーリーガーの通算本塁打数では城島健司選手（マリナーズなど）の通算48本を抜き3位に。上には117本のイチロー選手（マリナーズなど）、175本の松井秀喜選手（ヤンキースなど）がいます。

　以前、イチロー選手が大谷選手について「日本人の本物のホームランバッターというのは大谷だけですね」と語っていたことがあります。数年後の“ゴジラ超え”も視野に入ってきます。岩村さんに水を向けると、こう答えました。

「もちろん、可能性は十分でしょう。でも、過去の誰かと比べてというのはナンセンスですよ。まあそう言われても松井さんはいい人だからムッとはしないでしょうけど（笑）。僕は同時代で争っていない選手同士を比較するのは意味のないことだと思っています。道具も進化しているし、トレーニング方法だって新しくなっていますからね。誰かと比べてではなく、大谷という選手の今後を見守りたいですね」

　高い放物線を描く大谷選手のホームランを見ていると、雨上がりの虹を連想します。柄にもなくうっとりとした気分に浸ってしまうのは、そのためでしょう。

*文中データは4月14日時点。